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「はー、海ねぇ」

「そうだね」


 私とシューちゃんは結花奈に誘われて、釣りをするため小舟で海にでていた。ロープを岸に繋いで、私たちはかれこれ二時間ほどおしゃべりと釣りに興じていた。

 だけど全く釣れないので飽きてきて、ちらっと振り向いたら岸がなかった。


「あー、ひっかかっちゃったみたいだね」


 結花奈がロープを引っ張ったけど、船は動かない。途中で千切れてしまったらしい。気づかなかった。


 回りのどこを見渡しても海海海海。ひさしぶりのこの海っぷりは嫌いじゃない。強めの日差しも、魔法で日焼けしないようにしたからか暖かくは感じるけど、厳しさは感じない。


「はー、それにしても、海ねぇ」

「そうだね」


 同じことを言ってるだけなのに律儀に相槌を打ってくれるシューちゃん、愛してる。


「……いや…遭難してない?」

「そうなんです」

「ギャグ言ってる場合かよ」

「え、今のギャグ?」

「通じない冗談ほど、悲しいものもないわね」


 結花奈は何故か恐る恐る言ったけど、誰が見たって遭難してると断言できるレベル。


「別に、帰ろうと思えば帰れるし、いいじゃない」

「私はユウコとならいいよ」

「ま、シューちゃんたら可愛いわね」

「うん」


 よしよしと撫でるとシューちゃんは目を細める。はー、いつも見てるけど、シューちゃんはいつも可愛い。どんな顔も可愛い。

 ………あ、シューちゃんの写真とれないかしら。ていうか絶対欲しい。


「冗談はともかく、釣りも飽きたし帰りましょうか」

「ほんと、のんびりしてるからわかってないのかと思ったよ。で、どうやって帰るの?」

「え? 普通にいつも通り魔法で」

「船と釣り竿、返さなくちゃいけないけど、船も転移できるの?」

「……」


 どうだろう。確かに自分だけで、建物の中でも家まで転移はしない。手にさえ持っていればできる、はずだけど。


「ちょっとやってみましょうか。私船ごと1メートル前に進むから、2人は空から動いたか見ていて」

「わかった」


 結花奈がシューちゃんを抱き上げて空に浮かんだ。近くで止まっているのを確認してから、転移した。


「わぎゃっ」


 海に落ちた。直ぐに結花奈が浮かべてくれたけど、膝下まで濡れた。冷たい。


「わーん、冷たいー、もーやだぁ」

「はいはい、子供みたいなこと言わない」

「ユウコ、次私やるよ。私ならできるかも知れないし」

「え? なんで?」

「だってユウコの場合、本当はできる時もできないと思ったらできなくなるでしょ?」

「あ」


 シューちゃんにやってもらったら普通にできた。濡れ損だ。


「結花奈、乾かして」

「はいはい」


 ふー、気持ち悪かった。自分から水に入るのは全然平気だけど、意図せず濡れるのは駄目だわ。それに靴下濡れるのは気持ち悪い。


 ともあれ船に乗り直し、シューちゃんに元の場所の近くに転移してもらった。そこからは結花奈の魔法で船を動かして陸へ戻った。

 船と釣り具を返して、適当に市場をまわることにした。


「わ、この魚すごく綺麗ね」


 山のようにつまれた、光を反射して輝く綺麗な魚に足をとめる。魚屋のおじさんはにこにこしながら近づいてきた。


「嬢ちゃん、お目が高いねぇ。ついさっきあがって来たところだよ」

「優姉、私こっちの方が好きなんだけど」


 結花奈が指差したのはどこでもとれて、どう料理してもだいたいいける大きめの魚だ。確かにちょくちょく買ってたし、好きだけど。


「それ、確かに私も好きよ。でもこの魚、見たことないし」

「綺麗なウロコだね。確か、虹魚だったかな。この辺りだけで生息していた、はず」

「おう。虹魚はなぁ、焼いて塩ふるのが一番うまいぞ。他ではみねぇし」


 さすがシューちゃんは物知りだ。おじさんの勧めもあり、結局私は虹魚を買った。シューちゃん家に戻り、夕食用にすることにした。


「さて、下拵えは終わったけど、まだちょっと早いわよね。何かする?」

「んー、シュリなんかしたいことある?」

「んー、別にないよー」


 シューちゃんに後ろから抱っこされて、結花奈はシューちゃんと指遊びをしていた。


「いっせーのーで3」


 握った両手を親指が上に来るようにくっつけ、親指がたっている数をあてるゲームだ。

 結花奈もシューちゃんも両方立てていたので、合計4で外れだ。

 一度2人とも指をおろしてから、今度はシューちゃんが合図をだす。


「いっせーのーで1」

「ぐ」


 シューちゃん0、結花奈一本であたりだ。シューちゃんが片手をおろす。


「いっせーのーで2! よし」


 シューちゃん0、結花奈2で今度は結花奈も片手になる。

 後は0か1か2の3択だ。いや、相手が指をたてるかどうかだから2択か。


「…いっせーのーで1」


 シューちゃん0、結花奈0。

 結花奈はにやっと笑ってから口を開く。


「いっせーのーで1」

「うっ」


 シューちゃん1、結花奈0。結花奈の勝ちだ。


「勝った! へーい!」

「うー、しまった。最後までださなきゃよかった」

「ふっふっふ、シュリの考えることはまるっとお見通しだ!」

「むー」


 上体だけ振り向いてポーズを決める結花奈に、シューちゃんは頬を膨らませてぎゅっと抱きしめた。


「おいおい、負けたからって暴力はいけないぜー」

「暴力じゃないもん」


 否定する割にシューちゃんの力は強そうだ。まあ、結花奈は全く平気そうだしいいけど。それより私、無視されすぎじゃない?


「2人とも、無視しないでよー。私もまーぜーてー」

「うん、隣きて」

「へへ、優姉まとめて負かしてやるぜ」


 とりあえず夜になるまで三人で指遊びをした。やり始めると意外と熱中してしまう。










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