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「しゅ、シュリさん、その、良ければ私と散歩と洒落込まないか?」

「いいよ」


 2人が歩いて行ったのを見送り、私はキーコと散歩することになった。

 ひとりでゆっくり考えたい気もしたけど、やっぱりちょっと、気を紛らわせて現実逃避をしていたい。

 ユウコには偉そうに言ったけど、嘘だ。見栄をはって、ユウコにいいかっこして、いい子に思われたかっただけだ。


 本当は私のことを気にしてほしい。帰ってほしくない。でもユウコに迷惑をかけたり悩ませたりしたくないから、いい子ぶりっこしてる。

 覚悟をしていたつもりだけど、いざ判明して、帰れるとなると、今すぐでも泣きそうだ。泣いてすがって引き止めたい。

 でもそうするわけにはいかないし、ユウコの前で堪える程度には、我慢強いつもりだ。


「まぁ、散歩と言っても、何もないからな。教会でもいいかい? 久しぶりに挨拶もしたいんだ」

「うん。いいよ。付き合う」

「……もう一度言ってもらってもいいかい?」

「え? 教会でもどこでも付き合うよ? 聞こえなかった?」

「いや、よく聞こえた。ありがとう」

「どういたしまし、て?」


 意味が分からないけど、なんだかシーコは嬉しそうだ。

 その呑気そうな姿を見ていたら、なんだか私も気分が楽になってくる。一人でなくて良かった。回りの人間の雰囲気というのは重要だなと改めて思った。


「よし、じゃあ行こうすぐ行こう」


 シーコが意気揚々と私の手を勢いよく掴むと、足早に歩き出した。散歩なのになんで早足?


「シーコ、ゆっくり歩こうよ」


 走るのは嫌いじゃないけど、早足で歩くのはなんだか苦手だ。

 お願いするとシーコはなんだかばつが悪そうにしながら、頭をかいてゆっくり歩き出した。

 握ってる私の手はそのままで、さらに強く握ってきた。


「……」


 なんだか気まずそうに、ちらちらと私のことを見てくる。もしかして、私と手が繋ぎたかったのかな?


 考えたらシーコは私が好きなんだから、私がユウコと繋ぎたいようにそう思ってもおかしくない。

 改めて好かれてることを意識すると照れ臭いけど、別に手を繋ぐくらいはどうということはない。


 口で繋いであげてもいいよ、と言うのは何だか偉そうだし抵抗があるので、私からちゃんと握りなおしてあげる。


「…っ」


 手を離す瞬間にすごく悲しそうな顔をしたシーコだけど、繋ぎなおした途端に満面の笑顔になった。

 単純だなぁと苦笑するけど、ちょっと可愛らしくもある。


 そのままシーコに連れられて、村のどこからでも見える教会へ歩く。

 近くで見ても結構おっきい。どう考えてもこの村のスケールからしたら無駄にしか見えない。


「やぁ、ガイネ」


 教会にある程度近づいて、入り口あたりで草むしりをしているシスター服の女性に、シーコが私と繋いでいない方の手を挙げて挨拶をした。


「ん? あら? もしかしてキイ?」


 女性は顔を上げて驚いたように立ち上がる。

 シーコは歩いたまま苦笑して、シスターから1メートル強くらいの距離で立ち止まった。


「もしかしなくてもそうだよ。久しぶりだな」

「何だかあなたに久しぶりとか言われると、むかつくわね」

「微笑みながら言うなよ、相変わらず怖いな」

「失礼ね。私のことを怖いなんて言うのはあなたくらいよ」

「みんな思ってるよ」


 人数が少ないのでみんな友達みたいなものとは言っていたけど、信憑性がましてきた。

 結花奈が見栄張ってるんじゃない?全然帰ってないんだし友達いなさそう。と言っていたのでちょっと私も疑っていた。心の中でだけ謝っておく。ごめんなさい。


「で? そちらの可愛らしいお嬢さんは?」

「うむ。私の運命の人だ」

「へぇ」


 ……どうしよう。違うって言っていいのかな? 恋人って言われたら違うって言えるけど、運命の人とかシーコの主観だし、友達の前で否定したら可哀想だし。

 でも運命の人とか言われると、こっぱずかしいし、何だかむず痒いし、何よりちょっと気持ち悪いから嫌だ。


「で? 本当は?」

「信用0だな」

「嫌がられてるじゃない」

「そ、そんなことは…ない、よな?」

「……ちょっと、嫌だ」


 あ、シーコが傷ついた顔した。やんわり言ったのに。まだ駄目だったかな。言い方に気を付けよう。


「ちょっとキイ、嫌がられてるんだから自重しなさい。そんな露骨な顔したら気を使わせるでしょ。あなた、こんな顔してるからって、同情して甘やかしちゃダメよ。嫌なときはやめろ、気持ち悪いときは虫酸が走るんじゃボケっ、ってちゃんと気持ちを言わなきゃ駄目よ。キイはストーカー体質だから」

「あ、う、うん」


 シスターに真顔で迫られて思わず頷いてしまった。でも確かにやめてほしいと思ったけど、虫酸とまでは思わないし。


「ガイネ、容赦なさすぎだろう」

「思わせぶりな態度されても嫌でしょ?」

「いや、シュリさんなら思わせぶりに振り回されてもいっこうに構わん!」

「……とりあえず、えー、シュリさん?」


 胸を張るシーコにシスターは呆れたように肩をすくめてから、改めて私を向いた。

 

「うん。なに?」

「はっきり言わないと、このポジティブバカには通じないから。それにバカとかボケとかクズとか言っても、基本傷つかないし図太いから。遠慮しちゃダメよ?」

「うん、わかった。ガイネさん、は、シーコとつきあい長いの?」

「まあ、同年代は基本みんなそうよ。とりあえず入って。自己紹介もするわ」


 促され、掃除の邪魔して申し訳ないなとか思いつつも、私はガイネさんとシーコと教会に入った。












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