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「はぁぁ」


 胸一杯に広がる潮の臭い。うんざりしなくなったことに安心する。慣れって恐ろしい。

 港町につくころからずっと感じていて、記憶にある海水浴場の臭いよりなんだか生臭い気がして微妙な気持ちにさせられていたけど、船を待って出航手続きをすませるころには慣れた。


「ユウコ、平気なの?」

「うん、もう慣れた」

「…すごいね」


 シューちゃんは海のにおいがしてからすぐに顔をしかめて、ずっと魔法でなんかしてるらしい。イメージとしては空気清浄機つきのヘルメットを被ってる感じ、だと思う。見えないけど。

 そんなわけで見た目は平然としてるけど、においが苦手なシューちゃんは平気になった私をえー、ってやや引き気味に見てくる。

 そんな目で見ないで。


「シューちゃんもそろそろ魔法やめたら? もう4日も魔法使いっぱなしだし疲れるでしょ?」

「平気。あ、夜ユウコにあげれるくらい残ってるから」

「いや、そんなに使わないから残ってるけど」


 シューちゃんから魔力をもらうのは習慣化してるけど、1日使ってると疲れるだろうしもらってない。いくらもらっても困るってことはないから、今イメージとしてお風呂いっぱいくらいあるからしばらく大丈夫だ。ちなみにコップ一杯で魔法一回くらいの換算。

 まして今は船旅中。そんなに魔法使わないし、船がつくまでの三週間はもらわなくても平気そうだ。


「まあでも、シューちゃんの気持ちもわかるけどね。髪の毛も痛むし」


 むしろそっちの方が気になる。シューちゃんはあんまり生臭いにおいに耐性がないんだろう。


「! ゆ、ユウコも魔法かけようか?」

「いや、いいよ。痛むって言っても、海にはいるわけじゃないからそこまでじゃないし」


 まあ、1日以上海にいたことないから、どのくらい痛むのか知らないけど。今のところややべたつくとは感じてるけど、痛んでるのかはわからない。というかお風呂入れないからなおさらなのかも。


「うー、ユウコの髪痛むの嫌だな。私、ユウコの髪好きだから」

「ありがと」


 頭をなでようとして、空気の層があったのでやめる。ついついやってしまって、これで4日の間に何度目か。学習しろ私。


「うー……夜、とくから、頭撫でてくれる?」

「もちろん」


 そのたび決まって、夜にまとめて撫でてと言われるのでそうしてるけど、夜は夜で一時的に顔だけに魔法変えてるだけだから、結局一瞬も魔法といてないんだよね。

 徹底してる。どれだけ嫌なんだと思わないでもないけど、存分になでなでできるのも悪くないし、まぁいいか。









「つり?」

「釣り。港でもやってる人いたでしょ」

「うーん。そう言われると、でもなにする行為?」

「こう、糸の先に針と餌をつけてたらして、餌を食べてひっかかった魚をつりあげるの。ようするに漁ね」

「おー。ハンターだね」


 てなわけで暇つぶしに釣りをします。魚を食料として船に献上することが前提であれば、釣り道具はただで貸してくれる。

 邪魔にならないよう、広い甲板の端っこで椅子を並べて、それぞれ釣り具を用意する。シューちゃんには簡単にレクチャーして、いざやるぞ!


「はっ」

「おー。よし、じゃあ私も、はっ、あ、あれっ?」


 てきとうに海に向かってふりさげた私に対し、思いっきり振りかぶったシューちゃんはお約束のように後ろ側にやりすぎて、積んであった木箱に引っ掛けた。


「気をつけなきゃダメよ。人がこないよう端っこでしてるからいいけど、もし誰か来てて当たったら危ないでしょ」

「うん、わかった。今度こそユウコちゃんと見る」

「というか、船にのってるし、別にすぐそこに落としても勝手に後方に流れていくけどね」


 元々釣り堀でやったことがあるくらい難しいことは知らないけど、釣れなくても問題ない。どうせ暇つぶしだ。

 釣り竿に手を乗せるくらい緩くもってぼんやりと、海を見る。


「……」


 どこまでも続く吸い込まれそうな海と澄んだ空。それぞれの青が遠くでぶつかって、じっと見ているとどこまで空でどこから海か曖昧になりそうな水平線。

 雲もなくよく晴れて、魔法がなければ焼けそうなくらいの太陽。まるで夏のようだな、とぼんやり思って、そういえば今の季節はなんだったか。

 

「……あ、今夏だ」

「え、うん」


 あ、わかってましたか。はい。ですよね。ていうか、あれだよ。年中冬気分で急に変わったからさ。


「暑いねー」

「暑い?」

「ごめん、気分で言った」


 別に暑くはないわ。夏だと認識すると日差しがきついなーと思うと急にそんな気がしたけど、日差し遮る魔法使ってるし、風あるし、気温もそんな高くない。


「あっ、今なにか、引っ張られてる気がする」

「ってひいてる! それひいてるから!」

「わっ」


 びっくりしたのか、シューちゃんは釣り糸の先を魔法で甲板の上に移動させた。


「うわっ!!」


 そして私はシューちゃんの比にならないくらい驚いた。


「な、しゅしゅシューちゃん! 海に戻しなさい!」


 糸ごと甲板に移動させられたのは魚ではなく、なんか物凄い気持ち悪い、目玉が2つ飛び出してぬるぬるに光っててタコみたいに足がいっぱいあるのに、下から魚らしい胴体と尾が出てる。

 なにこれ。魚食べてる途中の新種のタコ? めちゃくちゃ気持ち悪い。ていうか、目と目の間に開いてるの口だよね。きもっ!


「え、でも船員さんに渡すんでしょ?」

「えっ……こ、こいつ食べれるの?」

「昨日も食べたよね?」


 え、昨日食べたのはブリの塩焼きとタコのぶつぎり茹で………え、もしかして、いや確かにタコっぽい足はあるけども! でも色緑だよ!? これタコって訳されてた!?

 うわぁぁぁぁ………。


「…せ、せ、船員さんに、渡し、ま、しょうか」

「うん」


 シューちゃんは頷くと、網でタコを拾って持っていくああああ。仕方ない仕方ない見た目違うだけで味確かに完全タコだったけどでもうわぁぁあの化け物食べてたとか。

 でもそんなこと言ってたらもう何も食べれないし、翻訳信じられないし、根性、根性、大丈夫、見た目。見た目違うだけだから。


「はぁぁぁぁぁ」

「ユウコ、大丈夫?」


 知りたくなかった!

 シューちゃんの家では処理された肉くらいで魚はなかったし、野菜は多少見た目違っても抵抗なかったけど、これはないわぁ。今まで外食でしか魚食べなかったからこその盲点!

 確かに10個以上目のあるキモイ大型犬みたいな魔物とか何匹か見たし、あれが食べられるの知ってるけど、あれまだ体ただの犬だし。はぁ、うう。


「ゆ、ユウコ? 本当に、体調悪い?」

「…………………いえ、大丈夫よ」

「ほんと?」

「ええ……釣りましょうか」

「う、うん」


 こうなったら、こうなったら釣りまくってやる! 釣って釣って釣って、慣れるしかない! 











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