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「ユウコ」

「んー…うん、うん」


 夢うつつで返事をするユウコ。昼下がりにじっとしていると、ユウコはすぐに眠くなる。今日も例にもれず、お昼を食べてから一通り採取を終えて見晴らしのいい場所で休憩中、うとうとしだしたから眠るようにすすめた。


「…ごめん、ちょっと、五分だけ、寝るね」


 ユウコが眠くなるのはいつも平和で急ぐ用事もない時なので、そのまま寝てもらうことにしてる。

 ユウコは鞄に頭からもたれるようにして目を閉じる。すぐに規則正しい呼吸音がする。


 ゆっくりした風が優しく体を撫でていくのが気持ちいい。ユウコでなくても眠くなる陽気だ。

 ユウコはずいぶん魔法がうまくなった。眠りながらでも魔法をつかえるし、私の魔力の減りも少なくなって運用効率も高くなった。

 特別訓練したりしていないはずなのに、前より上達してる気がする。きっとそれだけ魔法を使うのに馴染んだんだろう。


 魔法陣も、異世界人ならではの発想で改造してるし、見てて面白い。ユウコといると、飽きない。毎日楽しい。

 ほんとに、ユウコが大好きだなぁって、日々思う。


 ユウコ以外の人とも仲良くするようになって、それも案外難しくなくて、楽しくて、結構好きになったりする。でもそうなるほど、やっぱり全部ユウコのおかげで、外に出させてくれたユウコに感謝するし、比較しても本当に大大大大大好きだって思う。


 それで最近、ちょっと疑問に思ってることがある。

 ユウコのこと大好きで、それは当たり前だけど、これってどういう好きなんだろう。家族のように、母のように、姉のように、妹のように、友人のように、そういうものともまた少し違う気がする。

 というのも、ユウコに気があるような素振りをする男性に対してどうしても敵対意識も持ってしまう。単に姉を独占したいというだけのものならいいけど、それもどうかとは思うけど、まぁそれは置いておいて。

 何というか、もしユウコが名前を出したくない彼らと私のように抱き合ったりくっついたり、あまつさえキスをするなんて、考えただけで嫌だ。嫌だし、泣きそうになる。考えるだけなのに胸が苦しいし、力が抜けそうだ。


 それってちょっと、好きすぎる気がする。もちろんユウコが大好きだし、命の恩人だし、好きで好きで、好きすぎるなんてことはないはすだ。好きに上限なんてない。なのになんで好きすぎるとか思うんだろう。

 おかしい。でもやっぱり、ただ好きよりはちょっとすごい好きだし、うーん?


「……」


 まぁ、いいか。

 ユウコの寝顔を見てると大抵のことがどうでもよく感じた。ユウコが好きなのは事実だし、どれだけ好きかは別に考えなくてもいいはずだ。これからもできるだけユウコといられるようにするだけだ。









「やぁ、妹さん。シュリさん、だったね」

「……こんにちわ」

「ユウコさんは?」

「店番です」

「そう、か。あー……ひとつ、聞いてもいいか?」

「……いいですけど」


 隊長さんとは関わりたくないけど、お客さんでもあるし、ユウコからも色んな人と親しくなるよう努力するべきと言われてるので、仕方なくうける。


「ろ、露骨に嫌そうだな」

「…何ですか?」

「あー、その、まぁ、その辺でお茶でも飲みながらにしよう。奢るから」

「い……いいですけど」


 嫌ですと言うところだった。危ない。むう。でもほんとになんだろう。隊長さん嫌い、もとい苦手だし嫌だなぁ。


「……ありがとう」


 隊長さんも微妙そうな顔をしてるし、なおさら嫌だけど仕方ない。あー、嫌だなぁ。後はお店に戻るだけなのに。

 適当な喫茶店に入る。隊長さんに聞かれたので水を注文。そういえばユウコの世界では水はただらしい。すごい世界だ。


「さて……シュリさんは、私のことをどう思う?」

「き、苦手です」

「今嫌いって言い掛けた?」

「…何なんですか? 私、別に隊長さんと仲良くないですし、話したいこととかないですし、仲良くなりたくもな、もとい積極的に親しくなる気はありません」

「きっぱり言うねぇ。じゃあはっきり言うが、俺はユウコさんに好意を持ってる。だからシュリさんとも仲良くしたい」

「……」

「もちろん、好きになれとか間をもってほしいとかそういうのではない。ただ、顔のせいならそう露骨に嫌わずにいてほしい。それ以外なら努力をする」

「顔? …別に顔とか関係なく、ユウコが好きなのが嫌なだけ」

「うん? ああ…わかるよ。大切なお姉さんだもんな。でもな、大人なんだから、いつかは姉離れしなきゃいけないだろ?」

「……」


 本当の姉ではない。それに、それに……。

 反論したいと思った。だけど、出てこない。本当の姉ではないからどうなのだ。友人ならなおさら依存と思われる。家族のように思ってるし、思われてる。

 でもそんなの関係なく、自分以外の人間に対して、配偶者を選定したり干渉したりする権利なんてない。あえていうなら親くらいだろう。


「……失礼します。水、ありがとうございました」


 水を飲み干して立ち上がり、帰る。これ以上、隊長さんといたくない。ユウコにあいたい。


「お、おい、ちょっと」


 隊長さんの言葉は聞こえたけどあえて無視した。


 走って店に帰る。ドアを開けると顔をあげたユウコが接客をしながらもにこっと笑ってくれた。それだけですごくほっとした。


「ユウコっ!」


 お客さんが出ていってドアがしまったのを確認してから、ユウコに抱きつく。ぎゅうっと抱きしめる。


「ど、どうしたの? シューちゃん?」

「ユウコ……大好きだよ」

「え? う、うん……私もシューちゃんだーい好きよ」


 戸惑いながらもユウコが私を抱きしめて頭を撫でてくれる。優しいユウコ。柔らかくていい匂いのするユウコ。

 ユウコと離れたくない。どうすればいいんだろう。

 離れたくない、だけじゃない。一番がいい。ユウコの一番近くがいい。どうすればいいんだろう。私はどうしたいんだろう。

 ユウコが大好きだ。なのに、どうしてこんなに、胸が痛いんだろう。こんなに近くにいてくれるのに、なんで悲しいんだろう。











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