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27 旅する結花奈

「勇者殿」

「おいビィリ」

「なんでしょう、勇者殿」


 仏頂面で返事をするたくましい馬面男、ビィリ。ビビりっぽい名前から受ける印象とは真逆で、でかくてごつくて基本むすっとしてて威圧的だ。それが可憐な女の子に向ける顔かよ。


「勇者って呼ぶなってさっきから言ってんだけど、聞こえなかった?」

「いえ、聞こえていました。しかしあなたは勇者ですから」

「あーほーか! なんで勇者ですって言いふらさなきゃならんのさ!」

「勇者と言い触らす必要があります。勇者が魔王退治に向かっていると知るだけで人々の希望になります」

「勇者はいっぱいいるじゃん。私一人くらい宣伝しなくて大丈夫だから」


 勇者は私一人ではない。いくつかの国から最も強い人間が勇者として選抜されて、すでに出発してるらしい。

 さすがに召喚されたのは私だけらしいけど、名乗る必要性は感じない。だいたい、勇者として顔を覚えられると後々面倒だ。


「いえ、過去の魔王討伐をなしとげた勇者と同じ異世界の勇者殿が旅をしていると言うのが重要なのです」

「そんなん勇者だけじゃわからんから」

「そうですね、ではこれから異世界の勇者殿と呼びましょう」

「長いわ! ていうかやめろ!」


 余計目立ってどうする!


「では妥協してください。私も上司からの指示に従ってるだけなんですから、ご理解ください」

「どんだけ律儀なのよ。ていうか誰も見張ってないんだから、いいじゃん」

「いえ、万が一がありますから」


 この、石頭めっ!

 ビィリはなんかすげー真面目だ。一応事情は知ってる。病気の家族を養うために流れの傭兵もどきから安定した国勤めにジョブチェンジして、でもその後も金儲けのために色々してるらしいけど、騎士を首にならないよう表向けにはすごく真面目にしてるのだというのは、アマノに聞いた。

 前はそんな関わりなかったし、噂では金しだいではなんでもするってあったから、最悪なんとか言うこと聞かせられると思ったけど、考えたら定職を失ってもいいと思わせられるほどの額なんて持ってない。失敗した。


「ちょっと、アマノも何とか言って、説得してよ」

「あー? ユカナ様、別にいいじゃないですか。俺様だってビィリ嫌いだし、あんまり関わりたくないんですよ」

「……本人目の前にしてよく言えるね」

「だって俺様貴族ですから」


 アマノは妙にプライド高いところもあるけど、脅すとひょいひょい言うこと聞くし、おだてても言うこと聞くので非常に扱いやすい。

 ある意味この二人でバランスとれているのか。はー、この二人まとめ上げる自信がないわー。


「とりあえず、この街ではまぁ勇者でもいいよ。もう知られちゃってるし」


 王都を出発してからやってきた商業が盛んな街。なんやかんやあって盗賊団を壊滅させたから名前売れちゃったし、次からでいいや。


「この街以降はユカナで呼んでよね」

「わかりました」

「ほんとにわかってんの?」

「もちろんです。勇者ユカナ殿」

「おちょくっとんのか!」


 マジで私のことなめてんな、こいつ。はー、やってらんねー。









「はー、暇だー」


 がったごっとがったがったと馬車にゆれての移動。移動時間中は暇で仕方ない。魔法の練習くらいしかやることないし、もうほぼ完璧だから練習してても暇だ。


「アマノ、なんか面白いことしな」

「なんでですか。嫌ですよ」

「なんでよ」

「腹踊りとか俺様の矜持が許しません」

「誰が腹踊りしろっつったか」

「他のでも嫌です。俺は魔法使いとしているんです。暇つぶし要因じゃないんで」

「じゃあアマノ、何の役にもたってないじゃん」


 というか、アマノだけじゃなくてビィリもだけど、戦闘では全く役に立たない。立たないは言い過ぎか。でも先日盗賊団100人くらいも、私が八割倒してたし、囮とか気を引くくらいしか役目はない。

 ビィリはまだ馬車の運転手に馬の世話、その他雑事をしてくれてるから助かってるけど、アマノなんもしてないじゃん。


「な、なななにを言いますか! そ、そうです。俺様、毎晩夜の番してますよ! 俺様がユカナ様の快適な夜をお守りしてるのです!」

「いや、途中から寝てビィリに変わってるの知ってるし。徹夜して消耗するよりいいけど、お金握らせて自分だけの手柄にするのはどうかと思ってたよ」

「えっ、ば、ばれてました?」

「バレバレ」


 私は夜の番を免除されてる。結界をはれるとはいえ、万が一のため火を絶やさずに誰かが番をする必要がある。

 とはいえ、普通に考えてほしい。私のような美少女が男2人と旅させられて、そんなぐーすかぴーと寝てられるか。

 自分の回りにさらに結界はって、かつ眠りながらも回りの様子がわかるようにしてる。夢を現実とリンクさせる方法だ。なので夜の交代もビィリの方が多く起きてることも、その間ビィリはひたすらペンダントの写真を見てることも知ってるのだ。 


「あ、あれはその…ま、魔法使いは魔力のためしっかり眠る必要があるんです!」

「はいはい、いいからなんか暇つぶしにして」


 本人が納得してるなら別にどっちが起きてようとどうでもいい。それより今、暇なのが問題だ。


「…わかりました。では俺様の、夢と希望にあふれた人生を語ら」

「やめろ。まだそれならせめて、御伽噺でも語った方がまし」

「わ、わかりましたよ。では、勇者伝説について」


 それもう知ってるけど、まぁいいか。











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