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シーコさんからのお誘いで私とシューちゃんはある国のお祭りに来ていた。ぼかす意味もないので白状するとユニパル国の王都なので、結花奈はお姫様のところへ行っている。
創国祭といって、国ができた日らしい。王都だけじゃなく国中でこの日はお祭りらしい。
「似合う?」
「似合う! いや似合うなんてものじゃない! きっとシュリさんのためにデザインされたに違いない!」
「可愛い可愛い。シューちゃんはなんでも似合うわね」
「ありがとう」
創国祭は国を作ったという神様や王様、英雄に扮した仮装をする習わしがある。強制ではないけど、街中の服屋が安価で貸し出しを行っているし、殆どの人が仮装している。
私たちはオーソドックスに前勇者メンバーのコスプレ、もとい仮装をしてる。ちなみに他国の英雄もありらしくて、結構バラエティーに富んでいる。
私は教会のシスター服を。シューちゃんはディリアルさんが着ていたらしい緑色のドレス風の服を。シーコさんは獣人さんがしていたという長いマフラーの格好いい服装だ。
ただ正直に言おう。シーコさんの格好は似合ってるけど、仮装かと言われるとどうなのかしら。
教徒でもない人間がシスター服を着られるのはこの日だけと言うことで、私は1も2もなくこの服を選んだ。
可愛いし、我ながら清楚系のシスター服が似合ってると思う。ふふふふ。この服持って帰りたいけど、帰ったら絶対着ないなー。
「ユウコ君、シュリさん、あっちが広場だ。はぐれないようにな」
「うん。ユウコ」
出された手を繋ぐ。シーコさんがあわあわしながら手を出し、シューちゃんは笑いながら反対の手で繋いだ。
「よし! ではいざいかん!」
シーコさんは満面の笑顔で、元気よく歩き出す。シーコさんは一番年上だけど、そうと思えないくらい単純だなぁ。
「シーコ、早いよ」
「おっと失礼! すまない、痛かったかな?」
「痛くはないよ。ただはしゃぎすぎと思っただけ」
「はっはっは、まぁまぁ。お祭りだからね。大目に見ておくれ」
「そうじゃなくて、私と手を繋いだくらいではしゃぎすぎって言ったの」
「……すみません」
ちょっとだけ赤らんでいたシーコさんだけど、シューちゃんの指摘にはお祭りだからはしゃいでるだけと誤魔化せないくらい赤くなった。
それにしてもシューちゃん、よく堂々と指摘できるわね。確かにシーコさんはどう見てもばればれだけど、自意識過剰みたいに見られたらと思うと自分では指摘できないわ。
「シューちゃん、さすがに可哀想だし、そういうことは言わないであげてよ」
「……だって、あんまりにもわかりやすくされると、私も困るもん」
あら。シーコさんのあからさまな反応にシューちゃんは呆れたわけじゃなくて、ちょっと照れていたらしい。微笑ましいような、ちょっとシーコさんのほっぺた引っ張ってやりたいような、不思議な気分だ。
「さ、さて、では2人とも。もうすぐ広場だ。説明した通り、こっちの広場ではみんな踊っている。恥ずかしがっては負けだぞ!」
はみかながら言ったシューちゃんの台詞にシーコさんは物凄いにやけた顔をしたけど、さっき注意されたのを意識してか慌てて姿勢を正した。
顔はまだにやけつつも、シーコさんは普段通りを装って私たちを案内した。
広間に行くと、仮装をした人たちがさらに仮面をつけて踊りまくっているという物凄い空間ができていた。しかも音楽がないから思い思いの踊りを踊っている。
広場ごとに催しをしていて、この広場では踊りをする用の広場となっている。踊りの際には恥ずかしさがなくなるようにと仮面をつけることになっている。
「はー、仮面もこれまた、色んな種類があるのね」
「うわ、これ羽すごいね」
「この仮面は元々は東大陸からきた伝統らしい」
「へぇ。そうなんだ。南の方かな」
「この国って、結構あちこちごちゃまぜよね」
仮面を付けて、一通り踊ってみた。シューちゃんの初ダンスはごめん、可愛いけど、面白い。音楽ないからかもだけど、リズム感を全く感じない。
シーコさんはこのお祭り自体経験者だからか、割合様になっていた。私自身のことはノーカンで。
「ふー、さて、一汗かいたし何かつまもうか」
「待ってました!」
踊りや見せ物もいいけど、やっぱりお祭りと言えば屋台! あちこちでいい匂いのする食べ物が売られていて、どれも食べ歩きできるような商品ばかりだ。
見慣れないものもあれば、普通に小型化しただけのもある。
「あ、これ美味しい」
「え、ほんと? 一口ちょーだい」
「あーん」
「あーん」
シューちゃんが珍しく積極的に目を輝かせたのでおねだりする。
差し出された串の先に食いつく。お団子みたいな串につらなった焼き餅?は弾力はあって、ちょっと癖のある蜜がかかっていてみたらし団子の固め版みたいだ。
うん、美味しい。このちょっとぶちっとする噛みごたえは、日本でよく食べてた近所の柔らかいみたらし団子より好きかも。
「うん、美味しい」
「でしょ」
「2人とも、この塩味も美味しいぞ」
「えー、ほんとに? 甘いのに塩ってどうなの?」
「シューちゃん、食わず嫌いは駄目よ。てなわけでシーコさん、一口ちょーだい」
「どうぞ」
シーコさんにわけてもらった。タレのかかっていなくて、シンプルな見た目。ふりかけられた塩味で、直ぐ後にほのかな生地の甘みがして素朴な美味しさがある。
「美味しいっ。私これ好みだわ」
「えー……シーコ、私にも一口ちょうだい」
「もちろんだとも!」
お祭りの食べ歩きはついつい食べ過ぎてしまう。日本に帰ったらダイエットしようと私は心に決めた。
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