178 残り15日
「はー、海ねぇ」
「そうだね」
私とシューちゃんは結花奈に誘われて、釣りをするため小舟で海にでていた。ロープを岸に繋いで、私たちはかれこれ二時間ほどおしゃべりと釣りに興じていた。
だけど全く釣れないので飽きてきて、ちらっと振り向いたら岸がなかった。
「あー、ひっかかっちゃったみたいだね」
結花奈がロープを引っ張ったけど、船は動かない。途中で千切れてしまったらしい。気づかなかった。
回りのどこを見渡しても海海海海。ひさしぶりのこの海っぷりは嫌いじゃない。強めの日差しも、魔法で日焼けしないようにしたからか暖かくは感じるけど、厳しさは感じない。
「はー、それにしても、海ねぇ」
「そうだね」
同じことを言ってるだけなのに律儀に相槌を打ってくれるシューちゃん、愛してる。
「……いや…遭難してない?」
「そうなんです」
「ギャグ言ってる場合かよ」
「え、今のギャグ?」
「通じない冗談ほど、悲しいものもないわね」
結花奈は何故か恐る恐る言ったけど、誰が見たって遭難してると断言できるレベル。
「別に、帰ろうと思えば帰れるし、いいじゃない」
「私はユウコとならいいよ」
「ま、シューちゃんたら可愛いわね」
「うん」
よしよしと撫でるとシューちゃんは目を細める。はー、いつも見てるけど、シューちゃんはいつも可愛い。どんな顔も可愛い。
………あ、シューちゃんの写真とれないかしら。ていうか絶対欲しい。
「冗談はともかく、釣りも飽きたし帰りましょうか」
「ほんと、のんびりしてるからわかってないのかと思ったよ。で、どうやって帰るの?」
「え? 普通にいつも通り魔法で」
「船と釣り竿、返さなくちゃいけないけど、船も転移できるの?」
「……」
どうだろう。確かに自分だけで、建物の中でも家まで転移はしない。手にさえ持っていればできる、はずだけど。
「ちょっとやってみましょうか。私船ごと1メートル前に進むから、2人は空から動いたか見ていて」
「わかった」
結花奈がシューちゃんを抱き上げて空に浮かんだ。近くで止まっているのを確認してから、転移した。
「わぎゃっ」
海に落ちた。直ぐに結花奈が浮かべてくれたけど、膝下まで濡れた。冷たい。
「わーん、冷たいー、もーやだぁ」
「はいはい、子供みたいなこと言わない」
「ユウコ、次私やるよ。私ならできるかも知れないし」
「え? なんで?」
「だってユウコの場合、本当はできる時もできないと思ったらできなくなるでしょ?」
「あ」
シューちゃんにやってもらったら普通にできた。濡れ損だ。
「結花奈、乾かして」
「はいはい」
ふー、気持ち悪かった。自分から水に入るのは全然平気だけど、意図せず濡れるのは駄目だわ。それに靴下濡れるのは気持ち悪い。
ともあれ船に乗り直し、シューちゃんに元の場所の近くに転移してもらった。そこからは結花奈の魔法で船を動かして陸へ戻った。
船と釣り具を返して、適当に市場をまわることにした。
「わ、この魚すごく綺麗ね」
山のようにつまれた、光を反射して輝く綺麗な魚に足をとめる。魚屋のおじさんはにこにこしながら近づいてきた。
「嬢ちゃん、お目が高いねぇ。ついさっきあがって来たところだよ」
「優姉、私こっちの方が好きなんだけど」
結花奈が指差したのはどこでもとれて、どう料理してもだいたいいける大きめの魚だ。確かにちょくちょく買ってたし、好きだけど。
「それ、確かに私も好きよ。でもこの魚、見たことないし」
「綺麗なウロコだね。確か、虹魚だったかな。この辺りだけで生息していた、はず」
「おう。虹魚はなぁ、焼いて塩ふるのが一番うまいぞ。他ではみねぇし」
さすがシューちゃんは物知りだ。おじさんの勧めもあり、結局私は虹魚を買った。シューちゃん家に戻り、夕食用にすることにした。
「さて、下拵えは終わったけど、まだちょっと早いわよね。何かする?」
「んー、シュリなんかしたいことある?」
「んー、別にないよー」
シューちゃんに後ろから抱っこされて、結花奈はシューちゃんと指遊びをしていた。
「いっせーのーで3」
握った両手を親指が上に来るようにくっつけ、親指がたっている数をあてるゲームだ。
結花奈もシューちゃんも両方立てていたので、合計4で外れだ。
一度2人とも指をおろしてから、今度はシューちゃんが合図をだす。
「いっせーのーで1」
「ぐ」
シューちゃん0、結花奈一本であたりだ。シューちゃんが片手をおろす。
「いっせーのーで2! よし」
シューちゃん0、結花奈2で今度は結花奈も片手になる。
後は0か1か2の3択だ。いや、相手が指をたてるかどうかだから2択か。
「…いっせーのーで1」
シューちゃん0、結花奈0。
結花奈はにやっと笑ってから口を開く。
「いっせーのーで1」
「うっ」
シューちゃん1、結花奈0。結花奈の勝ちだ。
「勝った! へーい!」
「うー、しまった。最後までださなきゃよかった」
「ふっふっふ、シュリの考えることはまるっとお見通しだ!」
「むー」
上体だけ振り向いてポーズを決める結花奈に、シューちゃんは頬を膨らませてぎゅっと抱きしめた。
「おいおい、負けたからって暴力はいけないぜー」
「暴力じゃないもん」
否定する割にシューちゃんの力は強そうだ。まあ、結花奈は全く平気そうだしいいけど。それより私、無視されすぎじゃない?
「2人とも、無視しないでよー。私もまーぜーてー」
「うん、隣きて」
「へへ、優姉まとめて負かしてやるぜ」
とりあえず夜になるまで三人で指遊びをした。やり始めると意外と熱中してしまう。
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