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こちらの世界に来て3日が経過した。我ながら単純だと思うけど、生活には大分慣れた。家事はいつもやってたし、シューちゃんの家内だけの生活なので当たり前っちゃ当たり前だ。
「ユウコ、これが終わったら休憩にしよう」
「そうね。そういえば、そろそろ食材がなくなるけど、例の食材が補充される日っていつ?」
「今日。もうされてるかも」
「じゃあ後で取りに行こう」
「うん」
私は一気にシューちゃんが提示した例文を訳していく。アルファベットに近いので形を覚えるのは難しくない。一応丸3日、ひたすら頭の中で繰り返したので文字単体ならゆっくりとなら書けるし読める。
単語を読めてもそれが何かはわからない。言葉にだせばシューちゃんには通じても私自身にはわからない。シューちゃんが復唱すれば日本語に聞こえるけどね。意味なさすぎ。
アルファベットが読めても単語は別なのと同じだ。なかなか習得はすすまない。まだ6日だし当たり前だけど、言葉だけで何ヶ月もかけてられない。長くても一年以内に帰りたい。一年なら留年してもまだいいけど、成人しても高校生なんて嫌だ。
「できたっ」
「うん。あってるよ。さすがユウコだね」
「いやぁ、照れますな」
「うん、さすがユウコ」
あ、いや、さすがに本気で褒められると逆に気まずいのですが。私は気まずさに頭をかいて誤魔化しつつ、立ち上がる。
「さて、じゃあ補充して、ご飯一緒につくろうか?」
「うん」
「そう言えばシューちゃん、おじさんに紹介してもらうのっていつ頃なの?」
「…まだ先、かな」
「そうなの。さすがに1日2日ならともかく、しばらく厄介になるわけだし、保護者の方に無断でって訳にもいかないからね」
「そ、そうだね。でもおじ様はお忙しい方だから」
「うん、もちろん。時間がある時で十分だけど」
うーん、なんだかやや、穿ちすぎと言われるかもだけど、シューちゃんが私をおじさんに会わせたくないように感じる。
最初はすぐに会わせるって言ってたし、シューちゃんをひとりにするのはあれだけど、魔法のことをシューちゃんから教わって病気だから少しは仕方ないかと思うし、多分悪人ではないだろう。
もしかして、と理由を考えつかなくもない。もしかして、独占欲だろうか。または悪人ではなくてもシューちゃんといられなくなるかも知れないのか。まぁそれなら私も困る。
てなわけで、形ばかりに挨拶とか言いつつもシューちゃんがいやなら別にいいかなとか考えてます。
いいじゃない別に。シューちゃんだってお年頃なんだから、ペット拾うくらい普通。たまたまお姉ちゃん拾っただけだし、普通普通。………ごめん、ちょっと無理あったわ。
「外は寒いから、上着きて」
「ちょっとくらい大丈夫でしょ。この服温かいし」
「でも」
「ドアの脇なんでしょ? 大丈夫大丈夫」
シューちゃんはそんなに身長変わらないから服を借りてる。帰る時に制服ボロボロになってたら嫌だしね。大きめの服が多いのでぴったりだ。
うーんと渋るシューちゃんだけど、わざわざ隣の部屋から服をとってくるのも面倒だし、大丈夫でしょ。
オープンざドア。
「さぶっ」
「だから言ったのに。……その、手、貸して」
「うん?」
ドアを閉めたい欲求を我慢しながら手をだすと、シューちゃんが私の手を握る。触れた瞬間、寒さが嘘みたいに、体が暖かくなる。
「わ、なにこれ」
「温もりの魔法だよ。ここらへんでは外出する時には必須なの」
「便利ねぇ」
窓の近くでも全然寒くないから油断していたけど、考えたら隙間風とか全くないのも魔法があるからか。
シューちゃんと手をつなぎ、今度こそ外に出る。風はやや強いけど雪はやんでいる。
玄関ドアの陰になるような隅に、私がはいれそうなくらい大きな木造のもの入れ。小学校の時の焼却炉脇の大きなゴミ箱を思い出させて、ここからご飯をだすと思うとなんだか微妙な気持ちになる。この寒さだし冷蔵庫いらずなのはわかるけどね。
手を離せないけど片手であけるには大きいので、シューちゃんと顔を見合わせて片手ずつ手を添える。
「せーので開けましょう」
「うん」
「せー、ととっ、ちょ、早いわよっ」
「え? だってせーのでって」
またか。私にはせーの、と聞こえるのもシューちゃんには二文字の何かに聞こえているんだろう。翻訳魔法は微妙に不便だ。せめて文字も翻訳するなら合格点なのに。
「よし、1、2、3であげましょう」
「わかった」
今度こそ成功だ。
「おお。いっぱい入ってるね」
「うん。おじ様に、最近食欲があるからって、多めにお願いしたの」
「そう、ありがとうね」
めっちゃ隠されてるし。そんな気はないだろうけど、こっそり拾われた犬な気分だ。
「さて、じゃあ今日明日の分くらい運びましょうか」
「うん」
お昼つくったら、午後からは魔法の練習とかしなきゃね。シューちゃん対策はばっちりだけど、他のは全然できる気配ないし。
さっきの温もり魔法だけでも使えるようにならなきゃ。
頑張るぞー!
○