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「魔法というのは、要するに体内の魔力を一定の法則に則って変換することをさしてるの。基本的に人間の中にその法則自体が入っているから、簡単なものなら呼吸するくらいに当たり前にできるよ。ただ備わっている以外の法則を使おうとすると、魔法陣という形で法則を書いたものを使用する必要があるの」
日があけて、朝ご飯を食べてから私はシューちゃんから昨日のことの説明も含め、魔法講義を受けることになった。
説明を聞くに、昨日私は無意識にシューちゃんの魔力を吸い取っていたらしい。シューちゃんは時折魔力が漏れでてしまう病気で、その際強く痛む。気絶したり、意識があっても魔力が暴走し、勝手に魔法になることがある。そうなると漏れている魔力に引火して爆発する。
今までは意識がある時に起こると、耐えれば爆発しないがたまに爆発するし、寝ている時に起こるとほぼ爆発するので隔離されていたらしい。
うーむ。原理はよくわからないし、シューちゃん自身に命の危険はなくても、苦しくて人が近づけない不治の病のようだ。
昨日私が無意識でしていた魔力吸収さえあれば、発作が起きても爆発の危険がなくなるのだけど、その魔法法則を魔法具にするどころか、自分で使うのさえ前途多難そうだ。
シューちゃんが言うには、簡単なものなら誰でも当たり前につかうので、魔法の使い方自体は教わるものではないらしい。わざわざ呼吸の仕方を教わらないようなもので、私にも教えようがないとのこと。
「昨日は、なんとなーく、吸えればいいのにって思っただけなんだけどなぁ」
朝ご飯を食べてからは何度となく、一番簡単だという火種をつくる、要するに火の玉をだす魔法に挑戦してるけど、全くちっともうんともすんとも反応しない。
「うーん、なんか一つくらい、コツとかないの?」
「……じゃあ、魔法陣で試してみる?」
「魔法陣? いいけど、そんなにすぐできるものなの?」
「簡単なものなら……」
シューちゃんは立ち上がり棚から紙とペンらしきものを取り出し、また私の隣に座る。ペンらしきもの、というのは羽だから。というか、書くなら机に移動した方がいいんじゃないかしら? 暖炉の前で座ってというのは話するにはいいけど、書けるの? 床はふわふわ絨毯だし。
「おお」
紙とペンが宙に浮いて、自動的に魔法陣っぽい絵が! やばい。これは凄い魔法っぽい。異世界っぽい。
「はい。これは雪を消す魔法が書いてあるから、窓の外の雪ならどこでもいいから、やってみて」
「おっけー、了解っす」
受け取る。さっきのは超能力っぽかったけど、こうして魔法陣見ると魔法だーって感じする。テンションあがるなぁ。
「そういえば呪文とかってないの?」
「呪文? ああ…そう言えば、法則を口に出すことで代用する方法もあるよ。でも難しいし、やってる人は少ないよ」
「そうなんだ。えーっと、魔法陣はどうつかえばいいの?」
「肌が直接触れてる状態で魔力を流せばいいんだけど、えーっと、雪を見ながら、そういうイメージをしてみる、としか」
「うん、ありがとう。とにかくやってみるわ」
受け取った紙に手のひらをのせて、窓の外を見る。真っ白で今も雪が降っている。
雪を消す、っていうのは溶かして蒸発させるってイメージでいいかな。うーん、とけろー! 魔力流れろ!
「むむむむむ」
「……」
「はぁぁぁぁ」
「……」
「やーーー! …………できない」
がっくりだ。はぁ。異世界きて魔法全然できないとか、がっかり。結花奈が無事となれば私だってそれなりに異世界楽しみたい。魔法といえば異世界の定番なのに。悔しい。というか異世界から帰るためには魔法は最低限使えなきゃだし。
それに、これじゃあまた発作が起きたときシューちゃんを助けられるか不安だ。うん、早いうちに何とかしなきゃ。
「そんなに落ち込まないで。大丈夫。ユウコならできる。それに、魔法が必要になっても私が側にいるから、大丈夫だよ」
「ありがと、シューちゃん」
いい子だなぁ。凄い美少女だし。いくらちょっと危ない病気だからって、普段からこんな美少女を一人っきりで塔に閉じこめておくなんてあんまりだ。
シューちゃんはご両親を幼い頃に亡くしてからずっと親戚の方の家の、敷地内にあるこの塔に一人でいる。月に一度は食料が玄関横の箱に入れられていて、シューちゃんはずっとここから出ておらず、親戚の人とたまに顔を合わせる以外は人と会うこともないらしい。
あんまりだ、とは思うけど、シューちゃん本人がこれ以上迷惑をかけたくないからと率先して引きこもっていたらしいし、何も言わないことにした。
「そろそろお昼かな? 用意するね」
簡単に時計の見方も教えてもらった。翻訳の弊害というか、今何時かこっち基準で言ってるはずなのに24時間で言われるから説明してもらうのが少し大変だった。取り急ぎ生活に必要な知識も手に入れたけど、とりあえず午後からは文字の勉強になりそうだ。
「うん。お願い」
ここいらはジャガイモが主食なんだよね。なんにしようかなーっと。
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