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 おしゃべりをしていれば、ある程度は気が紛れる。そうしていなければ、どんな顔をすればいいのかわからなくなってしまう。意識してしまえば、何もできなくなってしまう。


 だから私たちは必死に、軽口を織り交ぜたいつも通りでいられるように話を続けた。


 ぐう。


「あ」


 結花奈のお腹から音がした。思わず時計を見ると、お喋りを初めてから八時間ほどたっている。

 お茶をいれて、何の意味もないような思いつくままの会話だったとはいえ、よくこんなに長い間、話していたなぁと少し驚いた。


 もちろん今までに一緒にいた時間、お話した時間はこの比ではないけど、連続して特に何をするでもなくひたすらお喋りをここまでしたのは初めてだ。

 それでも、何を話そうかと話題には悩んでも、みんなでするおしゃべりに飽きてきたりはしなかった。むしろ、もっともっと話したいと思った。


 何を話そう。なんでもいい。たくさん話しすぎて、話題がかぶって、同じことを繰り返して話している気もする。でもそれでもよかった。同じようなことでも楽しいと感じた。


 だけど、もう残り半日ほどしかない。

 時間と言うのはどうしてこんなに早く過ぎていくんだろう。まるで私の時間だけ、早回しされているみたいだ。焦りが私を蝕む。


 とは言え、それでもお腹はへる。結花奈の音に触発されて私もお腹に手を当てる。

 確かに、お腹の中はからっぽだ。意識すると私のお腹もきゅーとなった。


「朝ご飯にしましょうか」


 これが最後の、この世界での食事となる。さて、何を食べようか。


「シューちゃん、何が食べたい?」

「ユウコの食べたいものでいいよ」

「そうねぇ」


 言われて少し考える。この世界で最後に食べるもの。たくさん美味しいものがあった。だけど、ここでしか食べれないものがいい。


「……シューちゃん、ねぇ、お願いしてもいいかしら」

「なに?」

「うん。私、シューちゃんの料理が食べたいわ」

「……うん。わかった。腕によりをかけるよ」


 シューちゃんは立ち上がって外に向かった。前の残りが多少残っていたけど、足りるだろうか。


「あったあった。じゃあ、ちょっと待っててね」

「ええ」

「シュリさん、手伝おうか?」

「ううん。いい。私だけで作りたいから、待ってて」

「わかった」


 三人でシューちゃんの料理風景を見つめながら待つことになった。


「そう言えば、シュリさんだけが作ったシュリさんお手製の料理を食べるのは初めてだな。楽しみだ」

「そうね。ひさしぶりだわ」

「ユウコ君は最初のころ独り占めしていたんだろう? 羨ましいなぁ」

「ふふ」


 ほぼ一人暮らしみたいなシューちゃんが料理をほぼできなかったと言えば、シーコさんは驚くだろうなぁ。

 本当に幼い頃は例えば教師役が定期的に来て、料理も運ばれてきてという生活だったころもあるそうだ。でも文字や魔法を習い終わる頃には材料が運ばれてくるようになったらしい。

 どうもシューちゃん自身も望んだらしいけど、何故料理しなくてもいいという結論に達したのかはいまだに謎だ。


「お腹減ったからなんでもいいけど、何作ってんだろ」

「さぁねぇ」

「こっちでの生活だと何つくってたの?」

「そうねぇ」


 シューちゃんが初めて作ってくれたのは確か………はて、なんだったか。初めてにしては上出来だ、なーんて感じのことを言った気はするけど。

 忘れたなんて言ったら結花奈には薄情だとか言われそうだけど、でももう三年以上、四年近くも前のことだ。

 味付けが薄かったり程度でおかしな見た目というほどでもなかったはずだし、そこまで覚えていないのも仕方ない。


「なんだよ、曖昧だなぁ。やる気あんの?」

「食い気はあるわよ? あと、シューちゃんのこと考えてたの」

「シスコンかよ」

「誰がよ」


 つい突っ込んだけど、いや別に間違いではないか。でもなんというか、そう言われると違和感もあるわね。


「まあ、少なくとも今のシューちゃんは何を作るにも心配ないし、安心して待っていられるわね」


 シューちゃんの後ろ姿でも見ながら待つとしよう。

 それにしてもこうして少し離れた姿をじっくり見るのはひさしぶりな気がする。最近はずっと近かったから。


 私はずっとシューちゃんのことを覚えておきたい。ぬくもりとか、声とか顔とか、近いことだけじゃなくて、後ろ姿も全体像の雰囲気もだ。シューちゃんのあらゆる全てを忘れないよう、目に焼き付けておこう。 


「あーー、はぁ、シューちゃんは後ろ姿もプリティねぇ、ほんとに。世界一可愛いわ」

「おい、それ心の声もれてない? ねぇ? そんなしみじみ彼女の前で言うことじゃないだろ」


 結花奈の無粋なツッコミは無視する。だいたい、結花奈もシューちゃん可愛い可愛いと可愛がっているんだからお互い様のはずだ。


「まぁまぁ、ユカナ君。シュリさんは本当に世界一美しく可愛らしく愛らしいのだから、仕方ないだろう」

「仕方なくねーよキモい。がちで言ってる感がキモい」

「何を言う。本気も何も、シュリさんが世界一美しいのは間違いようのない客観的な、誰もが認める真実だろうが」

「……さて、シューちゃん可愛いわね」

「そーだねー、シュリぷりちーだねー」


 世界一可愛いとか言ってるしそう思ってるけど、身内の欲目こみなのは自覚してる。実際歩いていて通行人が振り向くレベルだけど、ガチで世界一は言いすぎでしょ。


 ま、ツッコむの面倒だし、スルーしとけばいいよね! シーコさんのノロケ?に返事をするよりはシューちゃんを見つめる方が重要だ。


「シュリー! まだー!?」

「もーちょっとー!」


 後何時間かだとか、そんなことは考えず、私はひたすらシューちゃんを見つめた。

 時々シューちゃんの姿が揺らめいて見えるけど、それこそ、シューちゃんが可愛すぎるからに決まっている。











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