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50 決意する結花奈

 シュシュリングなんとかと名乗った優姉の仲間から、優姉がこの世界に来てからのことを聞くことになった。


「えっと、しゅ……ごめん、なんて呼べばいい?」

「シュリで。私もユカナでいい?」

「もちろん」


 優姉に見つからないよう、町外れの寂れた喫茶店の、一番奥の外から見えない席へついた。

 飲み物が運ばれてきてから、念のため魔法で防音をほどこす。


「で、シュリ。優姉とはいつ頃出会ったの?」

「うん、ユウコとは」


 優姉が最初に落ちた場所がシュリの家の前だったらしい。つまり最初からの付き合いだ。羨ましいけど、よかった。

 優姉はちゃんと保護を受けていたってことだ。さすが優姉だ。よかった。それにしても、このシュリって人によっぽど気に入られてるらしい。そもそも一緒に旅してるし。

 変な男にひっかかってたらどうしようかと思ったけど、シュリと一緒ならとりあえず心配ないよね。 


「そのペンダントが?」

「うん」

「ちょっと見てもいい? あ、外さなくていいから」

「…いいよ」


 優姉が彼女の病気のためにつくったというペンダント。指先でもちあげて魔法で見る。うーん、確かに変わった構造になってる。私は魔法陣は門外漢だけど鑑定魔法で、魔法陣の仕組みとかわかるはずだけどちょっと文字化けしてる感じだ。

 ていうか、魔法陣つくるとか凄すぎじゃない? 私も魔法つかうけど、魔法陣とか全然使わないから知らないし。優姉頭いいからってこっちでも勉強しなくてもいいのに。


「ありがと。それから?」

「うん、それからユウコがバイトを始めて、ユカナの噂を聞いたの」


 異世界の勇者、というフレーズを頼りに会いに来てくれてたらしい。でも私が旅立っていたので、先回りしてこの街で待ってくれてたらしい。

 嬉しい。もちろん優姉も私を心配してて、探してくれて当たり前だと思ってたし信じてた。だけどこうしてそれを聞くと、すごく嬉しい。

 やっぱり優姉だ。私の居場所は優姉のとこしかない。あー、優姉に会いたい。

 でも我慢だ。帰る方法も見つかってないし、魔王を倒さないと。優姉は危険なことに巻き込みたくない。

 一応伝説の武器とやらも集めたし、秘術と呼ばれる魔法も習得した。魔王退治の目処はついた。


 それから優姉のことたくさん聞いた。

 こっちで生活してても、優姉は相変わらずみたいだ。しっかりしてるみたいでぬけてて、そして優しい。私にとって世界一の、お姉ちゃん。

 もちろん日本に帰りたいけど、日本に帰れなくても、優姉さえいてくれれば、もうそれでいい。


 ああ、だめだ。優姉の話を聞いてると、会いたくて仕方ない。優姉。優姉……会いたいよぅ。


「……シュリ、お願いがあるの。優姉に、伝言を頼みたい」

「伝言?」

「うん」

「いいよ。そのままちゃんと伝えるから」

「うん……優姉、愛してる。世界を救ったらすぐ帰るから、待ってて。夕ご飯は、ハンバーグがいいな」

「うん。わかった。絶対伝えるから。だから、泣かないで」


 気づいたら、私は泣いていた。くそ、絶対優姉に会えるまでは泣かないって決めてたのに。


「ユカナ……ユウコのことは、私が守るから。一緒にユカナのこと待ってるから。だから、絶対無事に帰ってきて」

「わかってる。わかってるよ。大丈夫。指一本もなくさないで帰ってくる。これはあなたに約束するよ」


 シュリ、優姉を家族のように思っているという彼女は、きっと優姉からも同じように思われてるだろう。

 なら私にとっても、家族のようなものだ。少なくとも魔王を倒してもどってきたら、帰る方法が見つかるまでは一緒に暮らすことになるだろう。


「優姉を、よろしく頼むね」

「うん。私もユカナに約束する。ユウコを絶対に傷つけない」

「うん…ところで、もうひとつ、お願いしてもいいかな?」

「なに? 何でも言って」

「うん。優姉に、変な男がいいよらないよう、そっちでも守ってね」

「わかった。約束する」

「うん」


 これで優姉は大丈夫だ。シュリからは結構な魔力も感じるし、ここまで旅をしてきたということだからそれなりに強いんだろう。一安心だ。

 よかった。魔王を倒す前に心配だった優姉の無事も確認できたし、もう心残りはない。あとは、魔王をぶっ殺すだけだ。


 シュリに今住んでいる住所も聞いた。魔王を倒したら迎えにいくので待っててもらうことになった。

 もし何かあってこの街を離れなきゃいけない時に備えて、シュリの実家も教えてもらう。最悪はそこで落ち合うことになった。

 

 後は時間が許す限り色々なことを話した。もちろん大半が優姉のことだけど。

 シュリはずいぶんと素直でいい人ようだし、仲良くなるのも問題ないだろう。これなら後々の共同生活にも支障なさそうだ。まあ優姉が選んだんだから当たり前だけど。


「じゃあ、そろそろにしようか。私はすぐに旅立つから、優姉によろしく。さっきの言葉はまだ覚えてる?」

「大丈夫。安心して」

「うん、任せるよ」


 会計をして店を出て、シュリと別れた。ふりをして、こっそりシュリの後をつけた。

 やっぱり一目だけでも優姉を見たい! 声を聞きたい! シュリにも言ってもよかったけど、素直すぎてバラされたら困る。私はもういないのだと伝えてもらわないと。


「ただいま」


 あそこか。ボロそうなアパート。ていうか独り身用じゃない? ってそれはいいか。声が聞こえるようにこっそりシュリからしばらく声が聞こえるよう魔法をかけたし、近づいて気づかれたら嫌だから距離をとっておこう。

 私はアパートの裏、窓側から見られるように、かつ優姉からは見つからないように5キロほど離れた高めの建物屋根にのって様子を伺う。


「おかえりー」


 優姉の声だ。どきっと心臓が高鳴る。魔物の大群に囲まれても、人を殺したって、私の心臓は反応しなくなったのに。優姉だけは特別だ。


「ユウコ」

「うん? どうしたの?」


 優しい声だ。ああ、優姉の声。今すぐ抱きつきたい。抱きしめてほしい。


「今、ユカナに会ってきた」

「えっ!? どっ、どこ!? ユカナどこにいるの!? あっ、もしかして連れてきてくれた!?」

「ううん。魔王退治にユウコを巻き込みたくないから、会わずに行くって」

「そっ……そんな、結花奈の馬鹿っ! あほっ!」


 あー、やっぱり怒るかぁ。怒るだけならいいんだけど、泣かないで欲しいなぁ。無理だろうけど。


「伝言がある。言ってもいい?」

「お願い」

「…『優姉、愛してる。世界を救ったらすぐ帰るから、待ってて。夕ご飯は、ハンバーグがいいな』だって」

「っ……ばか、かっこつけて、馬鹿なんだから…っ」


 馬鹿馬鹿って、優姉はほんと、遠慮とか全然ないんだから。それになに泣いてんのさ。優姉こそ馬鹿だよ。


「優姉…っ」


 私まで、泣いちゃうじゃん。会いたくて、たまらなくなるじゃん。


 私は我慢出来なくて、泣きながら立ち上がる。そのまま飛び降りて、走ってみんなの元へ向かった。


 すぐだから。すぐに会いに行くから。待ってて。絶対無事に、帰るから。









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