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 もふもふのあったかーいコートに身をつつみ、同じく身をつつんだ可愛いシューちゃんをなでなでしてから外出開始だ。

 ドアを開けてああ、さぶい。危ない。魔法魔法。ふぅ、あったかい。


「さ、行こ」

「……うん」


 気負ったようなシューちゃんに対してできるだけ軽く呼びかける。手をつないでるけど、まだ固い。大丈夫かな? 初めての外出だし、簡単にはいかないか。


「で、シューちゃん、どっちから行けばいい?」


 シューちゃんの家は、東塔と呼ばれるらしい。元はおじさんの大きな家の敷地内に侵入者がこないか見張るためのものだったらしい。見張り用だけあって、端っこにあるらしい。塀までは100メートルくらい離れてるけどね。おじさんがいるという建物も結構遠い。1キロは離れてないと思うけど、間に木々もあるから塔にあがらなきゃてっぺんしか見えないし。

 塀はあるので、これに沿っていけばそのうち門はあるだろうが、裏口からこっそりでるのが望ましい。


「こっち」


 シューちゃんに引かれるまま歩くけど、なんで塀に向かう? あ、もしかして壁に見えるけど、実はここ回転扉みたいになってるとか?

 やばい。テンションあがるわー。


「ん」

「んんっ!?」


 シューちゃんが繋いでない方の手を塀に当てると、塀にちょうどドアくらいの大きさの四角い穴が空いた。


「えっ、魔法すごっ。今の何魔法?」

「移動魔法。壁の一部だけを切り取って移動させた」

「移動? どこに?」

「塀の中に。その分全体に少しだけ高くなったと思う」

「え」


 ど、どういう理屈? これが水の壁なら穴の部分から移動して回りに行くってのはわかる。でもレンガの塀で、特に石の並びが変わったとかここだけ高くなったとかでもなく、全体に?


「はー、魔法凄っ」


 理屈全然わからないとか、さすが魔法。物理法則無視しすぎ。


「行こう」

「そうね。気を取り直して、出発シンコー!」

「おー」


 お、のってくれた。シューちゃんも大分私に慣れたのかな。


 手を繋いだまま意気揚々と、私は塀をくぐった。通り抜けてすぐにシューちゃんは塀を戻した。ほんとに凄いけど、凄すぎて不法侵入とか泥棒し放題

じゃない? どうなってるんだろ。


「街はあっち。森の中を通れば見つからないし、真っ直ぐだからすぐだよ」

「距離はどのくらい?」

「うーん…歩いたことないからわからない」

「そっか。じゃあ頑張ろう」


 まぁ異世界の防犯事情はひとまず置いとこう。今はそれより街だ街! 塀の向こうも森があってちょっと離れて街があったので、歩いて一時間くらいだろう。付いたらすぐお昼にしよう。


 なにがあるかなー。異世界の料理楽しみー!









「はぁ、思ったより遠かったわね」

「そう?」

「うん。でも結構歩いたわりにそんなに疲れてないし、シューちゃんは平気?」

「大丈夫」

「よしっ、じゃあどんどん行くわよ」

「うんっ」


 異世界にきて、自覚してなかったけど体力ついたのかな? はっ、もしや魔法の恩恵? なんにせよラッキーだ。


 街は塀で囲まれていて、入り口には兵士っぽいのもいてかなりドキドキしたけど、普通にスルーされた。よかった。

 それにしても、街が塀で囲まれてるとかまるで街が一つのお城とかみたいだ。雪崩に備えてこのあたりでは高く頑丈な塀が当たり前とは聞いてたけど、物語みたい。ほんとに異世界だなぁと今更シミジミ思う。


「あ、いいにおーい。さっそくお昼にしましょうか」 

「うん。ユウコはなにが食べたい? ユウコの食べたいものでいいよ」

「ありがと。でも私こっちの食べ物わからないし、シューちゃんこそ何かお勧めとかある?」

「……よくわからない」 

「そっか、じゃあ片っ端から行くわよ!」


 とりあえず大通りっぽい太くて両脇にそこそこお店が見える道を手をつないで歩く。雪国ではあるけど、よくあるちょっと寂れた商店街みたいだ。異国情緒がしてわくわくはするけど、シューちゃんの目の輝きには負ける。


「ねぇ、ユウコ、見て見て。あれなんだろう」

「露天商みたいね。見に行ってみましょうか」

「うんっ」


 テンション高いなぁ。シューちゃんは街に入ったあたりから絶好調だ。そんなに表情豊かではないシューちゃんだけど、笑顔が隠せてないレベル。

 シューちゃん見てると私も嬉しいし、やっぱりきてよかったと思う。もっともっと、外のことを教えてあげたい。ま、私もこの世界のことは知らないんだけどね。


 いくつか露天商を冷やかしてから、空腹もそろそろ限界だったので、気のよさそうなお姉さんにオススメの食堂を聞いた。


 大通りにある大きめの建物だ。何でも宿屋も兼ねているらしい。お昼を過ぎているのに半分くらい人がいるし、人気なのだろう。いいにおいだー。


「すみません、二人お願いします」

「いらっしゃいませ、そこ座って。注文は?」

「えっと、お姉さんのお勧め二人前で」


 30才くらいの女将さん? 店員さんかな。店員さんに声をかけ、指された席に着きながら注文する。メニューはわからないので万能呪文で。お勧めなら間違いはないだろう。


 しばらく待っていると湯気たつスープにパン、ジャガイモがゴロゴロしたお肉と胡椒の炒めもの、かな? 美味しそう。


「いただきます」

「いただきます」


 どうでもいいんだけど、逆に私がいただきますって言うと、シューちゃんから見たらすんごい早口でお祈り捧げてるように見えるのかしら。


「んっ、美味しい」


 はぁぁ、疲れた体に染み渡る。特にスープが美味しすぎる。なんだろー、この味。とろーっとしてて、温まるぅ。


 想像以上に満足する昼食をたべおわり、はたと気づく。こんなに美味しいのに、お金足りるかな。

 金貨は五枚。うーん、まぁ、さすがに一枚千円以下ってことはないよね。一万円くらいはあるはず。あってください!


「あのー、お会計をお願いしたいのですが」

「二人で1800円だよ」


 当然のように単位も同じだと、異世界感ないなぁと今更感じつつ、そっと一枚だけ出して様子を見ることにする。


「すみません、これ…」

「金貨かい、他に小さいのはないの?」

「ごめんなさい。今はこれしかないんです。使えませんか?」

「一応いいけど、お釣りが面倒なんだよねぇ」


 うざそうにしながらも、店員さんは一枚受け取ってくれた。よかった、足りた。それにやっぱり高価だったらしい。一万円くらいかな。じゃあ帰る前にお店回って、何かいいのあったら買っちゃおっかな。


 店員さんは何故か一度お店の奥に引っ込んでから戻ってきた。


「ほら、半金貨一枚と四分金貨四枚、銀貨八枚、銅貨二枚だ。間違いないか確認しな」

「はい。ありがとうございました。とってもおいしかったです。また来ます」












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