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「シューちゃん大変! 結花奈のいる国がわかったわ!」
家に駆けつけて告げると、シューちゃんはあっさりと頷いた。
「そう、わかった」
え、軽くない? と思った私を許して。結花奈の召還された国を言うと、机に地図を広げて計算し、現実的にそこまでの経路と日数を産出してくれた。マジぱないわ。
「えーっと、じゃあまずはこの港町までの旅費を稼がないとね」
「? すぐ出ないの?」
「いやまぁ、そうしたいのは山々なんだけどね」
車がなくて歩きで野宿だとしても、食料と船代がかかる。シューちゃんに借金返してから貯めた金額は10万ほど。船は高いらしいし、少なくとも2ヶ月以上かかるみたいだから、せめて50万はみておきたい。私野宿とかしたことないけど……まあ、魔法もあるしなんとかなるでしょ。
あ、でも2ヶ月は馬車にのった場合だから実際はもっとかかるのか。は、跳ねていけば……あ、ていうか無意識にシューちゃん連れてく気持ちになってたけど、違うか。でもそしたら魔法使えない! どうしよう……ていうか一人旅はハードル高すぎ。
私って基本お姉ちゃん気質というか、誰かがいたらその人のためにと頑張れるけど、一人だとテンパったりだらけたりするタイプだから。兎さんタイプと言ってもいいわね。
「その…シューちゃん」
「なに?」
「シューちゃんさえよかったら何だけど……私と一緒に、来てくれない?」
うぅ、流石に図々しすぎるよね。ていうか魔力とか、もっといえばお金目当てとか思われてないかしら。
それはさすがに誤解だからね! ただシューちゃんの存在というか、体目当てというか、いてくれるだけでいいのよ!
どきどきしながら問いかけた言葉に、シューちゃんは何故かすぐには返事をくれず、目を大きく開けて私を凝視してる。
う、そ、そんなに予想外のこと言いましたか私。
「………いいの?」
「へ?」
「私も一緒に行って、いいの?」
「あ、うん、というか、私からお誘いしてるんだけど……来てくれる?」
「行くっ!」
元気に笑顔で返事をしてくれた。ほっ、よかったぁ。ありがとうシューちゃん!
シューちゃんは多分14、5才だろうけど、この国では12で一応成人らしいから、シューちゃんさえOKなら大丈夫よね!
「シューちゃんありがとう! シューちゃんが一緒なら心強いわ!」
抱きしめて感謝の気持ちを伝える。あー、愛してるー!
「うん、頑張る」
「うんうん、一緒に頑張ろう!」
○
「ではヒューイさん。今までお世話になりました」
召喚国判明から3日、私は大きなリュックを背負ってヒューイさんに見送られていた。
早っ! 早すぎる。ヒューイさんは何故かすでに情報も持っていて、シューちゃんとタッグをくんであれよあれよと言う間に説得され、荷物もプランも用意されていた。
バイトもヒューイさんから元々短期でかつ急にやめるかもと伝えてくれてたので、すんなり許してくれた。
荷物はヒューイさんからの魔法協力のお礼として、お金はシューちゃんの財産から誓約書を書いて無期限無利子、無制限での追加貸与有りで借りることになった。
ほんとに頭があがらない。とりあえず百万借りた。足りなくなった時のためとシューちゃんもそれなりに持って行くらしいけど金額は怖くて聞けない。
百万の価値があるすごい金貨も山盛り持ってたけどもちろん、そんなの使いづらいから別の貨幣で借りた。
「ああ、シュリを頼んだよ」
街から出る馬車に乗り込み、ついに私たちは旅立った。ヒューイさんの姿が見えなくなり、私はずっと繋ぎっぱなしのシューちゃんの手をさらに強く握った。
「シューちゃん」
「ん、なに?」
「何だかごたごたしちゃって、ほんとに今更だけど」
「うん」
「これからも、よろしくね」
「うん」
シューちゃんはこてんと頭を倒して、私の肩に頭をのせた。まるで甘えるような仕草に癒やされつつ、年上なのに気をつかわれて情けないなと自嘲する。
まぁ、情けないもなにも、一人では不安で心細くて旅できないとか、そのままなんだけど。
「ユウコ、ユカナって、どんな子なの?」
「あ、そういえば、肝心の見た目とか話してなかったっけ」
「うん。それに、ユウコの妹のことだから、知りたいな」
「よし、じゃあ、なにから話そうかな」
ユカナの容姿、出会い、性格とか、日々の出来事。時間が余っていたからか、たわいのない、とるに足らないことまで沢山話した。
少しずつ雪が少なくなり、下り坂を過ぎて山を一つ越えて、変わる景色やこれからのことも少しは話題にしたけど、荷物を運ぶ馬車に乗せてもらっているので他に話し相手もいないし、次の街につくまで一週間ほど、ひたすら結花奈や向こうの世界のことを話した。
「明後日の朝日とともに出発する。朝日より先に門に来ていなきゃ置いていくからな」
商人であり馬車の運転手さんはそう言った。商売の目当ては港町と聞いているので、仕入れをするのだろう。
私とシューちゃんは見知らぬ街にどきどきしながら降り立った。
「雪がつもってない地面て、何だか不思議だね」
見慣れた地面ではあるけど、雪の上を歩いている感覚に慣れていたので何だかちょっと違う。温もりの魔法もいらないし。
「うん、何だか、うーん……変なの」
「ま、そのうち慣れるでしょ。まずは、今夜の宿からね」
夜や食事の際には止まっていて、日に何度かストレッチはしていたし、座りっぱなしで痛くないような魔法もあるけど、やっぱりひたすらじっとしていたので何だか体が鈍っている感じた。
宿が決まったら、適当に出かけよう。
○