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160/197

160 覚悟

「……」

「……」

「……………なにか、言って」

「ぷっちんぷりん食べたい」

「……わかったわ」


 私は指を滑らせて、冷蔵庫の中へ移動させた。買い置きの3連のぷっちんぷりんが、今だけプラス1の1だけない状態で冷蔵庫に入っていた。

 はるか昔みたいに思える記憶が呼び起こされる。結花奈が一つ食べていたような気がする。


 そのぷりんを手元に転移させる。意識下の命令にタイムラグなく、手の上にはぷりんが存在した。

 ぷりんから視線をあげると結花奈と目が合う。頷くと結花奈は黙ってそのぷりんを受け取り、一つ取り出した。


「いただきます」


 結花奈は空気中にぷっちんして、浮かせたまま口元に持ってきてかじりついた。


「……美味しい。間違い無く、ぷっちんぷりんだ」

「…ほんとに?」

「食べなよ」


 口元に漂ってくるぷりんにそっとかぶりつく。ぷりんっとしたつるつるした舌触り。噛みちぎると柔らかく口の中で震える、特徴的ななめらかさ。

 間違い無く、ぷっちんぷりんだ。


「……成功ね」

「うん。びっくりした。さすが優姉だね。いかな私でも、諸手をあげて、褒め称えるよ」


 結花奈はどこか不器用に笑った。


 今日の特訓は日本と繋がってみよう、と言うのが結花奈のお題だ。私はそれを聞いて憂鬱だった。

 それが出来てしまえば、もう帰れるのも同じだ。だから正直に言って、出来なければいいと思った。


 だけど結花奈に言われるまま鏡をだして、日本の自室をイメージした。念じた瞬間、鏡もどきの表面には私の部屋が映っていた。最も見慣れたベットからの視点だった。

 結花奈は一発でできると思っていなかったのか、いつもの軽口は口にしなかった。


 私はだろうなと思った。出来なければいいと思ったけど、それば逆に言えばわかっていたからだ。できるって、思っていた。世界中のどこでも映せて、世界中のどこでも転移させられるなら、世界の壁なんてないも同然だ。

 私がそう感じる以上、それが世界の真実になるんだ。


 そしてぷりんの転移もできた。今の私なら、何でもできる。それを疑わない。もうそんな段階は過ぎた。いちいちちまちましたことで自信をなくせるほど私の起こした奇跡は安くない。


「結花奈……」

「そんな、捨てられそうな犬みたいな目、しないでよ」

「そんな目、してないわ」


 結花奈は苦笑するみたいに笑った。まるで大人みたいだと思ってから、そう言えば私たちはもう成人になって、大人となるんだと気づいた。もちろん、帰ったらまだ子供なんだけど。中身までそのままじゃない。

 だけどまるで、私は自分が変わったような気がしない。結花奈に置いていかれたような、寂しい気持ちになった。


「結花奈……」

「あーもう、ほら、その顔だよ。恐がるなよ。大丈夫。一つ一つ整理しよう。そうすれば、何をすべきか答えはでるよ。ね? 大丈夫。大丈夫だって。私が一緒にいるから」

「……うん」


 いつまでも子供ではいられない。私もまた、大人にならなければならない。答えを引き伸ばして、だだをこめて、ごまかし続けるのはやめよう。








 それから、結花奈と話をした。


 私は自分の力が恐ろしい。世界の全てが私の思いのままだなんて、悪夢のようだ。そして何より恐いのは、私がこの恐怖を忘れて、本当に思いのまま世界をめちゃくちゃにしてしまうことだ。


「うん。だと思ってた。だから、本当は答えがでてるんでしょ?」


 結花奈は全く驚きもせずに私を促した。

 言いたくない。けど、あーもう、意気地がないぞ私。結論はでてる。というか、一つしかない。腹をくくれ。


「……帰るわ。こんな力を持つ私は、恐怖を忘れない内に、世界をめちゃくちゃにしない内に、さっさと帰らないといけない」

「うん。で、優姉はどうしたいの?」

「……どうしたいとか、そういう問題じゃなくて、もう帰るしかないわ。今すぐにでも、帰るべきなのよ」

「優姉は極端だねぇ。まあ、だからこそぐだぐた結論ださなかったのはわかるけどさ」


 結花奈は他人事みたいに軽く、笑って言う。だけどどうでもいいとか、そういうのじゃないのはわかってる。私を信じて、私に委ねてくれてるんだ。


「じゃあまずは、決めないとね」

「え、な、何を?」

「いつ帰るか。そして帰るまでに何をするか。無制限に奇跡を起こすのが恐いなら、回数も制限しようか」

「………そうね」


 言われてみればそうだ。本当に今すぐこの場で帰るのはあまりに無責任だ。やるべきことがある。それは挨拶まわりだけじゃなくて、奇跡をむやみに怖がるんじゃなくて、奇跡を正しく使うことも含まれる。


「帰りましょうか。シューちゃんにも、たくさん話さなきゃいけないことがあるものね」

「そうだね。ちょっと早いけど」


 帰らなければいけない。それを決定事項だと言葉に出した今もなお、シューちゃんに会ってそれを伝えることには抵抗がある。今どうせいないだろうし、夜でもいいかとか、引き延ばすことを考えてる自分に、ちょっと呆れる。

 腹をくくるんじゃないのか。本当に、かっこつかない。駄目ダメ子か。


「よし、じゃあ結花奈、玄関まで競争するわよ!」

「おっけー!」


 もたつきそうな気持ちを振り切るため、私は気合いを入れて走り出した。

 家につく頃には、今度こそ吹っ切れてますように!


「おさきー!」


 って、早すぎるわよ! 2人なんだからちょっとは手加減しようとか思わないわけ!? あからさまに置いてけぼりになるじゃない!


 悔しいのでちょこちょこ瞬間移動しながら結花奈を追いかけて、直前で追い抜かしてやった。


「瞬間移動はズルすぎ!」










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