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次回10話更新。
「ありがとうございました、リアお姉さん」
「いいのよ、私も退屈せずに済んだわ。しばらくはこの街にいるから、もし何かあったら中央通りヒル宿屋を訪ねて。そこに泊まってるから」
乗り合わせた冒険者のリアお姉さんとダケさんとはなんだかんだで二週間ほど一緒にいて、大きめの街で降りていった。
明日には国境をこえてついにユニパル国にはいる。途中でちょこちょこ聞いた噂ではやはりユニパル国では異世界から勇者をよび、それは女の子だという。間違いなく結花奈だ。
どきどきしてきた。会えるだろうか。この国の、多分お城にいるだろうから、場所ははっきりしてる。でもそのまま行っても門前払いされるだろう。どうしよう。
シューちゃんの移動魔法でこっそりしのびこめるかな。でも結界も張ってあるかも知れない。それだと難しい。
単純に、外から大きな声で呼ぼうか。それとも手紙を投げ入れようか。
「…はぁぁ」
結花奈に会えるのだと思うと、何だか緊張する。考えないようにはしていたけど、だけどもちろん、忘れたことなんてない。
結花奈のことだから元気にやってるだろうけど、勇者なんて大丈夫なのかな。厳しい訓練に泣いていないかな。負けん気が強いからそんなことはないか。
魔物とはいえ生き物を殺すのは私でも最初は抵抗はあったし、結花奈は尚更だろう。魚一つ捌いたことないし、心配だ。可愛いし、守ってあげたくなる容姿だから誰かしら気にかけてくれるはずだ。あー、でも悪いやつにひっかかってたらどうしよう。
あれで寂しがりやだし、ころっと変な男に騙されてたり……いやいや、信じてあげなきゃ。でもなー、心配だ。体とか壊してないかしら。
「ユウコ、ユウコ」
「あ、はい。なに、シューちゃん?」
「ぼーっとしてた」
「あ、うん。ちょっと、結花奈のことを考えてたの」
「……大丈夫だよ。きっと、ユカナは元気だし、すぐに会えるよ」
「ありがとう、シューちゃん」
頭を撫でる。くすぐっとそうに目を細め、微笑むシューちゃん。可愛らしい。
「シューちゃん、ユニパル国の王都についたら、どうやって王宮に入ればいいと思う?」
「ううん。……実際に見てみないとわからないかな。案外、街に出てきていてばったり会えるかも知れないし」
「それもそうね。シューちゃんいいこと言うー」
気楽に考えよう。今考えたって仕方ない。当たって当たってぶち壊せば問題ない。
「ふわぁ、今日もいい天気ねぇ。何だか眠くなっちゃうわ」
気を抜くと欠伸が出た。太陽の位置からして、今13時半から14時すぎごろか。あー、学校に通ってたころはいつも睡魔と戦ってたころだ。道理で眠いわけだ。
「ユウコ、眠いなら膝貸そうか?」
「うーん……じゃあ、お願いしちゃおっかな」
シューちゃんのひざに頭をのせて、ぼんやりと外を見る。がたごと揺れる景色。
木々の奥から数匹の魔物が見える。あれは樹木の魔物だ。警戒が強いけど、臆病で自分から襲ってくることはない。
魔法で馬車の回りの空気をまわして、魔物が近づけばわかるようにしてる。結界というほどでもない簡単な感知魔法の一種だ。
100メートルまで範囲を増やしても樹木の魔物の他は小物しかいない。しばらく問題ないだろう。
向こうの世界とかわらない青空と森。魔物さえ除けば、向こうでも見られそうなのどかで平和な景色だ。
「シューちゃん」
「なに?」
「ありがとね」
「…なにが?」
「なんでも、よ。ちょっと眠るね」
「…うん、お休み」
私は胸の中で出口もないのに溢れてくる気持ちを抑えて、目を閉じた。
大丈夫。きっと何もかも、どうなったって、大丈夫。
気持ちのいい風に前髪がゆれる。草木の素朴な匂い。慣れた規則的な振動。頭の下に感じる柔らかくて、暖かなシューちゃんのぬくもり。
意識しなくても、私の意識は夢の中へと落ちていった。
○
「ユウコ、だいぶ慣れてきたね」
「うむ。褒めてくれてもいいわよ?」
「すごい。えらい。はやい」
び、びみょーな褒め言葉だ。でも自信満々なので頭をなでてあげる。
お姉さんに教わったものは二種類。薬の作り方と効率のよい使用方法。毒薬、痺れ薬なども魔法で作れる。もちろん無尽蔵につくれるわけではないけど、その辺からとれる草から作れるので材料には困らない。
「でも、薬ばっかりつくれてもねぇ」
散布方法は魔法。相手を毒状態にすることは普通にできるけど、シューちゃんが倒した方が断然早いのよねぇ。毒状態にしてもすぐシューちゃんが倒すから、全然必要ないというか。
とりあえず、傷薬も作れるようになったので作ってる。わりと簡単なのでささっと作れるようにはなったけど、果たして必要になる時があるのだろうか。
書いてもらった魔法陣もシンプルなので私も書けるように練習したし、問題ない。
「そんなことない。いざという時助かる」
「そうね」
本当にいざって時は、多分最初に持たせてもらった既製品の薬つかうだろうけどね。
「ユウコは凄いよね」
「なにが?」
「すぐ人と仲良くなれて」
お姉さんたちのことを言ってるらしい。確かに人見知りのシューちゃんからしたらすごい、のかな。でもあれはどちらからと言えば仲良くしてもらった感じだし、自分ではそんなめちゃくちゃ社交的とも思わない。
人見知りはしないから、知らない人でも話しかけるけど、話術がすごいわけでもなく普通だ。
「シューちゃんも、慣れればすぐ仲良くできるわよ」
「そうかな?」
「ええ。シューちゃんとってもいい子だもの、ちゃんとわかってもらえれば、誰とだって仲良しになれるわ」
誰だって、友好的にされれば悪い気はしない。シューちゃんはとっかかりがないだけで、自分から話しかけられるようになれば、私程度なら簡単だ。
「………やっぱりいい」
「ん?」
「ユウコがいるから、別に他の人と仲良くしなくてもいい」
「シューちゃん、それは駄目よ。私もずっと一緒にいられるわけじゃない。もちろん、シューちゃんが大丈夫になるまでは一緒にいるつもりだけど、でもそんな、私だけなんて、寂しいわ」
「そうかな?」
「そうよ。恐がらないで。大丈夫。私以外にだって、優しい人はたくさんいるわ」
シューちゃんはきっと、自分から近寄って拒絶されるのが恐いんだろう。無理もない。今まで親族としか会話をしてなくて、しかも病気のせいで避けられていたんだから。
でももう恐がる必要はない。シューちゃんの好きに生きていい。だからこそ、私だけなんて言わないでほしい。もし帰れなくて本当にずっと一緒にいられたとしても、私しか話し相手がいないなんて、寂しい。
「明日には着くわ。そしたら、まずは挨拶から頑張りましょう。ね?」
「……うん、頑張る」
よし、その息だ。私も精一杯フォローするから、目指そう! 友達百人! 最低でも一人!
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