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「なにもないなー、ちょっとあっくん、ちゃんと探してるー?」
ユカナが腕の中のあっくんを揺らしながら話しかける。
「探してるわ。お前こそ最初のまぐれあたり見せろ。あれなんかの魔法だろ?」
「あれは隠し部屋の魔法のドアに反応しただけだし。隠し部屋そうそうないよ。普通の床下隠し部屋はすでに荒らされてたし」
一応、あっくんの指示で探した大きな瓦礫の奥にはもう一つ、昔の玩具みたいな魔法具が見つかったけど、一獲千金狙いのユカナには不満みたいだ。
「あっくん、次は?」
「おう、あっちのあの辺だ」
あっくんがちっちゃな可愛い手をぷいぷいさせて指差す。
「うん、わかった」
「シュリはほんとに真面目だねぇ」
ユカナはそう言うけど、馬鹿にされているのか褒められているのかいまいちわからない。
悪気とか0なのは口調でわかるし、褒められてると思っておこう。
「ありがとう」
「どういたまして。あっくん、私はどこ探せばいい?」
「お前はあっちな」
「へいへい」
今日で探索も4日目。明日で探索は終わりだけど、今のところあと一時間くらいで、実質最上階となるこのフロアも見終わる。
時間が余った分早く帰れるかな。ユカナと仲良くなれた感じはするし、ユカナと沢山お話するのも楽しかったけど、やっぱりユウコと早く会いたいな。
「ないなぁ…ユカナー、そっちはどう?」
「ないなー、ない。あっくん、次は?」
「んー、次が最後だな」
「ん? そう聞いてたけど、がれきと防犯扉閉まってるだけじゃん? シュリの魔法で何とかなるんじゃない?」
「なんねーよ、お前ら国なめんな。国の精鋭が調べつくして、瓦礫の向こうの魔法壁がどうしても破れないってんで解放されたんだ」
「んー? ……確かにこれは、私でもちょっと苦労するかも」
ユカナは何か魔法で見たらしく、難しそうな顔になる。私ではわからないけど、難しいらしい。
「仕方ない、諦めるか」
「……ねぇ、外からは入れないの?」
「おいおい、説明聞いてねーのかよ。外壁に触れると魔法が使えねーんだって」
「ユカナの飛行魔法で上まであがって、屋上から着地すればいいんじゃない?」
「は? お前飛行魔法使えんの? いやでもな、この高い塔の上まであがるほど魔力あるやつなんていねーから。国だってそのくらいためしてるっつーの」
「そうなの?」
「あー……いや、私ならいけるでしょ」
「ほんとかよ。言っておくが、戻ってくる必要もあるんだぞ」
「わかってる。てか、リアほどじゃないけど、30分くらいなら余裕」
「誰だよリア」
と言うわけでユカナと共に一旦外にでた。ユカナに魔法をつかってもらい、何の問題もなく屋上すれすれまできて魔法解除。着地した。
「屋上にも確かに表面には強制魔法解除になってるみたいだけど、破壊対策みたいだね」
「そうだね。普通に歩けるし、ドアも、うん、開くね」
「…いや、今ナチュラルにすげーことしなかった?」
「え?」
屋上には一部突き出ていてドアのついている部分があるので、普通に開けただけだ。壊れかけで、鍵のまわり部分とかなくて中が見える状態だから、指をいれて表面以外に触れた状態で、ちょっと跳ねて足を地面から離してドアを移動させただけだ。
特別変わったことはしていない。表面的にしか魔法かかってないからできたことだ。
「いやぁ…まじで便利だよね」
「そう? ありがと。ユカナの飛行魔法もすごいよ。さ、行こう」
「おー、さーて、何がでるかなー」
「魔力反応はどのあたりからするの?」
「上から三分の一くらい? でも上から探した方がいいのかな?」
「とーぜんじゃねーか! おら! さっさとそこから探せ! 匂うぜ匂うぜ!」
「うぜぇ」
「まぁまぁ、まだ時間はあるし、いいじゃない」
「しゃーねーな、どこだよ」
「こっちだ!」
○
「ついにきた。あそこのおっきいドアの向こうですげー感じる」
「だな。ありゃまじすげぇ」
結局昨日はこのフロアまでたどり着かず、荷物と共に馬車へ戻り説明をすると興奮した先生と共に、最終日となる本日は全員で屋上から入った。
「ドアあかねー、壊すのは危ないし。シュリ先生! お願いします!」
「うん。任せなさい」
吹き飛ばすことはできるけど、中が吹き飛んだら洒落にならない。シュリに頼む。シュリはこっくりとやや仰々しく頷いて前にでる。
よしよし、のりがわかってきたじゃないか。
「ん、あ、だめ。このドア、魔法通じないみたい」
「マジで!?」
やっべ、どうしよう!? こうなったら壊すしかない!?
「うん、だから横の壁からあけるね。よし」
……シュリの魔法って、泥棒し放題だよね。音もなく戻せるし、隠密行動に向きすぎ。暗殺者の家系じゃないだろーな。
「お、おおおおっ! すっ、すごいぞ!」
「先生! これはいったいなんなんですか!?」
「わからん! でもなんか凄そうだろう!?」
部屋に入って直ぐに歓声を上げる先生に挙手をして質問すると、何故かいい笑顔で即答された。
めちゃくちゃいい加減じゃん。なんでそれで感動出来んの。涙ぐんでるし。
「なんだろう、でもなんだか、チャータさんじゃないけど、すごいね。すごいって感じがするね」
「わかるけどさ」
確かに、ど真ん中にある大きな装置は問答無用で凄そうな感じだけど、語彙なさすぎでしょ、私ら。
「とにかく大発見だ! さすがに部屋ごと運び出せないが、発見者として申請すれば調査員の資格がもらえる! 君たち! 本当にありがとう!」
「いやぁ、いいんですよ。お金さえもらえれば」
「もちろんだとも! 発見者として報奨金はもちろん、私も財産と今後の研究から時間はかかるが、ある程度の給金を約束しよう!」
「まじすか!? じゃあ1億ください」
「えっ……ほ、報奨金は5000万だから、少し時間をくれれば、ああ、最終的には一億を約束しよう!」
まじか!? よっしゃぁ! 目標達成だ!
「そうはいかない」
「え?」
私が先生と感動の握手をしていると、水を差す声がした。突然現れた訳ではないが完全に影が薄いのでわすれていた、もうひとりの雇われ人だった。
そいつは私たちにむかって、剣を向けていた。
○