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西大陸は地図で見ると7に似ている。クの真っ直ぐバージョンみたいな。太短いけど地図見てぱっと見そうだった。
この世界には地図はあるけど、地域によって結構国や大陸の大きさとかまばらだったりする。特に大陸全体を書いてる縮尺の地図はかなりバラバラだ。宇宙から写真とかとれないし仕方ないと思う。ないよりマシだ。
クの一番先っぽのところに宗教国家の首都があるので、結花奈は一度そこによってからこの国をまた通過して、蛇行するように西大陸を南下することになる。
新聞の情報も常に遅れてやってきているので、現在地はわからないので先回りするしかない。
最後の情報は宗教国家を出たものだけど、すでに2ヶ月前だし、多分ユニパルも通り過ぎてるだろう。
なのでやはり、最終的に通るだろう確実な最南端の港で待ち受けるのがいいだろう。
「はぁ、それにしても、観光もできずに出発なんて、慌ただしくてごめんね」
話し合いが終わって今後の予定をたてるころには日もくれていて、夕食を終えて体を清めると無意識にため息がでた。
肩すかしをくらったからか、気持ち的にも疲れているのを自覚する。ため息を誤魔化すようにシューちゃんに話をふると、シューちゃんは頭を横にふる。
「ううん。楽しいよ」
「え? うーん、気をつかってくれるのは嬉しいけど、無理しなくていいからね」
ほぼ馬車移動なのに、楽しいってことはないでしょ。景色もそんなに変わらないし。
「ユウコといれば、それだけで楽しいよ」
「もー、シューちゃんかーわーいーいー!」
きゅんきゅんしちゃうわ。私が男だったら確実に惚れてるレベルの健気! 健気すぎる!
抱きしめて頭にほおずりする。前から思っていたんだけど、同じ洗剤を使っても、自分以外の人だとなんでいい匂いがするんだろ。まあまだ二人しか統計とれてないんだけど。
「ねぇ、ユウコ」
「うん、なに?」
「ユカナに会ったらどうするの?」
「どうするって……うん? あ、住む場所? うーん。帰り方を探さなきゃいけないし、それも合わせてよく考えなきゃいけないし…」
「そうじゃなくて……ううん、なんでもない」
「え? なに、遠慮せずに言って?」
「ううん、ほんとになんでもない。よく考えたら問題なかった」
「そう?」
「うん」
んー? なんだろ。結花奈に会えたらどうすると言われても、それ以外になにが? とりあえず生活しながら帰る方法探すためには、やっぱりユニパル国が一番いいかな。
魔法大国で一番魔術研究が盛んな国
らしいし、それがいいだろう。うん。
「ところでシューちゃん、話はかわるけど」
「なに?」
「明日は昼から馬車だからその前に改めて、魔法帳更新したいんだけど、手伝ってくれる?」
「もちろん」
「ありがと。じゃあ今日は早めに寝ようか」
「うん」
「じゃあちょっと失礼」
シューちゃんを改めて抱きしめ直す。
「んっ、んーー、ぅぅ」
「よし、ありがとう。シューちゃん」
「ううん。大丈夫」
魔力をもらうと今日も終わりだと実感する。それにしても、魔力を抜くときは力が抜けるからと言うのはわかるけど、なんとなく色っぽい声をだす。
顔もやや赤くなるから、何となく照れてしまいそうだ。何もやましいことはないので、気まずくならないよう明るい声をだす。
「よし、寝ようか」
「うん、お休みなさい」
「お休みなさい」
○
ユカナに再会する。それは現在のユウコの最優先目的だ。
だけどそこからどうするか、ユウコは現実をまだ認識しきれていないらしい。それはある意味仕方ないことだ。敵がいなくて、王様もいなくて、階級のない世界。
ユウコはきっと、勇者の意味を正しく理解できていない。
ユカナと会うことができたとして、ユカナは勇者なのだ。魔王を倒さない限りのんびりユウコと暮らすことはできない。倒しても、そう簡単に普通の人みたいには生活できない。
それほどの戦力をもつ人間を放置するわけもないし、その存在は大きい。帰る方法なんて、あったとして隠匿されるだろう。なくても研究しようもすれば邪魔されるだろう。
やりようによっては勇者でも自由を手にすることはできなくはない。だけどそれも、魔王を倒してからの話だ。少なくともそれが最低条件だ。
いくつかの功績を聞く限りでは、よその勇者に比べても華々しい活躍をしているし、実力はあるのだろう。ユカナ自身は勇者の意味もわかっているだろうから、魔王を倒すつもりのはずだ。
だからこそ、ユウコはどうするのだろう。黙ってユカナをひとりで魔王のところへ行かせることができるのか。できるとは思えない。
もしついて行くとなれば、多少鍛えたといえユウコは専門の訓練を受けたわけでもない。危険だ。いっそ、ユカナが魔王を倒すまで会わないようにした方がいいのか、とまで考えた。
だけど、ユウコを騙すなんてできない。
でもそんなことを考えて、思い切ってユウコに説明してどうするつもりか尋ねようとして、気づいた。
そもそもどうして私がここにいるのかを、思い出したというほうが正確だろうか。
私がここにいるのは、ユウコを守るためじゃない。ユウコとユカナを会わせようとするのもユウコのためなんかじゃない。ユウコを説得するとか、そんなのは全くもってお門違いだ。そもそもユウコのためとかそんな善意でいるわけじゃない。
単純に、私がユウコを大好きでそばにいたいからだ。そばにいたいからいて、邪魔に思われたくないからユカナ探しに協力して、ユウコに傷ついてほしくないから守ってるだけだ。
ユウコに頼まれたからではないし、逆にユウコに嫌がられても、こっそりでもついていく。
なら別に魔王退治についていこうがいくまいが、関係がない。私はユカナにではなく、ユウコについていく。それだけだ。ユウコが危険なら守る。それだけだ。
何の問題もない。
「ユウコ」
「どしたの? シューちゃん。眠れない?」
「ううん。なんでもない。呼んだだけ」
「早く寝なきゃダメよ」
私を注意しながらも、笑ってユウコは私に軽く頭をぶつける。
名前を呼んで、返事をもらえる。触れられる。うん、問題ない。
ユウコが魔王を退治したいなら、私が倒そう。ユウコが危ないなら私が守ろう。そのために死ぬ可能性は高いけど、ユウコの近くで死ねるなら、それはむしろ、いいことだ。
「改めてお休みなさい」
「ええ、お休みなさい」
○
 




