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「優姉、私は私で移動できるようにしてよ」
アルキアさんに渡してシューちゃん家に戻って、眠って起きた夕方すぎ。
体内時計がおかしくなりそう、と思いながら朝食をつくっていると結花奈が私の服をひっぱりながらおねだりしてきた。
しばらくなかったので計算してるだろうとわかっても上目遣いの可愛さに胸がきゅんきゅんする。
頭を撫でたいけど包丁を握っているので我慢する。
「いーけど、どうやって?」
「スマホ鏡あるじゃん? あれ私も使えるようにして増やしてよー」
「はいはい、後でね」
「わーい」
まあ、既存のルールに則って道具を増やすくらいなら問題ないでしょ。
朝ご飯をすませて、私がいる限り私の魔力で転移魔法が使えて、私から手渡しされれば誰でも使用可能という設定にして、三人に渡した。
「はい、言うまでもないけど、悪用しないでね」
「はいはい、わかってるって。不法侵入しかしないよ」
「結花奈、あー、いや、仕方ない、か」
一瞬怒りそうになったけど、考えたらお姫様に会うためには不法侵入しか方法がない。
「しかし、私にまで渡してよかったのか?」
「そりゃもちろん。今更何を言ってるのよ」
これが悪人の手に渡ったら結構大変な代物であることはわかっている。でもシーコさんが悪人じゃないことはよくわかってる。むしろ善人だ。
それに結構アホっぽいとこあるし、悪いことしようとしても大したことできないタイプだし。
「私は別にいいよ? ユウコと一緒だと使わないし」
「そう? でもまあ、シューちゃんだけ渡さないのもあれだし、持つだけもって置いて。軽いし」
「わかった」
手のひらサイズで場所もとらないので渡しておく。あったらあったで困るものじゃないし、シューちゃんがふらっと家に忘れ物とかでも帰れるならいいわよね。
「んじゃ私は私で遊んでくるよ。時間とかも決めにくいから、テキトーに帰るから心配しないで」
「あ、ちょっと待って。じゃあ、鏡同士で会話できる機能つけるわ」
「なんでもありか。マジでスマホじゃね」
「いいじゃない」
ボタンも4つ付けて、それぞれ押すだけで繋がって会話できるようにした。もっと携帯電話風にしてもよかったけど、他に機能ないし、異世界組にもわかりやすくしないとね。
「こ、こんにちわー」
「すごい、聞こえる。こんにちわー」
「おお、シュリさんの声が二重に聞こえる。なんと素晴らしい!」
教えるとシューちゃんとシーコさんは恐る恐る会話機能を試していた。よし、問題ないわね。これで会いたくなっても大丈夫だ。世界中にばらばらになったら、合流大変だものね。
「シュリさん! もう一度お願いします!」
「えー、仕方ないなぁ。こんにちわ、シーコ、聞こえてる?」
「聞こえます! まるでシュリさんに挟まれているようだ!」
思いの外2人は電話機能に感動しているらしく、隣にいるのに夢中で電話で話していた。シーコさんは使い方間違えてる気もするけど。
「んじゃ改めて行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
結花奈を見送り、まだ遊んでる2人を横目にたまった洗濯物をまとめて洗った。魔法で一瞬ではないけど、魔法で桶を洗濯機のように水を動かして洗った。
「あ、洗濯終わった? 私も干すの手伝うよ」
「おお、私もだ。むしろ、ユウコ君だけに任せてしまったからな。後はゆっくりしていてくれ」
「そう? そうね、じゃあお願いするわ」
基本的にここは室内干しなので、外が暗くなってきていても関係ない。だけど室内だからあんまり大勢で動いても煩わしい。素直にソファに座って休憩させてもらうことにする。
「シーコはそっちから干して」
「了解した」
特に会話もなく黙々と作業が進み、五分ほどで洗濯物は干された。
「さて、では私は乾くまで暖炉を見張っておくよ。2人は好きにしてくれ」
「わかった。ユウコ、今日はどうするの?」
「え、そ、そうねぇ」
特にこれと言ってやることがないし、だからと言って本を読むくらいならシューちゃんと思い出の一つでも作りたい。
「シューちゃんは、私と何かしたいことある?」
「うーん、ぎゅってしてほしい」
「ぎゅー」
そう言うことではない。ないけど可愛いので擬音を言いながら抱きしめた。正面から頭を抱えるように腕を回す。
「えへへぇ」
「はい、じゃあ改めて、なにしたい?」
「んー、でもほんとに、ユウコと一緒ならなんでもいいよ」
「前にも言ったと思うけど、そう言うのが一番困るのよ」
「だって、ユウコとならお昼寝してても、大事な思い出になるもん」
全く、シューちゃんたらけしからん可愛さですな。けしからん。まことにけしからんので、離しかけた手を今度は背中に回して抱きしめた。
「ぎゅー!」
「ぎゅー」
シューちゃんもぎゅうぎゅう言いながら抱きしめ返してきた。しばらくぎゅうぎゅう言い合ってから、おかしくなって笑いながら離れる。
「さて、そろそろシーコさんの視線も厳しくなってきたし、出かけましょうか」
「わかった」
「折角だし、行ったことのない街に行きましょう。シーコさん、お土産楽しみにしててね」
「はいはい、わかったからさっさと行きなさい」
シーコさんは苦笑しながら私たちを送り出してくれた。途中、混ぜて欲しそうな顔をしたとき、ちょっとくらい混ぜてあげればよかったかな?と思いかけたけど、いやいや。
シーコさん仲間だけど、やすやすとシューちゃんのハグを許すわけにはいかんですよ。普通ならいいけど、シーコさんは下心ありそうだし。
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