17
「はぁぁ、生き返るぅぅ」
体を伸ばし、息をはく。熱いほどのお湯が揺れる。
「気持ちいい?」
「うん、さいこー」
私が魔法具を完成させた夜、お祝いにとシューちゃんがお風呂をくれた。言われて最初はわからなかった。普通お風呂をくれるとか訳わからない。プレゼントってレベルじゃない。
実物を見せられて感動した。シューちゃんの大きなベッドくらいある。これはすごい。
でもまだ湯船があるだけだ。お湯は魔法でだすとして、洗い場と排水と、ちょっとお願いして部屋全体を整えてもらった。
それから毎日お風呂に入ってる。最高だ。シューちゃん愛してる。あー、やっぱり私日本人だなぁって思うわ。
「んー…のぼせてきた。私、そろそろあがるね」
「ん」
シューちゃんも嫌いではないみたいだけど、習慣がないからか長風呂は苦手みたいだ。残念。
毎日流しっこしてるし、お風呂嫌いではないと思うけどね。ほんと、実に残念だ。
「はぁぁ」
息がもれる。窓の外では今日も雪がふっている。なんて贅沢なんだ。寒さ的に露天は無理だけど。
「はぁ……結花奈、どうしてるかな」
シューちゃんに魔法具を渡して、研究はおじさんが道具の揃ってる都会でするということで私の手から離れた。
手の空いた私はバイトを始めた。街にでて、一番人がきて情報もあつまりやすいという、宿屋の食堂部分で働くことになった。
結花奈の似顔絵も書いて呼びかけてるけど、情報はまったくない。結花奈とは別の扱いで勇者についても情報を集めてるけど、どうも各地で魔王に対するため勇者を量産してるらしく、うまくいかない。
「……大丈夫」
結花奈は強い子だ。大丈夫。信じるしか今はできない。祈るしかできない。でも泣いたりはしない。意味はない。再会した時に結花奈にがっかりされたりしないよう、私らしくしっかりしていなきゃ。
「……そろそろ、あがるかな」
廊下を出たところに足ふきの布と、バスタオルのために棚も設置してる。脱衣場が廊下なのはすごい変だけど、角の部屋だから邪魔ではないし、シューちゃんと2人だし別にいいよね。
体をふいて頭も乾かし、寝室になってるシューちゃんの部屋に行く。シューちゃんは先に眠っていた。
「おやすみ、シューちゃん」
シューちゃんが起きないようにそっと抱きしめて、私も眠りについた。
○
「いらっしゃいませー!」
「おお、今日も元気いいねぇ」
「はい! ありがとうございます。今お水とってきますから、お好きなお席へどうぞ」
「おう。鶏胸肉の塩胡椒炒めな」
「俺は手羽先の蒸し焼きな!」
「はい、ただいま!」
ヒューイさんの口添えもあって、人探しと情報がはいるまでの短期限定で雇ってもらい、早3ヶ月。
こちらにきてから半年ほど。未だ情報はないまま、季節は夏へ移ろうとしていた。といってもこの地方には季節はなくて年中冬なんだけどね。
「いらっしゃいませー!」
「おや、見ない顔だね。新人さん?」
「はい! 短い間ですけど、よろしくお願いします!」
「元気がいいねぇ」
「それだけが取り柄ですから」
接客業は笑顔が一番。元気が二番。明るく笑顔でさえいれば、多少のミスは許される! てなわけで当社比200パーセントの笑顔でバイトしてます。
「おう、ジンさん久しぶりぃ。こっち来なよ」
「おー。お嬢さん、俺日替わり定食ね」
「はい!」
さて、お仕事お仕事。
新たな注文を伝え、出来上がってる料理をはこび、会計が済んでいなくなった机を片付ける。新規のお客様を案内して水をだして、以外エンドレス。
忙しいピークは過ぎ、たまった洗い物を済ませるころにはお客さんは数えるくらいだ。ふぅー、今日も働いた。
私は街に住んでいないのもあり、お昼担当にしてもらってるので、あと掃除や片付けをすればあがりだ。
10時から15時までが勤務時間だ。あともう少し頑張ろう。
「おーい、ゆーちゃん。今暇かい?」
「はい、なんですか?」
全然暇ではないけど、急ぐわけでもない。私は手をとめる。常連のお客さんだ。私が妹を探しているのを知っていてよく情報を持ってきてくれる。
殆どが家出した女の子の情報で今のところ役にはたってないけど、そんなこと言ってたら本当の情報も見逃してしまう。
「ああ、勇者についても調べてただろ? 今おんもしろい情報ゲットしたぜ」
「おお! すごい、なんですか!?」
「それがなんと、東大陸では異世界から勇者をよんだらしいぞ!」
「え……えええ!? どっ、どこ!? どこの国ですか!? その勇者はどんな人ですか!?」
「うおっ、すっげー食いつくな。勇者がどんなやつかまではわからんな。向こうに商売しに行ってた奴が帰ってきて、ユニパルが異世界から勇者よんだって、まぁまだ噂の段階だけどな。聞いてきたからな。本当かどうかわからんが、異世界とかすげーよな」
結花奈だ! 絶対そうだ! もしかしたら別のとこでも勇者よんでた可能性もなくはないけど、結花奈のはずだ!
私はたまらずお客さんの手を取ってお礼を言う。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
「うおっ、な、なんだ、そんなに礼を言われると照れるな」
「いえいえ! もうほんと! 抱きしめてキスで感謝の気持ちを伝えたいくらいです!」
「おおっ! ほんとか!? 俺はばっちこいだぞ!」
「あ、すみません。ノリでいいました」
「だろうな」
とにかくお礼を言い、大慌てで仕事を仕上げて、私は飛ぶように跳ねて家に帰った。
○