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 五分前だとアナウンスがなった。すぐに言葉に出して宣言する。


「後五分よ」

「……そっか」


 シューちゃんは頷いて、力強い瞳で私を見つめた。それは知らない人なら睨んでるとさえ見えるけど、私にはただ泣きそうなのを我慢してるようにしか見えない。


「シューちゃん、好きよ」

「うん、私も好きだよ」


 馬鹿の一つ覚えみたいに、私は何度も何度と口にしている言葉を繰り返す。

 思いが行き詰まって、もう好きだとかしか出てこない。でももうほかに、何を言えというんだ。

 シューちゃんにもシーコさんにも伝えたいことは伝えきった。


 もはや交わさなければいけない言葉も伝えなきゃいけない意思もない。なら、ただただ溢れるこの思いをつたえたっていだろう。口にすることに意味なんてなくたっていい。言葉自体に意味がある。


「大好き、愛してる」

「うん。私も愛してる」


 そっと抱き寄せる。お互いの顔が見えるように、だけど体温が感じられるように体は近くへ。


 シューちゃんは相変わらず、どんな表情でも、どんな時でも、可愛い。可愛すぎる。なので思うまま伝えよう。


「シューちゃん可愛い。可愛すぎる。大好き」

「うん。えへへ、ユウコも可愛いよ」

「君らバカップルですか」

「もう、結花奈うるさいわよ。なに、結花奈もシューちゃんと見つめ合いたいの?」

「いや、さっきやったし、譲るけどさ」


 結花奈とも会話しつつも、私はじっとシューちゃんを見つめた。シューちゃんの顔を目に焼き付けるように。


「ユカナ君、せっかくだし私たちも見つめ合わないか?」

「だが断る」

「つれないね」

「んだよ、しゃねーな。ほれ、私のご尊顔をおがみな」

「はいはい、ありがたやありがたや」


 馬鹿なことをやってる2人は無視をする。

 シューちゃんの黄金を空にすかしたような綺麗な風に揺れる髪を、白くすべらかな肌を、太陽を宿したような力強い瞳を、少し赤みがかった幼げな頬を、それ以外にもシューちゃんの全て。全部忘れないように、私はシューちゃんを見つめた。


「ユウコ、大好き。愛してる。ユウコに会えて幸せだよ。ユウコのおかげで、幸せだよ」

「ありがとう。私もシューちゃんに出会えてよかった。幸せよ」

「ユウコのおかげで、この世界のことも好きになれた。もっと、生きていたいって思えたんだ。ありがとう。愛してる」

「私も、この世界が好きよ。シューちゃんがいるこの世界がね。愛してるわ」

「うん。好きだよ。大好き」

「私も好きよ。大好き」


 シューちゃんもまた、言葉に出さなければたまらないようだ。それは私の気持ちとも全く同じだ。

 好きだ。好き。大好き。私の中から溢れる感情は、もうこの言葉しか知らないみたいに勝手に変換されていく。頭の中で好きという単語がパンクしそうだ。


 馬鹿みたいに、壊れた録音機みたいに、言葉を覚えたオウムみたいに、私たちはひたすらに好きだと繰り返した。

 少しでも多く、少しでも深く、気持ちが伝わるように。伝わっているのはわかっていても、伝えずにいられないこの気持ちをもっともっと、わかってほしい。理解してほしい。


「大好き…っ」

「うんっ、うん、大好きよっ」


 どれだけ言ってもまだ伝わりきっていないような気持ちになって、私たちはついに叫ぶように言い合った。

 そうしてついに、残り一分となった。


『60秒前、59、58』


「あと一分前だ。優姉、準備して」

「ええ、わかってるわ」


 結花奈に急かされて、私はシューちゃんを強く一度抱きしめてもう一度だけ、耳元で大好きだと囁いてから体を離す。

 地面に置いていた荷物を手に持つ。その間に先に荷物を持っていた結花奈がシューちゃんを抱きしめた。


「元気でね」

「うん。ユカナも体に気をつけてね。魔法がないんだから、むちゃしちゃ駄目だよ」

「わかってるよ。キイのことはこき使っていいから、まあ、うまくやりなよ。頑張れ、応援してるよ」

「うん。ありがとう。ユカナも、頑張って。ユウコのこと、よろしくね」

「任せろ」


 強く抱き合ってから2人は離れる。カウントは30秒を過ぎた。


「じゃあね、2人とも」

「ああ。2人も、達者でな」


 結花奈のいっそ気軽な挨拶にシーコさんが手を挙げて応える。


『24、23』


「シーコさん、シューちゃんのことよろしくね」


 私はそれに、ついシーコさん宛てに答えてしまう。最後なんだから、シューちゃんにもさよならを言わないといけないのはわかってるけど、踏ん切りが付かない。


「ああ、任せてくれ」

「優姉」

「わ、わかってるわ。シューちゃん」

「うん…」


『16、15』


 早く、早く言わないと。

 私は隣に並んでる結花奈の手を力いっぱい握り決めながら、向かいに立って私と同じようにシーコさんの手を握って見つめ返してくるシューちゃんに口を開いた。


「シューちゃんっ」

「はいっ」


『9、8』


 ああっ、でもやっぱり駄目だ! さよならなんて、そんなお別れの挨拶はしたくない! 二度と会えないことが確定する挨拶は、例えそれが事実だとしても、言いたくない!


「シューちゃん! 心の底から愛してる!!」


 シューちゃんはちょっとだけ口をあけて驚いたみたいに目を見開いて、だけどすぐに微笑んだ。

 

『5、4』


 私はその圧倒的なほどに美しい笑顔に見惚れる。ああ、やっぱりシューちゃんは世界一可愛い。


「私も! 心の底から! 愛してる!!」


『1、0』


 世界が瞬いた。














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