表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/197

59

「ふわぁー…ぁぁ、よく寝たー」


 昨日は途中で寝ちゃったし、シューちゃんが帰ってきてもあんまりに眠いからそのまま寝ちゃってた。


「ん……お、おはよっ」


 つられて起きたシューちゃんは、ぼんやり目を擦ってから、はっとしたよう勢いよく立ち上がって着替えだす。

 おや? もしかして昨日の照れてる?

 昨日、一回起こしてもらって、頭ではわかってたけどどうしても体が動かなかった。そしたら運んでもらえて、ありがてぇありがてぇと思いながらまた寝てたら、なんかちょっとつつかれて、頬にキスされた。 

 私が先に寝ていて、寂しくてちょっかいかけてきたんだろう。めちゃんこ可愛い。普段シューちゃんは隣にはくっついてきても、自分から抱きついてきたりとかスキンシップあんまりないし、嬉しかったんだけどな。

 ま、恥じらってるシューちゃんも可愛いしいいか!


「おはよう、シューちゃん。愛してるぜっ」

「えっ、う、うん。……私も」


 へい! 今日もいい日になりそうだ!









 ガアアアァァォーー!!!


「っ!?」


 家屋まで震えるものすごい大音量が突然して、私は思わず持っていた薬瓶を手から落とした。


「っと、気をつけな」

「すみません、アルキアさん」


 今日は休業日だ。お店はお休みして、採取と作成のみ。アルキアさんだけの時は半分くらいは休業日だったらしい。


「ちょっと、様子を見てくる」

「シューちゃん、一人だと危ないわよ。私も行くわ」

「大丈夫。声の主を見てくるだけ」

「駄目よ。すみません、アルキアさん。すぐ戻ります」

「はいはい」


 もし大きな魔物で店が壊されたら元も子もない、とアルキアさんは私たちが魔物退治に店をあけるのをむしろ推奨してくれる。

 なので不満げなのはシューちゃんだけだ。シューちゃんを連れて店をでる。


 オオォォォァーー…ッ!!


「! っごい、声っ」


 外に出ると再びうなり声のような音がして、思わず耳を塞ぐ。そして音の方を仰ぎ見る。


「……う、わぁ…」


 山の方を見ると、まず塀の向こうに魔物らしき頭がでてた。それだけなら空を飛んでるのかな、ですむ。

 でもそこから頭が浮かび上がり、それにともなってめちゃくちゃ大きい体がでた。空を飛ぶ、大きなライオンのような生き物。前にきたドラゴンもかなりの大きさだったけど、これはクジラ並みに大きい。

 というか、あの羽?みたいなほっそいの、あれでなんで飛べるの。


「ユウコはアルキアさん連れて逃げて!」


 呆けてる間に、いち早く我に返ったシューちゃんが走って跳んで、家の上を走って行く。


「ちょっと待って!」


 慌てて追いかけようとして、だけどそれより先に騎士団の人を呼ぶべきと気づいた。

 あ、でもさっきの声があるし、おっきいからすぐ来るか。じゃあシューちゃんの援護に、ああ、でもシューちゃんもなにかすでに勝算があって飛び込んだんだろうし、行ったらシューちゃんの気を散らしちゃうかな?


「あーもう!!」


 考えてても仕方ない! 女は度胸!! とにかく突っ込む!!


 飛び上がって屋根にのり、走り出す。すでに魔物のところまでたどり着いたシューちゃんが剣を振りかざしながら、魔法を放出している。


 シューちゃんより少し手前の建物の上でとまる。私が無闇に近づくとシューちゃんの回避を邪魔するかも知れない。存在を示しつつ、援護だ!


「シューちゃん!」


 ライオンが長い長い触手のような複数ある尻尾を振り回し、それぞれがシューちゃんに襲いかかる。

 私は風の魔法で尻尾の動きを防ぐ。シールドとはいかないけど、振り下ろされる逆側から風を拭かせて跳ね返すことはできる。


「ユウコ!?」

「前見て前!」

「っ、近づいちゃ駄目だからね!」


 シューちゃんへの攻撃を防ぎつつ、周りの建物へも攻撃しようとしてるのでそれもはじく。

 魔物自体が飛んでいる。つまり本人が風を操っているということなので、魔物本体を風で動かすことは難しいだろう。無駄に魔力をつかっても仕方ないので、私はとにかく守ることに魔法を集中させる。

 風で攻撃することもできるし、的が大きいから当たるだろう。でもシューちゃんにあたるかもと考えたら使えない。道中せっせと学んだ薬品類も同じだ。まだ私は特定対象にのみ毒を与えると自信をもてるほど、風を細かく制御できない。


「っ」


 シューちゃんもあまりの大きさに攻めあぐねているらしい。移動魔法をつかって魔物の体内に移動させると、抜くためには敵に触れないといけない。

 心臓の位置は魔物により異なるから、狙うなら頭だけど、この魔物は2つ頭がある。うかつに移動させて、相手が頭一つでも平気なら、剣を回収できない。

 でもシューちゃんは飛び出して行ったし、何か策があるはずだ。タイミングを計ってるのかも知れない。とにかく私は後衛担当として時間稼ぎだ!


「ユウコさん!」


 おっと! 隊長さん率いる騎士団の皆さんがご到着だ! やった!


「今加勢します!」


 半分は避難に手が取られたけど、もう半分がシューちゃん同様魔物に向かい、四方から取り囲む。

 空を飛ぶ魔物は基本的に対処が難しいけど、これだけいれば大丈夫だ!


 私はもう二軒分近づく。うう、近くにくると獣くさい。大きい分、うなり声だけでも空気が震えるのがわかる。

 そっと、牽制しながらもシューちゃんの元に到着。


「シューちゃん、剣、これ使って」

「! ユウコ、危ないって言ってるのに!」

「必要でしょ?」

「……後で怒るからね」


 シューちゃんは私から武器を受け取り、移動魔法で


「ん? シューちゃん、なんかした?」

「ちょっと一回下がって!」


 まだシューちゃんの手には二本の剣があるのに、魔物は身をくねりながら、高度を下げ始めた。

 言われるまま慌ててシューちゃんと共に距離をとる。


「な、なに?」

「……わからない。苦しんでるように見えるけど…」


 グアアアァァッ!!!!!


 魔物はびりびりと肌が震えるほど大きく鳴くと、勢いよく高く飛び上がり、反応するより早く海の向こうへ飛んでいった。


「な……なに?」

「わ、わからないけど……助かった、のかな?」












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ