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『でさぁ、そんでアリアが』


 夜、結花奈から電話がかかってくるのが最近のお決まりになってきた。西大陸の結花奈からしたら午前中だろう。こういう些細な気遣いをされると、成長を喜ぶだけじゃなくて密かにときめいてしまう。


 東大陸観光を初めてから早一週間が経過し、もうすぐ二週間となる。シーコさんとも電話で話したりはしてる。家には何回か帰ってるけど、時間の関係上直接会ってない。

 シーコさんはシーコさんであちこち楽しんでるそうだ。気を使ってくれてるらしく、私たちと合流しようとは言わない。


「でもよかったわね、まるで物語みたいだわ」

『まあ、そうだね。お姫様と騎士団団長なんて、ベタな少女漫画だ。にしても、猫も杓子も結婚結婚、なんだかなぁ』

「ひねくれた言い方しないの。素直に祝福してあげなさいよ。王様に認められる為に頑張ったんだから」

『いやー、だってアリアが、あのイケメンくそ野郎とって……目の当たりにするとダメージくらうんだよね』


 お姫様と、結花奈に剣を教えてくれた騎士の人が今度結婚するらしい。今はまだ婚約状態で、式をあげるまではまだ時間がかかるそうだけど、ほぼ確定らしい。

 結花奈はその騎士が気に入らないらしく、でもお姫様に言う訳にもいかないので不満がたまってるようだ。


 その後もいくらか愚痴を聞き流してから、軽くこれからのことを話してから電話をきった。


「あ、次私、ユカナと話すね」


 シューちゃんが待ってましたとばかりに結花奈に電話をかける。電話機能にはまだ飽きないらしく、嬉しそうだ。


 意外とシューちゃんって、ミーハーというか、最新技術というか、目新しいものに弱いわよね。

 何か、そういう系も考えてみるのもいいかも知れないわね。


 私は笑顔で電話をするシューちゃんを見守りながら、観光予定について思いを馳せた。









「ほう、ここが亜人大陸か」

「わぁ……というか、亜人って、いるとは聞いていたけど、初めて見たわ」


 前勇者の記述から存在することは知っていたけど、向こうの大陸では全然見なかったし、話にも聞かなかった。

 いくらファンタジーの世界とはいえ、立って歩いて言葉を話す獣、と失礼。えっと、獣顔の人間というのは、あまりにも現実離れしていて、違和感さえ感じる。


 電話で話をした流れで、私たち四人は亜人大陸を訪ねていた。好奇心のみの勢いまかせの訪問だけど、来た価値はあると思う。

 見るだけでもうお腹いっぱいなくらいのファンタジーだけど、せっかくなのでもうちょっと近くで見てみたい。


「ね、ねぇ結花奈、ちょっと誰かに話しかけてみてよ」

「びびりだなぁ、しゃーない。んじゃちょっくら。すんませーん、ちょっとお伺いしたいんですけどー」


 結花奈が声をかけたのはこちらの方向へ歩いて来ている買い物かごをさげた狼さん。スカートなので多分め、もとい女性。

 狼さんは近づいてきて小首を傾げた。


「何だい? 人間がいるなんて珍しいね」

「ちょっと今、世界を回ってる最中なんですよ。この辺りに宿屋ってあります?」

「ああ、あっちに歩いて行きゃ、食べ物屋があって、そのもっと向こうに並んでるよ」

「ありがとうございます」


 狼さんはごくごく普通のお声だった。どうやって発声をしているのか非常に気になるけど、顔も見分けは付かないけど表情が何故かわかる。

 コミュニケーションには苦労しなさそうだし、ごく普通の、着ぐるみを着ているだけの人だと考えて問題なさそうだ。


「……ふう、危なかった」

「いや、あぶなくねーよ。つか、揃いも揃って服を引っ張るな。伸びる」


 緊張したのか息をはくシューちゃんに呆れたようにつっこんでから、結花奈は私たちの手を振り払う。

 私が左袖を、シューちゃんが右袖を、シーコさんが後ろの裾を引っ張っていたのでうっとおしかったらしい。

 無意識で私がやったら何故か2人が真似したんだけど、現地人の2人にも亜人との初邂逅は緊張するものだったらしい。


「すまない。次は私が話しかけて見てもいいかな?」

「好きにすれば? とりあえず、宿とりに行こう」

「そうね」

「ユウコ、手繋いで」

「そうね。ここは慎重に行きましょう」


 シューちゃんと手を繋いで寄り添う。人と手を繋ぐとすぐそばにいる感じがして、何となく安心する。


「そんなびびらなくても大丈夫だって」

「びびってなんかないわよ。ただその、ほら、シューちゃんのことを好きなだけよ」

「うん。そうそう」


 普通の人だと頭ではわかっていても大きな口を開けて声をだす姿は近くで見ると迫力があって及び腰になってしまうとか、そんなことは全くない。


「だからユカナも、手を繋いでよ」

「あ、シューちゃんずるいわよ。結花奈、私と繋ぐわよね?」

「めんどくせー」


 ひどい。私はただ勇者の称号をもつ結花奈なら安心、もとい恋人の間柄の結花奈と手を繋ぎたいと思っただけなのに。


「よし、ユカナ君、ならば私と手を繋ごうか」

「いいけど、キイはそれでいいのかよ」

「是非頼む」

「いいけども」

「なによ。いいわよいいわよ。私はシューちゃんと両手繋いじゃうもん、ねー」


 手をだすとシューちゃんは笑顔で私の左手も握ってくれた。


「うん。繋ぐ。これなら安心だね」

「いや安心じゃねーよ。危ないからやめなさい。大丈夫だから」


 まあ、さすがに歩きにくいし冗談だけど。真顔でとめなくても。

 とりあえずシューちゃんのおててをにぎにぎしてから片方は離す。


「よしっ、シューちゃん、こうなったらびしびし話しかけて行くわよ。まずは宿の受付から!」

「うん、わかった」

「私も話したいんだが」

「早い者勝ちだよ。ユウコ、走ろう」

「え」


 久しぶりに全力で走った私は受付で会話するどころではなく、結局シューちゃんが部屋をとった。









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