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「もうちょっとで魔法具は完成するから。もう今日とかあと一歩だったから楽しみにしててね」

「うん」


 魔法具ができれば研究はおじさんの手に渡って本格的に調べられるだろう。そうしたら数年後には本当に、この病は一瞬だけ心臓が痛むだけで自動的に魔力を吸収して、誰も命の危機がなくなるかも知れない。

 でもひとまずユウコの仕事はおしまいだ。研究のため、沢山魔法具をつくる必要はあるけど、それさえすれば殆どユウコの手を煩わせることはなくなる。それにユウコが私にべったりついて見守ってくれなくても、ひとまず魔法具があれば大丈夫だ。


 それは嬉しい。ユウコがどんなに私のために頑張ってくれたか、知ってる。毎日毎日休みなく、頑張ってくれてる。

 でもこれで、少なくともユウコはバイトを始めるだろう。研究中もずっと一緒だった。だから、悲しいし淋しい。我が儘なのはわかってるけど、一度一緒にいることを経験してしまうと、余計に思ってしまう。


 これじゃ駄目だ。いつかユウコは帰らなきゃいけない。その時にユウコを困らせないようにしなきゃ。

 ユウコのおかげで、私はもうすぐ普通の人間になれるんだ。だったら普通の女の子として、一人前にならなきゃ。


「ねぇ、シューちゃん。魔法具ができたら街へ行きましょう」 

「うん」

「そしたらまた、髪留めを買おうか。ずっと同じのじゃ飽きちゃうしね」

「そんなこと」


 そんなことないよ、と言おうとして私の中に天啓が舞い降りた。そうだ! プレゼント! プレゼントしよう。ユウコは私のために頑張ってくれて、もうすぐ努力が実を結ぼうとしてる。

 お礼をしよう! ユウコにおんぶにだっこじゃだめだ。お礼をして、そこから始めよう。一人前になろう。一人前になったら……ううん、いや、それはおいておいても、うん。決めた。


「シューちゃん? 眠くなった?」

「あ、うん。そろそろ寝ようか」

「ええ」


 寝具に入ってユウコが寝たのを確認してから、目をあけて考える。

 何がいいだろう。ユウコへのプレゼント。ユウコが喜ぶものじゃなきゃ意味がない。

 ユウコは私が何をしても喜んでくれるけど、そんなんじゃなくて、ちゃんと価値のあるもの。


「あ」


 と、危ない。思わず声がでてしまうところだった。口を抑えてユウコの様子をみる。


「……」


 ほっ。大丈夫。寝てる。気をつけなきゃ。

 で、プレゼント。プレゼントはお風呂にしよう。湯船に入りたいってよく言ってたし、絶対喜ばれるはずだ。

 ここらへんではないけど、本で読んだからお風呂自体は知ってる。ユウコが言っているのは大きな入れ物に熱いお湯をいれて、そこに体をいれるものだ。地域によっては湯船がないのをお風呂と言うけど、ユウコのは肩までつかって、とか言ってるし大きさも見当がつく。

 えっと、木でいいか。要するにおっきい桶をつくればいいんだよね。お湯は魔法でなんとかなるし。

 よーし、明日早速やってみよう!









 ユウコが魔法具作りを始めてから、さりげなく隣の部屋に移って家から出た。先週発作があったから発作も問題ないし、1、2時間くらいなら気づかれないはずだ。


「えっと、まずは…」


 まずは……桶ってどうやってつくるんだろう?


「……」


 と、とりあえず木を切り倒して材木をつくろう。


「よいしょ」


 魔法で切り倒して、四角の柱状に切断。汚い見た目になるから中身部分を使うとして、10本くらい切り倒せば足りるかな。あ、家の中に入らなきゃいけないし、うーん。大きさは部屋半分くらいかな。

 じゃあ5本でいいか。少なければまた切ればいいし、多く切りすぎても困るし。


「まず底からくっつけて、と」


 移動魔法で木材を並べ、中へ中へと移動させてくっつけていく。この方法はカップを割ったときにユウコ発案でできた方法だ。物をくっつけるために使うなんて普通思いつかない。さすがユウコだ。


「大きいかな」


 ちょっと縦に長いので切って、計るためにいったん寝てみる。頭から足先まである。ちょっと小さい気もするけど、考えたら頭まで入れたら息ができないから、こんなものかな。横幅も合わせてベッドくらいだ。


「壁をつくって、完成!」


 後は簡単だ。縦に重ねてくっつけていって、それぞれ縦横にはみ出てる部分を切り落とす。くっついてるから水漏れの心配もないし、完璧だ!


 家の裏まで運び、いったん家に戻って中の様子を伺うことにする。そっと部屋を覗くと昨日と同じように机に向かい合って座り、魔法石に魔法をこめていた。


「ユウコ、調子はどう?」

「ちょ、ちょっと待って! もうちょっと、もうちょっとだから、あ、は、はいっ、た!」

「おお! 入ったぞ!」

「入りました!」


 ちょうど佳境だったらしい。興奮する二人に近寄る。魔法石は魔法具となった証に色が変化する、けど、今使ってる魔法石の元の色を知らないので変わっているのかいないのか、私には判断がつかない。


「よしよし、じゃあ肝心の発動するかを試すぞ! いくぞユウコ君!」

「お願いします! 先生!」


 おじさんが魔法具を手に取る。ユウコも先生も真剣で、おもわず私も手に力がはいる。


「はああ、あっ、ああっ、っぅぅ、うっ」


 魔法具が光り、おじさんが魔法具を抱きしめるように体を折り曲げる。発動はしているみたいだけど、魔法が正しく発動しているかどうかはわからない。


「せ、先生!? 大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ。大丈夫だ。問題ない。ユウコ君」

「は、はい」


 息をきらしながらおじさんは魔法具を机に置いて、真剣な顔でユウコと向かい合う。見つめ合ってるみたいでちょっとむっとする。いやそんな場合じゃない。成功?

失敗?


「実験は、成功だ!」

「やったーー! シューちゃん! 聞いた!? 成功だよ!」


 ユウコが飛び上がって私を抱きしめる。


「おめでとう! ユウコ!」


 とっさに抱きしめかえすけど、なんだかイマイチ私には実感がない。でもユウコが喜んでるなら私も嬉しいから、嬉しい。


「シューちゃん!! やったんだ! 私、ほんとにやった! シューちゃんは自由だ! ぅ、うう、嬉しいよぅ」

「うん、うん、ありがとう、ユウコ」


 私の為だけに、こんなにも頑張ってくれて、喜んで、ついには泣き出したユウコ。それが本当に嬉しくて、私も泣いてしまった。

 大丈夫。例えユウコと別れても、ユウコが私を思ってくれたことは事実として残る。だから大丈夫。


「ユウコ、本当にありがとう。大好き」

「私も大好きーー!」


 私と出会ってくれてありがとう。私を好きになってくれてありがとう。私、頑張るよ。












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