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「ねぇシューちゃん、一緒に寝てもいい?」

「え……私なら、大丈夫だから」


 いやいや、そんなわけにはいかないよ。

 夜、シューちゃんは疲れてるだろうからと私にベッドを譲り、自分は暖炉前でねむると言い出した。

 この国では布団と絨毯のある場所は靴を脱ぐらしい。なので絨毯の上は安心して寝転べる。

 ちなみにシューちゃんの家は玄関からすぐ絨毯で全面敷き詰めてあるので、ほぼ日本と同じ感覚で無意識に脱いでたので正解だった。

 

「なら私が絨毯で、シューちゃんがベッドに寝てよ」

「ユウコはきたばかりだし、疲れてるでしょ?」

「うん、だからこそ、シューちゃんと一緒にいてもらえると心強いな、なんて」

「……今日だけ、だからね」


 うーん、シューちゃんが優しいのは嬉しいけど、なんか嫌がられてる? 仲良くなる一歩としても一緒に寝たいのに。


「…シューちゃん、ほんとに嫌なら、無理しなくてもいいよ」

「い、嫌とかじゃなくて……えっと、私、寝相が悪いから」

「なーんだ。そんなの気にしないで。私の妹なんて一緒に寝てたら私のこと蹴飛ばして蹴落としてくるんだから」

「ユカナ?」

「そう、あの子寂しがりで最近でもたまに一緒に寝てるの」

「そう………あの、私、寝言とかも、酷いからもしかしたら起こすかも知れない」

「全然平気よ」

「そうじゃなくて……もし、そうなったら、に、じゃなくて、こっちの、暖炉前に移動してくれる? その、聞かれるの恥ずかしいから」

「うん? うん、わかった」


 よくわからないけど、何だか必死っぽいので頷いておく。

 私をベッドで寝かしたがったのに、寝言言い出したら暖炉に行けって、変なの。まぁそりゃ、シューちゃんが行けって言うなら行くけど。


 シューちゃんとベッドに入る。

 はぁ、あったかい。ほんとにほっとする。


「おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 挨拶をすると明かりが消えた。シューちゃんが魔法で作ってた明かりで、音もなく消えたから少し驚いた。

 じっと目を凝らすと、月明かりで見えるようになってきた。シューちゃんは目を閉じてる。さすがに結花奈にするみたいに抱きしめて寝るのは、初対面でやりすぎだろうと自重したけど、うー。普段一緒に寝るのは結花奈だけだし、結花奈はいつも抱き枕になってくれるから、何だか横に人がいるのに普通に寝るのって落ち着かないなぁ。


「………はぁ」


 気取られないよう、小さく小さく、吐息にまぜてため息をつく。

 本当に、異世界に来たんだなぁ。嘘みたいだ。夢みたいだ。結花奈は大丈夫かな。

 とりあえずの生活は大丈夫でも、ひとりで不安だろう。寂しいだろう。泣いてるかも知れない。心配でたまらないけど、今の私にはどうしようもない。大丈夫だと信じて、できることからやるしかない。

 まずは私の生活を確立しなければ。大丈夫。結花奈はあれでいて、本当に大切な場面ではしっかりしてる。いざってときは私より頼りにさえなる。……言ってて悲しくなるからやめよう。


 両親も心配してるだろうか。向こうとこっちで時間の流れが違って帰ったときでも半日とか、いっそとまってるとか、そういう都合のいい展開を希望しておこう。


「……」


 シューちゃん。どこか昔の結花奈に似ていて、放っておけない女の子。私のことをうざいと思ってるだろうな。ごめんね。でもどうしても、笑って欲しい。


 じっとシューちゃんを見つめて、今後について思いを馳せていると、だんだん眠くなってきた。そろそろ12時過ぎるのだろうか。

 こちらの世界の時計はよくわからない。そもそも24時間じゃないし。不思議とシューちゃんの口からは24時間だけど。

 砂時計が落ちると回転し、その回数がカウントされることで時間をはかってるみたいだけど、1日が何回なのか忘れた。日付が変わったらゼロになるらしいけど、数字も違うから読めない。


 とにかく、そろそろ寝よう。明日はシューちゃんのおじさんに挨拶を…あれ、でも中止になったんだっけ? ……まぁ、いいか。


 目を閉じる。ゆっくりと、睡魔が私を覆った。









「う……は、ぅぅっ」


 小さな声が聞こえた気がして、ふいに意識が眠りから浮上する。気がはっていたのか、妙にはっきりと目が覚めた。まるで冬のようだ、と思ってから、ここが雪国だと思い出した。

 窓の向こうにはまだちらちらと雪が降っていた。


「はぁ、はっ」


 聞こえたうめき声に、顔をあげる。シューちゃんが胸を抑えていた。そうか、シューちゃんの声で目が覚めたのか。寝言を言うと言っていた。


「ぅ、ぅぅ」

「シューちゃん?」


 ね、ごと、か? シューちゃんは胸をおさえて、苦しそうで、まるで、どうみても、うなされている。


「シューちゃん!?」

「はぁ、ぅ……だ、大丈夫、大丈夫だから、ちょっと、寝言、だから、暖炉へ」

「どこが寝言!? シューちゃん病気なの? 胸? 胸が痛いの?」


 シューちゃんの胸に手を当てる。シューちゃんの手のさらに上からあてているのに、胸の激しい動悸が感じられた。


「だ、め。早く、逃げて」

「に、逃げて!? なに? なにが起こるの?」

「大丈夫、大丈夫だから」

「大丈夫じゃない! もし危なくなくても、ほんとに大丈夫でも、苦しんでるシューちゃんをひとりにするのは、私が大丈夫じゃない!」

「っ」

「どんな病気なの? お医者さんが必要なら、呼んでくるから」

「お医者さんは、大丈夫、だから」


 背中を撫でながらシューちゃんの途切れ途切れの説明を聞くに、どうやらシューちゃんは魔法を使うための魔力がたまに漏れてしまう病気らしい。発作の際には誤って爆発してしまうこともあるらしく、医者にもどうしようもないのでシューちゃんは隔離されてるとのこと。シューちゃん自身は安全で、かつ今は意識もあるので爆発はしないから大丈夫と言われたが、なら余計に放っておけない。


「爆発しないんでしょ? なら何もできなくてもせめて側にはいるよ。汗かいてるし、ふくよ。あ、背中勝手にさすってるけど、どうする? 胸の方がいい? 暑いとか寒いとか、こうしたほうがまだマシとかある?」

「……じゃあ、一つだけ、お願いしても、いい?」

「もちろん!」

「だ……」

「だ?」

「…抱きしめて、ほしい」

「わかった」


 寒いのかも知れない。私はシューちゃんに寄り添い、全身で抱きしめた。

 シューちゃんがちょっとでも楽になればいい。いっそ私が外からシューちゃんの魔力を吸収するとかできればいいのに。


「う……」

「ど、どうしたの? きつかった?」


 びくりと反応したシューちゃんに思わず腕を緩める。


「う、ううん。違うの。もっと、強くして欲しい」

「あ、はい」

「はぁぁぁぁぁ」

「シューちゃん!? ほんとに大丈夫!?」

「だ、大丈夫ー」


 ええ? ほんとに? さっきの切羽詰まった感じではなくなったけど、なんか凄い力抜けた声してない?


「はぁぁ。あ、ありがとう。もういいよ」

「え、あ、うん」

「はぁ、ありがとう」


 体を離すとシューちゃんは息をつきながらゆっくりとだけど起き上がる。


「え、うん。え、ほんとにもう大丈夫なの?」

「うん」


 え、なに? 何が起こったの?











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