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33 すれ違う結花奈

「アマノ、この荷物持って」

「ユカナ様、買いすぎですって。ていうか自分でもってください」

「うるさいな。必要なものしか買ってないっての。ん?」


 とある街にて、買い出し中。すれ違った女の人がなんか驚いた顔ですっごい勢いで振り向いたから、思わず私も振り向く。

 うっわ、美人だ。すっごい肌白いし、みんな外人系で美人多いけど、すげー美人。ぱっと見成人してるぽいけど、この世界に慣れた私には誤魔化せない。優姉と同じくらいだな。


「ユカナ? 異世界の勇者?」


 ってうわ、そういうことか。私はとっさに笑顔をつくる。勇者はイメージ勝負いつもにこにこ笑顔の使者です。


「おやおや、やばいなー、やっぱわかっちゃいます? いやー、私ってば有名人すぎてほんとごめんねー」

「ユカナ!」


 え、な、なにその食いつき。

 近づいてくる女の人から後ずさる。勇者様ー助けてーとか、勇者様是非我が家へとか、勇者様カッケーとかってのは何度かあったけど、なんで真顔でガン見してくんの、なんか恐いわ。


「あの、その通りだけど呼び捨てやめてくんない?」

「ご、ごめん。えっと、待って、待って、すぐ戻るから待ってて!!」

「ちょ、あの」


 ええ、なに? 君の妹が私の大ファンとかなの?

 勢いよく反転して走り出す女の人に呆気にとられる。うーん、どうしたもんか。めんどくさいから待ちたくないけど、ガン無視すんのも感じ悪いよね。

 一応、ユニパル国の使者なわけで、イメージキャラなマスコットなわけで、少なくとも魔王を倒すまではちょっとは外面よくする必要がある。


「ユカナ様、待つ気ですか? ドガーも待たせてるんですから、早く行きますよ」

「おおっ、そうだった! よし、おじさん、ハンカチ一枚おくれ」


 このあとは気難しで有名なドワーフのドガーさんに面会予定なんだった。流石に送れるわけにはいかない。

 私はすぐ隣の露天からハンカチを一つもちあげる。


「200円だ」

「ぼるな。100」

「ふざけるな。このレースを見ろ。180だ」

「端がよろけて…ああもう、めんどくさい、もう180でいいよ」

「まいど」


 つい癖で値切ろうとしたけど、時間がない。ハンカチにサインをかいて、おじさんに渡す。


「そのかわり、さっきの女の人に渡しといて。伝言もお願い」

「しょーがねーな、なんだ?」

「忙しいから先に行くけど、美少女勇者ユカナ様のサインやるから許してね。家宝にしてね。うっふん。以上。ちゃんと伝えてよね」

「わかったわかった」


 半分くらいは伝わるだろ。よし。


「アマノ、行くよ」

「はい。ちょっ、早いですって! せめて荷物ちょっとくらい持ってくださいよ!」

「落としたら半日逆さ吊りの刑だから」

「外道!」

「はっ倒すぞ!」









「ふーんふふーんふ、ふーふふーん、かーめさーんよー」

「勇者殿」

「うおっ、なんだよビィリ。心臓悪いから、いきなり声ださないでよ」


 ビィリは無口で必要最低限しか話さないから、話されるとちょっとびびる。


「すみません。しかしいきなりでない声の出し方を知りませんので」

「声出すまえにくちぱくすればいいんじゃない?」

「そんな馬鹿みたいな真似はしたくありません。アマノじゃあるまいし」

「何だと!? 貴様、貴族の俺様を馬鹿にしたな!?」

「いいえ。馬鹿みたいな真似をしても平気なくらい高貴なアマノくらいではないとできないという意味です」

「ん? あ? ……なるほど。うんうん。確かにな。俺様ほどの人間ならどんなことをしていても滲み出る高貴なオーラが隠しきれないからな」


 アマノはホントに馬鹿だな。ちょっと好きになってきた。ビィリが未だに掴みにくいしやりにくいから尚更だ。


「で、なに?」

「はい。鼻歌をご機嫌で口ずさまれるのは結構ですが、剣を見つめてうっとりされるのは、街中ではおやめください」

「なんでさ」

「不気味だからです」

「はぁ? あのさぁ、私みたいに可憐な女の子さしてなんてこと言うわけ? 冗談は顔だけにしてよ」

「ユカナ様も相当なこと言ってますけど」

「うっさい」

「とにかく、やめてください。ドガー殿に作っていただいた剣が素晴らしいのも、芸術的にまで美しいのもわかりますが」

「わかる!? わかっちゃう? いやー、さすがビィリ、見る目あるー!」

「…わかります、が、街中の食堂で突然剣を抜いて見つめているのはただの不審者です」

「むー」


 そう言われるとたしかにそうか。それにこれほどまでの業物、むやみに人目に晒して盗まれても困るもんね。

 あー、それにしてもこのギミックといい、フォルムといい、マジカッケー! ただのデカい包丁みたいな剣とは一味もふた味も違うよ。はぁ、冒険者って感じー!

 王様から借りてる聖剣はちょっと重いし、デザインがシンプルすぎて面白みがなかったから、こんなの欲しかったんだよね。


「勇者殿」

「わ、わかってるって」


 剣を鞘に入れて金具でとめる。宿の部屋に戻ってからじっくりと手入れもかねて鑑賞することにしよう。


「ビィリ、今日はもう暇だろ? 早く解散にしろよ。俺様は暇ではないのだ」

「そうだね。たまにはアマノもいいこと言うじゃん」

「ふふん、当然ですとも」

「お黙りなさい。お二人とも、この街がどこかわかってますか?」

「ん? なんだよ急に。ここはドランドの街だぞ」

「そうです。つまりまだユニパル国。予定の半分、どころか戻ってきてます」

「いやさぁ、言いたいことはわかるよ。でも仕方ないじゃん」


 この剣をつくるために、ドガーさんは本気出すために私たちをドワーフの国に案内してくれた。ユニパル国より北にある島国なので、一回この大陸の真ん中まで降りたけどまた戻ったのだ。

 予定ではそろそろ南の砂漠の国あたりなので、ビィリがいらついてるのはわからないでもない。特別報酬がもらえるとはいえ、奥さんと長く会えないしね。でもお前昨日会いに行ってたしいいじゃん。


「それはわかります。ですが少しくらいは急ごうという気はないのですか?」

「うーん、ない」

「……」

「そんな恐い顔してもダメー。いや、私も早くしたい気持ちはあるよ? でも焦って行っても負けたら意味がない。入念に準備して、近辺の魔物を余裕で倒せるくらいになってから次の街へ行って、そうして強くなっていかないと」

「……仰ることもわかります」

「でしょ?」

「ですが、街では全く修練されてる姿をお見かけしませんが?」

「能あるタカは爪を隠すのさ」

「……はぁ」


 露骨にため息つかれた。

 でもさ、仕方ないじゃん? だって現実は、死んだらコンティニューできないんだからさ。慎重にもなるよ。


「とにかく、私が勇者なんだから。旅の予定は私がたてる。だから今日はもう自由行動です。OK?」

「……仰せのままに」


 ま、マジな話、あんたらに見えないところでちゃんと特訓の一つや二つはしてるからさ。心配ご無用。










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