63 再会
先日、見るからに化物らしき魔物が突然南大陸へ飛んでいってから、魔物の様子がおかしい状態。
魔物の様子がおかしい、というか、むしろ魔物の様子が見れない。あの日から、魔物がいっさい姿を見せない。
「勇者が魔王を倒したんだ!」
人々は歓喜した。街は一転してお祭り騒ぎが続いてる。
伝承によると魔王を倒した瞬間に世界から魔物がいなくなり、また魔王が現れるまで魔物はでないとのこと。
それは喜ばしいことには違いない。魔物がおそってこないだけで、安心して外にでれる。街の外にだっていける。漁も狩りも旅も、ずっと安全だ。
でも結花奈の顔を見るまで、私は諸手をあげて万歳なんて言えない。早く帰ってきて。
と願いつつ朝ご飯を済ましてから新聞を買ってきて自室で読んだけど、帰還の知らせはない。
「そろそろ1ヶ月ね……ねぇ、シューちゃん」
「駄目だよ。待ってるって言ってたんだから、迎えにいって入れ違いになったらどうするの」
「そ、そうだけど…でも遅いじゃない! もし魔王との戦いで負傷して、助けを待ってたら…」
「生きてさえいれば、一晩休めば魔力も回復するから、身動きとれないなんてことないってば」
「でも」
「単純に、遠いから時間がかかってるんだよ」
「うーー、わかってるわよー」
わかってるけど落ち着かない。回復魔法だって万能じゃない。たとえば指を切り落として、現代の手術と同じですぐにくっつければいけるけど、一晩も放置したら絶対もうくっつかないし。
「はーーー、結花奈ぁ」
頭ではわかってても、早く会いたくて会いたくて、あーー、心配だ。魔王倒して安心したからこそ、またちょっと心配だ。
「……ユウコは本当に、ユカナが好きなんだね」
「そりゃそーよー。妹だもの。はぁ」
「でも血は繋がってないんだよね?」
「ええ。でもそんなの関係ないわ。そうっ、私とシューちゃんが姉妹になれるようにね!」
「私は別に、ユウコと姉妹じゃなくてもいいけど」
「え、ちょっと待って。その台詞って捉え方によったら私の今までの言動がそうとう痛くなるんだけど」
え、独り相撲? 同居してるし完全に家族感覚の保護対象として見てたけど、シューちゃんはただの友達? あ、いや、せめて親友にしようか。
親友にしても、うーーん。ま、いいか。
「よし、じょあ今から妹ね」
「妹分ならいいけど」
「ん? うん、なら妹分で」
え、妹と妹分ってなんか違ったっけ? 妹分ってついたら、実の妹ではないけど、まぁそりゃ元々仕方ない。ん? 別にかわらないし、シューちゃんが言うならそれでいいか。よしっ、これで正式にお姉ちゃんぶれる!
「………はぁ、シューちゃん、ちょっと抱きしめさせて」
「え、い、いいけど」
「ありがと」
シューちゃんの後ろにまわって、足の間にシューちゃんをいれるようにして背後から抱きしめる。頭を撫でながら全身抱きしめる。
満足するまで頭を撫でたら髪の毛に顔をうずめて、両手をシューちゃんのお腹にまわしてそっと抱きしめる。
シューちゃんとくだらない話をして、無理やりテンションあげても駄目だ。続かない。
ま、シューちゃんが姉分と認識してくれてなかったのはそれはそれで、ほんとにちょっとはショックだけど。
でも実際、別に名前はなんでもいい。妹分と定義したって関係はかわらない。友達でも親友でもただの同居人でもいっそ娘でも、私とシューちゃんの関係に名前をつけてもつけなくても、私はシューちゃん大好きだし、シューちゃんもそのはずだ。
「うー、シューちゃんいいにおい。ちょっと、何の石鹸使ってるか教えてよ」
「お、同じのだよ」
「わかってるわよー」
「もう、からかってる?」
「ちょっとだけ。でもいいにおいなのはほんとよ」
「……ユウコも、いいにおいだよ。私、好きだな」
「ありがとう。はーー、よし、シューちゃん成分も補充したし、買い物でも行こっか」
「うん」
お皿を片付けて、気分を変えて出かけることにする。
今日も元気に行くぜ!
「シューちゃん、買い物がてら晩御飯の材料も買っちゃおっか。今日は何がいい?」
「うーん、そうだ。ハンバーグは?」
「えー、それもねぇ」
魔王が倒されてからしばらくは毎日ユカナのため、ハンバーグをつくって用意してた。
ご存知の通り、魚よりお肉はお高いので家計も圧迫された。シューちゃんが希望するならそれでもいいけど、ちょっと飽きてるんだよね。
どうしようかと考えつつ、玄関をでて鍵をかける。
「シューちゃん、ハンバーグ好き?」
「うん。でもそれよりユウコも、ユカナがいつ来てもいいように、作っておきたいでしょ?」
「そりゃあ、気持ちとしてはねぇ」
アパートをでて、立ち止まって真剣に考えてみる。そろそろ1ヶ月。考えたらそろそろかも知れないし、ハンバーグもお肉の種類とか違うし、もう少し配合の練習した方がいいかも知れない。
頑張った結花奈のため、最高のハンバーグをつくってあげたい。
私は止めてた足の動きを再開させて、横のシューちゃんに指をたてつつ宣言する。
「よし、じゃあ今日のメニューはハンバー」
「優姉!」
「えっ……ゆ、結花奈…っ!?」
後ろから呼ばれた、懐かしい呼び名に、私は飛び上がるようにして振り返る。
心臓が急激にばくばくと動き出す。
「ゆ……、ゆか、な」
振り向くと、10メートルほどのところに、小さな影があった。
髪が伸びて、ちょっと汚れたローブみたいな冒険者的服装をして、腰から剣をさげて、最後にわかれてからすっかりかわっていて。
でもそんなの全部吹き飛ばすくらい、前のまま、結花奈だ。
「結花奈っ!」
走り寄って抱きしめる。私が走り出した瞬間に結花奈も走ったから、三歩くらいで結花奈を抱きしめられた。
ぎゅうっと痛いくらい抱きしめられて、負けないくらい痛いくらいに抱きしめ返す。
「優姉! 優姉! 優姉! 優姉ぇぇぇ!!」
「結花奈! 会いたかった!」
手も足もかけてなくて、結花奈のままだ。結花奈。すっかりかわって、でも揺れる髪からはほのかに、昔のままの結花奈の匂い。小さくて柔らかくて、温かい、昔のままの結花奈だ。
「わ、わたしも、あ、あい、あいだがっだよーーー!」
結花奈が号泣するから、私もたまらなくて、涙がとまらなくて、泣きながら抱きしめる。
無事でよかった。ほんとに、よかった。ありがとう。生きててくれてありがとう。
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