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168 雪国訪問

 お茶葉だけ買ってお湯がわく前に戻り、ソファでなく毛足の長いカーペットの上に座った。靴はもちろん脱いでいる。


「はぁ、しかし、雪を眺めながらのんびりお茶を飲むって言うのも、なかなか乙なものだねぇ」

「いやぁね、結花奈ったら、おばあさんみたいなこと言うんだから」

「じいさんや、飯はまだかいのぅ」

「嫌ですね、ばあさんたら。昨日食べたじゃない」

「今日も食べさせろ」

「ていうか、配役逆でしょ。あ、シューちゃん、空いたわね。おかわり飲む?」

「うん。お願い」


 おしゃべりをしながらのんびりすること30分ほど。あれだけ食べたけど、ちょっとお腹減ってきたわね。

 体感的には晩御飯の時間だし。お昼がお昼だけに軽めにすませたいけど、どうしようかしら。


「ねぇ、三人と」

「しっ、静かにっ」


 三人に意見を聞こうとした瞬間、結花奈が立ち上がった。呆気にとられる私たちを無視して、結花奈は入り口を見ている。

 ドアをノックされた。おや、誰だろう。掃除にしたってこんなに早くから? ま、結花奈は警戒しすぎだけど。


「シュシュリング様、いらっしゃいますでしょうか?」

「うん。いるよ。入って」

「失礼いたします」


 メイドさんが入ってきた。結花奈はシューちゃんが普通に対応してるからか、真面目な顔をやめて座り直した。せっかく珍しくカッコいい顔だったのに、残念。


 それはともかく、メイドさんが言うには旦那様、つまりヒューイさんの指示で私たちを朝食に誘いに来たらしい。

 渡りに船なのでもちろん了承。私たちは連れ立ってシューちゃん家を後にした。


「やぁ、久しぶりだね」


 軽く挨拶をされた。挨拶を返しながら何故私たちが来たことがわかったかを聞くと、備え付けの魔法具が使用されたらわかるようになっているとのこと。

 考えたら、元々病気で突然亡くなってもおかしくないシューちゃんが住んでいたのだ。毎日ちゃんと活動しているくらいはわかるようになっているに決まっている。


「ま、話は食べた後でもできるだろう。まずは食事をとろう。こんな時間に帰宅したんだから、朝食はまだだろう?」

「ありがとうございます。それも含めてお話させていただきたいと思います。では紹介だけ。こちら、私の妹の竹中結花奈と、えっと、仲間のシーキンコです」


 シーコさんの名字はえっと、まあまあいいじゃない。アーカンワか、アーカンコだった気がする。


「お初にお目にかかります、私シーキンコ・アーカンワと申します」


 あ、やっぱりね。忘れてたわけじゃないのよ。


「突然で大変恐縮ではございますが、シュシュリングさんを私にください!」

「何言ってるの!?」

「あうっ、ごめんなさいごめんなさいっ。ついっ、つい魔がさしました!」


 突然頭をさげて叫ばれたシーコさんの奇行に、シューちゃんが反射的にシーコさんを突き飛ばした。

 押されてよろめいたシーコさんは平身低頭しているけど、いや、わざとでしょ。明らかにツッコミ待ちでしょ。ちょっと嬉しそうだし。


「すみません。このアホはほっといてください。改めまして、私は竹中結花奈です。優子がお世話になっていたようで、ありがとうございます」

「君が。いや、面白い子じゃないか。うん。シュリが楽しくやっているようで、なによりだ」

「ありがとうございます、おじ様」


 挨拶はしたので朝食にうつる。相変わらず、ホテルの朝食のような整ったご飯だ。

 それなりに会話をしながら朝食を終えて、私たちは改めて応接間に招かれた。


「さて、突然の帰還だが、何かあったんだろう? はたまた杞憂で、ただ立ち寄っただけかな? それならそれで歓迎しよう」


 私はヒューイさんにこれまでの経緯とあと一ヶ月ほどで帰ることを伝えた。

 ヒューイさんは微笑みを絶やすことなく話を聞き終わり、一つ頷いた。


「そうか……わかった。他にも、たくさんのことがあったんだろう。是非ともお聞かせ願いたいが、その前に、シュリと2人で話をさせてもらってもいいかな?」

「はい。じゃあ私たちは失礼します。シューちゃん、家にいるわね」

「うん」


 積もる話もあるだろう。私たちは退出した。少しシューちゃんが緊張しているみたいだったけど、きっとこれからについて話すんだろう。

 頑張って、シューちゃん。陰ながら応援するからね。


「さて、んじゃ、雪遊びしよーぜ!」

「おお、いいな。私も久しぶりに童心に帰りたい気分だ。こんなに雪を見たのは初めてだしな」


 元気ねぇ。でもそれもいいかも。私も、と言いかけてやめる。やるならシューちゃんと一緒がいい。

 シューちゃんが頑張ってるんだから、私はプリンでもつくって待っていよう。それが姉にできる唯一のことだ。


「私はいいわ。2人とも、はしゃぎすぎて怪我とかしないようにね」

「んだよ。ノリわりーなぁ」

「まあ、いいじゃないか。雪合戦で奇数は数が合わないからな」

「そう? 私は別に2対1でもよかったけど? そのくらいはハンデをあげなきゃねー」

「む、聞き捨てならないな。いかにユカナ君が勇者といえ、私とてそう易々と負ける訳にはいかない」

「お手並み拝見といきますか」

「よかろう」


 何故かすでに雪合戦で決定らしい。参加しなくてよかった。


 雪の上を歩く感触も懐かしいとさっきは思ったけど、やっぱり疲れるなぁと思いながら塔に戻った。

 2人は塔から少し離れたところで早くも雪を投げ合いだした。


 塔に入り、財布を持って転移でプリンの材料を買いに行った。便利すぎて、ちょっと恐いくらいだ。これからも利用するけど。


 ささっと卵液をつくり、後は蒸すだけだ。カラメルをつくっても時間は余る。久しぶりにシューちゃんの蔵庫の本を読んで時間をつぶし、出来上がったプリンを冷やす。完璧だ。


「ふむ」


 冷やす時間は魔法でゼロなので、所要時間は蒸していた時間だけだ。なのでシューちゃんはまだだし、2人もまだだ。

 料理の前につけた暖炉の前に座り、

私は本の続きを読むことにした。ずいぶん昔みたいで、なんだか変なような、不思議な気分だ。










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