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80 魔法使いの街

「うわ、なにこの街」


 思わず立ち止まってしまって、門番の人に睨まれた。口を押さえつつそそくさと門を離れる。


「ふぅ、危ない危ない。口にだすところだった」

「もう口に出してたよ。でも、ユウコじゃないけど、すごいね。話には聞いていたけど、まるで物語の国みたい」

「だね。私も最初は驚いたよ」


 マルイ国内に入国して2つ通り過ぎた村は規模のわりに魔法具とか多いなぁとは思ってたけど、ジルカル街は規格外だ。

 まず、建物が高い。なんということのないよくある家みたいなのに、それぞれ10階はゆうにありそうだ。微妙に真っ直ぐじゃないし。

 そしてなにより、嘘みたいだけどみんなが杖を持っていた。歩行補助じゃなくてもちろん魔法用のものだ。しかも何人か飛んでるし。普通に飛んじゃうの?

 魔法の国というイメージを裏切らない、他国とは明らかに印象が異なる魔法の街だ。全国どこでも魔法はあるのに、なんでこんなに違うのかしら。


 目的は図書館だけど、別にそれほど急ぐわけでもない。私たちは宿を確保して荷物を置いて、観光に飛び出した。


「ねぇ、結花奈、普通に飛んでるんだけど、飛ぶのって難しいんじゃないの?」

「そりゃもちろん。あれは飛行魔法じゃないし、自由に飛べる訳じゃないよ」


 すでに来たことがある結花奈に聞くと、どうも見えないけど風のレールみたいなものがあって、そこに自分の杖を乗せて魔力をこめれば、特別な魔法を使わなくてもできるらしい。

 レールにはもちろん、風魔法だけでなく重力魔法とか複合されたかなり難しいものだけど、利用するのは簡単らしい。


「へー、のってみたいわ」

「いいけど、私が普通に飛行魔法かけたことあるじゃん」

「杖は別よ」


結花奈の魔法で空を飛んだことはあるけど、それとこれとは話が別だ。杖で飛ぶって魔法使いっぼいじゃない!


「シューちゃんものりたいわよねぇ?」

「うん。のりたい。杖って借りれないの?」

「うーん、確か杖屋はレンタルもしてたはず。行ってみようか」


 結花奈も杖屋は通りがかりに見ただけらしく、ぶらぶらしながら杖屋を探す。途中、用はないけど薬屋にも寄ってみた。

 他ではない、遊び用みたいな変わった薬もあった。たとえば途中で味が変わる回復ドリンクとか。噛みごたえのあるゼリータイプの薬とか。または効果が変わってて、一時的に声をかえるとか、瓶ごと投げつけて空気に触れると爆発音がして蒸発するだけとかバラエティに飛んでいて、雑貨屋に近い感覚だ。


「あのー、優姉? 楽しそうなとこ水さして悪いけど……買わないでよ?」

「わ、わかってるわよ」


 わかってる。回復魔法を結花奈は使えるし、殆どのものが結花奈かシューちゃんの魔法で代品可能だ。でもちょー欲しい。

 こういうお遊びもの大好き。実用一辺倒の無骨なものももちろん心惹かれるけど、こういう全く役に立たなさそうなものも好きだ。

 でも今は旅中で無駄に荷物を増やせないし、貯金切り崩し生活だから無駄遣いの余裕もない。残念だけど断念するしかない。


「はぁ」

「ユウコ、そんなに欲しいの?」

「シュリ、甘やかしちゃ駄目だよ。優姉は世話焼きモードじゃないときはわりと甘えただから」

「でもそういうとこ、可愛いし」

「うん、甘やかすな」


 ……コメントは控えておく。結花奈の発言には突っ込もうかと思ったけど、今口出ししてシューちゃんの発言に照れてるのがばれたらやっかいだ。

 さらっと褒めるのやめて。普通にありがとう、とはもう意識しちゃって返せないから。


 あー、てかどうなの私。あれから、たまに二人きりの時にシューちゃんから手を繋がれたり腕をくまれたりそっと寄り添われたりする。そのたびにドキっとする。

 自分からだと全然意識しないんだけど、シューちゃんからだとなんかこう、ちょっと雰囲気が違ってそれにのまれるというか、毎回反応してしまう。

 これ、私どうなの? シューちゃんに本気で恋心的なの持っちゃってるの? 

 すでに隊長さん相手にもどぎまぎしてまんざらでもないと考えた過去があるので、自分が押しに弱くて恋愛チョロキャラな自覚はある。あるからこそ、このドキドキが本当なのか、考えないといけない。

 シューちゃんのことを本当に好きなら、私はこれから沢山のことを考えないといけない。


「ユウコ? ぼんやりしてどうしたの?」

「ふぇっ、な、なんでもないわよ?」

「優姉、そんなにそれ気に入ったの?」


 無意識に手でいじっていた手触りのいい包帯から手を離す。ちなみに血液に反応して自動的に巻かれる仕組み。


「い、いやぁ、これほら、戦闘中に怪我しても便利かなぁって」

「旅中だって普通の獣だし、絶対いらないと思うんだけど」

「そ、そうよね。うん、わかってるわ。そろそろでましょうか」


 危ない危ない。こういう考えごとは寝る前にでもじっくりしましょう。


「さぁ、いよいよ箒ね」

「え? 箒?」

「杖だから。なに魔女気分になってるの」

「い、言い間違えただけじゃない」


 杖ね、杖。というか、考えたらなんで箒のイメージ持っちゃってるのかしら。魔法を使うのは杖で、飛ぶのが箒とか不便よね。


「ユウコは箒で飛びたいの? 箒でもできなくないと思うけど」

「い、いえ、いいのよ。ほんとに言い間違えただけだから」

「そう?」

「ええ、そう」


 確かに箒で飛んでみたい気もするけど、みんな杖の中ひとり箒とか浮くわ。小市民な私は右に倣えが一番よ。


「あー、あった、あれだよ、杖屋」

「おー、すっごいわね」

「外からもよく見えるね」


 結花奈が指差した先にあったのはガラスごしに中が見えないくらい、杖が並んでる。

 ん? ていうか


「窓ガラス、向こう側すけてない?」

「え、今更?」

「この街、全部そうじゃない? 私さっきからすごいなーと思ってたけど」


 この世界の窓ガラスはちょっとだけ曇っている。だから一般的に窓といえば、見づらいガラスがはいってるか、ガラスなしで空洞の窓部分に魔法で蓋をしてるの二つに一つだとばかり思ってた。

 めっちゃ普通にあった。というか、当たり前にありすぎて気づかなかった。










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