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今日の予定は家と仕事探しと2人にも伝えてある。朝食を食べたら早速探しに行こう。身支度を整えつつ、結花奈が話をふってくる。
「てか、今リアルにいくらぐらいあるの?」
「結花奈の1億除いて2人で貯めた残りは約180くらいね」
「え、180円?」
「わざとでしょ。万がつくわよ」
「でも二年だよ? 少なくない?」
「働いたのは1年と2ヶ月くらいだし、そこまでの旅費をシューちゃんに返してだから」
それに安いとはいえ家賃と、食費はちょっと多めだったかも知れないけど、住むとなると税金も払うから2人合わせて生活費は毎月だいたい10万円だ。お客さん増えたってことで後半お給料も増えたけど、最初のころは月12万くらいだったから平均で15くらいか。
生活費としてシューちゃんの稼ぎも全部私が渡されて管理してるから、シューちゃんあわせての貯金だ。ここまでの旅費三人分も使ったし、そんなものだろう。
むしろ日本だと魔法がないから電気代とかその他もっとかかるし、税金ももっととられるから、まだかなりマシなはずだ。
「ていうか、シュリへの借金シュリの稼ぎからも返してない?」
「そ、それはないけど……」
それはないけど、まぁシューちゃんに返した分シューちゃんの稼ぎ分をより頼ってるというか、貯金の多くがシューちゃん分の気も。
借りた100万のうちつかったのは50万。シューちゃんより50万の合計稼ぎ金額に差がでることになる。
「一緒に生活してるんだから、いいの。私の方が負担してたとしても、ユウコが家事もいっぱいしてくれてるし、お金の管理とかもしてるんだから、いいの」
「シューちゃん……愛してるっ!」
「はいはい。二人で納得してるならいいよ、別に」
というかね、結花奈の1億円返す目処が全くつかないのですが。うん、まぁ、頑張ろう。
「まぁ、それだけあれば家借りれる、のかな?」
「借りれるわよ、普通に。でもどんな家にしましょうか。三人で馬力も増えるし、寝室と居間をわけるくらいはしてもいいかしら」
さすがにもう同じベッドは狭いし、部屋だけでも一間だと狭く感じるしね。同じ一部屋でも大きいならましだけど。
「とにかくお店に行ってみようよ。あとお仕事も探して相場を見ないと」
「そうね。次はどんな仕事がいい?」
「んー……わからない」
「あたしは石油王かなー」
「はいはい」
「んだよー、冷たいー」
冗談を言う結花奈をあしらったら不満げにわき腹をつついてきた。くすぐったいので片手でやめさせながら、真面目に答えてあげる。
「結花奈は元気で可愛いから接客業が向いてるんじゃない?」
「えー、そうかなー? でもわたくし、人にへいこらするの向いてないからー」
「仕事舐めてるの?」
「ごめん、冗談だから。本気で冗談だから、そのブチ切れ直前の顔やめて」
どんな顔よ。でも本気でムカついたから正解だけど。
とにかく今日は仕事と家探しに出発だ。部屋をでて、女将さんに不動産の場所を聞いて宿屋を出た。
「てか、優姉は働かない方がいいんじゃない?」
「え、なんでよ?」
宿をでたところでまだ何も決まってない状態で突然結花奈がそんなことを言う。
歩き出しながらも首を傾げて聞き返す私に、結花奈は呆れたと言わんばかりに半眼で私を見ている。
「いや、なんでじゃないよ。何しに来たかわかってる? 生活しにきたんじゃないよ?」
「そうだね。ユウコは図書館通いを仕事にした方がいいかも。生活費は私とユカナで十分だし」
「そゆこと。あと家事担当してくれれば十分でしょ」
「うん。私も手伝うけど、お願いね」
「シューちゃんまで…うーん、まぁたしかに、言われてみればその通りね。わかったわ。お言葉に甘えて、調べ物に専念させてもらうわ」
2人に言われてみれば、確かにそうだ。私たちは別にここで生活の基盤を固めるためにきたわけじゃない。あくまで帰ることが目的だ。
ここまで言ってくれるんだから、頑張らなきゃ!
と決意を新たにしつつ、私たちは不動産へ向かった。
○
「この部屋にします」
「早っ」
即断即決。前の部屋もそれで決めて問題なかったし、大丈夫のはず。そもそもお店で十分吟味した上での下見だしね。
「はい、はい、では契約完了です。さっそく明日から住めるよう手配しますので」
というわけでさくさく決めた。
なんと、お風呂トイレ付で南向きの大きめのベランダありの二部屋、しかも備え付けで家具冷蔵庫洗濯機つき。お値段なんと、5万円。
いやまじで。二部屋でも前のアパートの3倍ほどの広さで、豊富な家具用品。十二分どころじゃなく価値はあるのに、お値段は二倍以下だ。お値打ちすぎる。
と言ってもまぁ、実はそう特別なことではない。家具用品付きは、この街に限って珍しいことではない。むしろこのマンションは築40年でちょっと古くて、家具用品もちょっと年期ものだ。
そしてもっともここが安い理由だけど、五階立ての五階だけど、レールがない。なので自力で階段をのぼらなくちゃいけないので、不人気なのだ。私たちはレールがないのが自然だし、五階くらい大したことはない。最悪魔法で跳ねればそう苦でもない。
「優姉は変なところで潔いというか、男前だよね」
「やぁね、褒めてるの?」
「一応ね」
手続きを全てすませるといい時間だったのでお昼にした。それからシューちゃんと結花奈は職探しに、私は川へ洗濯、もとい図書館へ勉強に行きます。
さーて、頑張りますか。教科書は真っ当に魔法陣の勉強からするべきか、はたまた別視点のユニパル国にアプローチするべきか。悩むわね。
ま、時間はたっぷりあるんだし、まずはユニパル国からじっくり調べるとしましょう。
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