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181 残り10日

「ふわぁ」

「あら、眠くなっちゃった?」

「うん……」


 夜遅く何となく2人で星空を見ているとシューちゃんは欠伸をした。声をかけると目をこすって、口をもごもごさせた。

 場所が違うから昨日寝たのよりは早い時間のはずだけど、ホットミルクで体も温まっているから余計に眠かったかしら。


「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

「うん」


 こくりと頷くシューちゃんから空のカップを受け取る。屋根の上にあがっていたので、宿の部屋へと転移して戻る。

 歯磨きをしてトイレを済ませ、靴を脱いでベッドに入った。


「おやすみー」

『帰還実施まで残り10日です』


 おやすみなさい、シューちゃん。と言おうとした瞬間、頭の中でアナウンスが響いた。


「? どうかした?」

「いえ」


 忘れていた訳じゃない。そろそろ半分は過ぎただろうと思っていた。だけど、もう、10日なんだ。

 シューちゃんの問いかけに思わず否定したけど、隠しても仕方ない。


「今、後10日だって、アナウンスが鳴ったわ」

「…………そっか。早いなぁ」


 シューちゃんは眉尻をさげて微笑んだ。苦笑するみたいに。

 私はそれに、微笑み返す。


「ね、早いね」


 ぎゅっと抱きしめて、シューちゃんは私にすがりつくように抱きしめ返してくる。


「うん。早い。早いなぁ…………………早すぎるよ」


 言いながらシューちゃんは私の鎖骨あたりに顔を押しつけて、最後に小さく小さく呟いた。その最後の囁きは凄く小さくて、でもこの距離で、この静けさで聞こえないはずがない。

 だけど私はそれに応えなかった。震える小声に、閉じたまぶたの端から落ちた雫に、気づいていたけど応えなかった。

 泣いていると認める訳にはいかない。私たちは、泣くわけにはいかないんだ。


「……寝ましょうか」

「うん」

「また明日も、遊びましょう。たくさん、たくさん遊びましょうね」

「うん」









「はーるがきーたー」

「はーるがきーたー」


 シューちゃんと私で歌を歌いながら、私たちは広い花畑にいた。結花奈はシューちゃんに膝枕をしてもらい、私たちは花の髪飾りをつくっていた。


「ううん。シュリ、下向いて歌わないで」

「あ、ごめん」

「ていうか、折角こんなに綺麗なところに来たのに寝なくてもいいでしょ。結花奈もしたら?」

「いいよ、別に。シュリの太ももの柔らかさを堪能してるので十分だ」

「柔らかい?」

「最高にね」


 ううん、そこまで言われると私も膝枕してもらいたくなる。今まで何度もしてもらって膝枕具合は結花奈に負けないくらい熟知している。

 でも目の前で堪能されると羨ましくなる。人の業というのは深いものだ。


「と言うわけで、私も膝枕させてよ」

「え? いいけど」

「どう言うわけだよ。はしょんな」

「良いのよ。私とシューちゃんはツーカーだから」

「いや、めっちゃ困惑顔してますけど」

「そ、そんなことないよ。どうぞ、ユウコ」


 シューちゃんは閉じて座っていた状態から、右膝を開いて私の頭をのせられるようにしてくれた。

 シューちゃんは優しいのぅ。冷たいツッコミをする結花奈とは大違いだわ。


「ありがと、どっこらしょー」


 寝転がってシューちゃんの膝に頭をのせる。見上げると吹き抜けた青空をバックにシューちゃんの微笑みが見える。シューちゃんの手が私のおでこの髪を撫でた。


「あー、たまらんのぅ」

「おっさんか」

「ふふ、わざとよ」

「わーっとるわ」

「ユウコ、気持ちいい?」

「もちのろんよ。最高ね」

「シュリ、私も一つ頼むぜ」

「かしこまりましたぁ」


 視線を動かすとシューちゃんが結花奈の頭にも手を乗せるのが見えた。それはいいんだけど。


「結花奈、前から思ってたんだけど」

「なにさ。怖そうな声だして。こんな長閑な場所でお説教ですかー?」

「そうじゃないけど。シューちゃんに変なこと仕込まないでよ」

「エー、なんのことー?」

「嘘をつきなさい。シューちゃんが何も言われずに店員風な返事をするわけないじゃない」

「可愛いじゃん」

「可愛いわね」

「ならOKじゃん」


 けらけらかるーく笑う結花奈は、全く何もわかってないわねぇ。シューちゃんは何してても可愛いんだから。


「おばか。そういう問題じゃあないわよ」

「ユウコ、駄目だった? ユカナの話し方楽しいから好きだけど」


 むう。シューちゃん自身が気に入っていたなら仕方ないけど、でも何が嫌って、何だか日本についてデタラメを教えてるような感じで、そんな嘘教えてって気持ちになるのよねぇ。


「駄目じゃないけど、シューちゃんに日本のこと誤解されるのは嫌なのよ」

「わかった。誤解しない」

「シュリは賢いねぇ。よし、解決だね」

「えー、いいのかしら」


 誤解しない、の一言で誤解とけるわけでもないけど。でも結花奈の言ってることが冗談だってわかってるなら、それでいい、のかしら。うーん?


「ふわぁ、やばい。眠くなってきた。昨日寝てないからなぁ」

「ユカナ、昨日何かしてたの?」

「いや、向こうにいたから、体感ではいま夜くらいなんだよ」

「なるほど。寝てもいいよ」

「いやぁ、そう言うわけにも……ぐかー」

「寝るの早っ」

「いや、冗談だよ」

「わかってるわよ」


 わかってるけどツッコミをいれるまでが一まとめでしょ。

 私たちのやりとりにシューちゃんのくすくす笑いが降ってくる。


「ふふ。ユカナはいっつも面白いね」

「まじか。褒められちまった。うぇーい」

「うん。今の顔面白かった」

「てめぇ、可愛い顔してるからって調子にのんなよ」

「え、ユカナの方が可愛いよ」

「よし、許す」

「ありがとう?」


 シューちゃんはよくわかってないらしいけど、結花奈も口調からして内容の割に怒ってはいないだろう。というか見てなかったけど、絶対変顔してたでしょ。

 結花奈は女を捨ててまで笑いをとりにくるんだから、恐ろしい。そこが一緒にいて飽きないポイントでもあるけど。










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