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雪国で助けてくれた美少女、シューちゃんと話をするに、どうも結花奈は勇者として異世界召還され、私はそのオマケで、途中で落ちてしまったらしい。
信じられないけど、彼女はいとも簡単に手のひらに火の玉をだしたし、見たことない文字で、口と言葉も合っていないし、信じることにした。
とりあえず、結花奈は召還者のもとに行ったんだし、勇者なら扱いもそう酷くはないだろうし、まず安心して大丈夫だろう。
そうと決まればまず、私自身のことを心配しよう。結花奈は生活を保証されてるけど、私はいきなりホームレスだ。なんとかして結花奈を迎えに行かなきゃだし、まず生活を落ち着けて情報を集めないと。
今日はシューちゃんのところにとめてもらうとして、明日から……まぁなんとかなるでしょ。町にでて住み込みで働かせてもらおう。何かしら仕事はあるだろうし、事情を知ってるからシューちゃんに身元保証してもらえばなんとかなるだろう。結花奈見つけたら、シューちゃんに恩を返して、帰る方法を探そう。よし。
とりあえず今後の展望も決まった。今日は一宿一飯の恩のため、料理をつくる。向こうの食材だから珍しいだろうし、多少は価値があるはずだ。
「ま、こんなもんかな。お待たせしました!」
料理は多少手間取った。スイッチを押し、レバーを移動すれば火の強弱をつけられる。火の模様がついているし、わかりやすい。水の出し方も似たようなものだ。包丁やまな板というものは大きさが違うくらいで、特に問題はない。意外と料理人の道もあるかも知れないと思った。もちろん調理補助のアルバイトという意味だけど。
「いただきます」
「いただきます」
ほぼ全ての言葉が私にわかる意味に通じてるから不思議だ。でもシューちゃんのいただきますは、かなり長い間口を動かしていたから、さすがに翻訳を実感する。
「っ……美味しい」
「ほんと? ありがと、って、ええ?」
さすがに調味料は勝手が違ったし、一通り揃ってるみたいだけど何かわからないから、なめて嗅いで、適当にした。まぁまぁだなと自画自賛しながら顔をあげると、シューちゃんが涙を流していて、慌てて立ちあがる。
「しゅ、シュ ーちゃん!?」
「なに?」
シューちゃんは気づいていないのか平然と返事をする。隣に行き、しゃがんで顔を見る。もしかして味覚が違って泣くほどまずかったのかとも思ったけど、違うらしい。
「いやなにっていうか、え? 熱かった?」
「大丈夫だよ」
「えぇ…じゃあなんで、泣いてるの?」
頬を撫で、指の腹で涙を拭う。世界が違っても、女の子の涙はかわらないんだ、とどこか場違いなことを思った。
まるで昔の結花奈だ。小さなころ、毎日泣いていた、寂しがりやで弱虫で泣き虫だった結花奈。
私は弱いんだ、そういうのに。泣いてる女の子をほっておけない。ただの同情かも知れない。何も知れないくせにと思われるかも知れない。
それでも、こんな風に目の前で可愛い女の子が泣いていて、無視できるやつは人間じゃない。
私はそっとシューちゃんの頭を撫でて、可能な限り優しく聞こえるように声をかける。
「大丈夫、大丈夫よ」
その場しのぎでいい加減で無責任で、何も知らない通りすがりの言葉に、どれだけ意味があるかわからない。それでも言わずにはいられない。今だけでいいから、安心してほしいというのは私のわがままだろう。
何も言わないシューちゃんはやっぱり寂しそうで、結花奈とだぶってみえてたまらない。そっと、でも力強く抱きしめる。
そばにいてあげたい。いつか帰る私だからもしかして余計にシューちゃんを傷つけるのかも知れない。それでも今は、一緒にいたい。ひとりにしたくない。
結花奈よりは大きいけど、細くて頼りない子供だ。ひとりになんて、できない。
シューちゃんの涙がとまるのを確認してから私は、体を離して微笑む。
「そんなに美味しかった? 嬉しいな」
「……うん。美味しかった」
泣いた理由は無理にきかない。ここにひとりで住んでいて、両親がいないと言ったシューちゃん。すぐ近くに親戚が住んでるって言っても、子供なんだ。本当に近くにいなきゃ、意味がない。
「ねぇ、シューちゃん、こんな時に聞くのはずるいけど、いいかな?」 「なに?」
「そんなに美味しいと思ってくれたなら、料理をするかわりに、しばらくここに置いてもらえないかな?」
「え……」
「常識について教えてほしい。結花奈のことも調べたいし。もちろん落ち着いたらアルバイトをしてお金はいれるわ。お願い、私を助けて」
私ばかりが得をする内容だ。図々しくて、都合がよくて、身勝手なお願いだ。一緒にいたいのは私のわがままだ。それでもきっと、シューちゃんは優しいから頷いてくれるだろう。
「……好きに、して」
やっぱり。
まだ出会ってほんの数時間だけど、家に入れてくれて、私の話を聞いてくれて、おじさんに紹介するとまで言ってくれたから。何より、凄く見覚えのある瞳をしていたから。
なんとなく、とてもいい子だろうってわかる。
「ありがとう、シューちゃん。恩に着るわ」
私はこれから沢山迷惑をかけるだろう。それでも、その方がシューちゃんの気持ちも楽だろう。面倒みてやってるって思いがあるほうが、無理なく私といてくれるはずだ。
結花奈が勇者としてここにきたなら、私はきっと、シューちゃんのためにここにきたんだ。
何となく、そんな風に思った。
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月曜日更新にしようと考えています。