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「行ってきます。いい子で待っててね」


 私の頭を撫でて、ユウコは家を出る。この間は邪魔が入ってくれたけど、もうそうはならない。ユウコが私にくれたペンダントになった魔法具は、次に私が発作を起こした時、私から溢れる魔力に反応し、魔力を吸い取る。

 もう、彼女を縛る鎖はない。


 がちゃんと、ドアが閉まる。それはまるで私と彼女の間を遮るようで、だけどそんなの、嫌だ。

 

「っ」


 私はドアを開ける。跳ね上がり、塀を越えるユウコの後ろ姿が一瞬だけ見えた。

 ユウコを縛る鎖はない。でもそれは私もだ。私を縛るものだって、もう何もない。


 私は外に出ることが許された。ユウコの後を追いかけることだってできる。誰かを傷つけることを恐れなくていい、誰かに恐れられることに怯えなくてもいい。


 シュシリング・アイドバリル・オードルーバスは死んだことになっている。だったら私は、ただのシューちゃんとしてユウコといたい。


 私はおじ様に会うことを決めた。









「やぁ、こうして2人で会うのは久しぶりだな」

「そうですね」

「それで、話というのは?」


 突然の訪問にもおじ様は何でもないように応じてくれた。でもそれは優しいからとかではない。単に私がくることをわかっていたのだ。

 私の決死の訪れもおじ様には、予定通りの訪問にすぎないのだ。


「おじ様もご存知の通り、ユウコは勇者としてこの世界に呼ばれた妹のユカナを探しています」

「ああ、そうだね」

「ユカナがどこに呼ばれたのかわかれば、きっとすぐに会いに行こうとします。そしてそのまま帰ってしまうか、帰る方法を探すでしょう」

「それで?」

「……私も、ユウコと一緒に行かせてください」

「……」


 おじ様はすぐには返事をしなかった。緊張で背中に汗が流れた。

 おじ様はけして優しいだけではない。優しいところもあるけど、その上で損得の計算で動く。情もあるけど、冷静に冷酷に小を切り捨てられる人だ。


 大丈夫。病を克服した以上、外にでるならむしろ遠くへいくほうが納得してもらえるはずだ。

 私の存在を隠蔽する必要があったのはわかる。でもすでに私の死亡は揺るがないはずだ。別人として生きる分には問題ない。私のことをいつか利用するとしても、連絡をとって位置を把握していればいざと言うときに困らないし、きっと旅立つことを許してくれるはずだ。


「……シュリ、例えば宿をとったとしよう。ユウコと2人で一部屋。夜と朝の食事つき。いくらかかる?」

「え?」

「いいから、答えなさい」

「え、えっと、じゅ、十万…いや、一万円くらいです」

「ハズレ。シュリ、君は世間知らずだ。ただでさえ異世界、慣れぬ土地で世間知らずな君を連れて、ユウコの負担になるだけだと思わないかい?」

「っ……で、でも、それでも…」


 私の魔法は便利だし、魔物が襲ってきた時にはきっと役立つはずだ。それに、お金だってある。土地勘がなくても世界地図なら頭に入っているし、全くお荷物なんてことないはずだ。


「魔法が使えるから、なんて思ってないだろうね? ユウコは元々魔法のない国から来たんだ。魔法なしで乗り切るすべを持っているだろう。それに彼女自身は魔法陣さえあれば大抵の魔法をつかえる」

「で、でも、あ、そう、ユウコは一人では魔法を使えない」


 そうだ。ユウコはまだ自分の魔力をつかえない。だから一人で旅なんて無理だ。


「そうだね。一人ではむりだ。だから私は旅慣れた護衛を雇ってあげるつもりだよ。なんせ、君の命の恩人だからね」

「っ」


 そんな、そんなことしたら、ほんとに私のこと、いらなくなってしまう。おじ様が支援するなら、私が役に立てることがなくなってしまう。


「……」

「俯くな。シュリ、顔をあげなさい」


 言われて、思わず下がった頭を持ち上げる。おじ様の微笑み。いつも変わらない微笑み。私はおじ様の笑顔しか見たことがない。だから、おじ様が何を考えているのかわからない。


 私をこの土地に置き続けることに、おじ様が意味を見いだしているのか。今までは病があるから出られなかった。その懸念はない。私の存在価値はここにいないとなくなるわけではない。それにユウコの妹は勇者なのだ。その意味は小さくないはずだ。


「そんなシュリでは、行かせるわけにはいかないな」

「そんな…」


 いや、まて。こんな私では、ということはつまり、条件によれば許可されるということだ。


「…条件は?」

「簡単なことだよ。君が旅立つユウコをサポートできるよう、1人前になることだ」

「え?」


 おじ様に説明をうけると、どうやら情報がくるまでまだ時間があるのだから、それまでに学べば旅立ってもいいとのこと。

 そんなこと? というかむしろ教えてもらえるなら望むところだ。だけど、それはおじ様に何の得もない話だ。


「どうしたんだい? 他に何か質問でも?」

「あ、いえ…」


 とりあえず明日から、私は旅慣れた経験のあるものから、ユウコがバイトをしてる間に教えを請うことになった。

 どうしておじ様があっさり許可をしてくれたのかわからない。もしかして、私の存在する必要性がなくなったのか。それならそれでいいけど、ひょっとするとおじ様は私が考えていた以上には優しい人だったのか。


「1人前になれなければ、旅立つことはできないよ。いいね?」

「はいっ」


 まぁ、どんな理由でも構わない。例えおじ様がどんな思惑でも、ユウコと一緒にいられるなら、それだけでいい。











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