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 シーコという変な人が旅の仲間に加わることになった。

 いきなりご主人様だの、姫だの何だのと、はっきり言ってちょっと気持ち悪かった。でもユウコが悪い人ではないというならそうなんだろう。

 普通に


「これからよろしく頼む」


 と私とユカナに挨拶する姿は普通だし、本人が言うとおり最初はテンションがおかしかっただけなのかも知れない。

 それにしても、知らない人に好きだのなんだと言われても、反応に困る。シーコと一緒というのは何だか気が重い。

 だいたい私は、ユウコの妹として一番でも納得してるし、ユカナとユウコが付き合うのも嫌ではない。でもだからって、私を好きだと言う人を仲間にするなんて、何だか嫌だ。まるでユウコが私に相手をあてがおうとしてるみたいで、嫌だ。

 もちろんユウコにそんなつもりはないだろう。私にはよくわかる。


「じゃあ、シーコさんのために改めて経路を確認しましょうか。こーいってこうね」

「ん? それでは少し遠回りじゃないか?」

「……優姉さ、自己中ってよく言われない? いや、そのくらいの我が儘は全然いいんだけどさ」


 ユカナがシーコを仲間にいれた大きな要因は、食べ歩きがしたいからだろう。前に行ったお店のスープが飲みたいのだろう。わかりやすい。


「じゃあ、また1時間後に集合ね」


 経路を決めて、馬車の予定を確認する。1時間後に出発するようなので、貴重品以外の荷物を預けてまた自由時間になった。


 ユウコはあっちこっちウロウロするのが好きで、それに付き合うのは楽しいけど、ユウコ自身は振り回して申し訳ないと思うらしく、新しい街につくと毎回一度は自由行動としてばらける。

 その方が気楽ならばと、私たちはいつもそうしてきた。たまにスリに合うけど、酷い悪人相手には当たらないし、逆にその方が大丈夫だ。なので心配はしていない。


 でも今日は少し心配だ。またさらに誰か連れ帰られるのは、さすがに困る。一人くらいならいいけど、あんまり知らない人が増えると落ち着かない。


「優姉!」


 ユカナがどこか怒ったような顔でユウコを追いかけた。一緒私を気遣うように見てきたのでうなずき返しておいた。


「…あ、あのー、シュリさん。その…よければ私と、その辺ぶらつきませんか?」

「いいけど。敬語はやめてって」


 私とて子供ではない。というか今更だが、二人より年上だ。二人ともまだまだ私が人見知りの人嫌いのように勘違いしているが、もうそんなことはない。安心させるためにも、ここはシーコとも普通に話せるとアピールしておこう。


「す、すまない。つい緊張してしまって。では、どこか行きたいところはないか?」

「んー、別にないかな」

「では…散歩をするのはどうだろう」

「うん。いいよ」


 慣れない町なので、見て回ればそれなりに発見もあるだろう。散歩自体はどちらかと言えば好きな方と言える知。


「シュリさん、話ながら、世間話をしてもいいかな?」

「話すくらいでいちいち許可をとらなくでもいいよ。何を話す?」


 些細なことでいちいち聞かれるのは煩わしいと思う反面、悪くない気分だ。ここまで様子を伺われていると、何だか偉くなった気分だ。


「シュリさんのことを、何でもいいから知りたいんだ。もちろんマナーとして私自身のことも話そう。興味はないかも知れないが」

「いいよ。何が聞きたいの?」

「えっと、では、ご、ご趣味は?」

「うーん…散歩とか、かな」

「そうなのか。私は実は体を動かすのが好きでね。散歩も好きなんだ」

「ふぅん。そう言えば騎士に剣を学んだって言ってたけど、どのくらい強いの?」

「基準が難しいが、魔王が倒されるまでは、魔物退治で稼いでいた。今も貯蓄できている程度にはな」

「今まで一番強かった魔物は?」

「砂漠地帯の魔物もやっかいだったが、単純な強さで言うと、ワンガ山岳地帯の大型の狼もどきだな」


 それなら私も遭遇した。素早くて魔法耐性もあるからユウコでは倒せず、私が相手をした。あれに1対1で勝てたなら、そこそこと言うところか。


「なるほど」

「ユウコ君からはさっきのユカナ君もシュリさんも、強いと聞いたが、どうなんだ?」

「んー、ユカナは凄く強いよ。私は普通」

「凄くと言うと?」

「えっと、魔王を倒す前に、ユニパルの勇者と会って、同じくらいの強さだった、よ?」

「ほう、そりゃ凄い」


 よし、これで適切な強さを表現できた。考えたらどのくらい強いかなんて、同じ武道を習ってるとかなら先生役が決められるけど、基準が難しいよね。


「それにしても、勇者と知り合いとは凄いな。どんな人だった?」

「あー、えっと……ち、小さい人だったよ」

「そうなのか。確かに、新聞でも小柄と書いてあったような」

「そうそう。それより、そう、シーコのこと、興味があるんだけど」

「おおっ! そ、そそうですか! では、何から話そうか」

「なんでもいいから」

「では、まずは家族構成から。父と母、兄が3人、私の6人家族でして」


 ふう、危ない。勇者のことを話題にするのは危険だもんね。それにしても、凄い食いついたなぁ。

 本当に私のことが好きらしい。私は自分を醜いとは思わないけれど、特別美しくもない。ユウコやユカナみたいに、くるくると表情が変わる方がよほど魅力的だと思う。


 シーコも、よくよく表情の変わる人だ。何故私を好きだと言うのだろう。

一目惚れだと言うけれど、よくわからないな。

 私もユウコのことは最初の日から好きだけど、一目で好きになったわけではない。一目惚れで私の見た目が好きと言うことは、もし私が年をとって顔が変わったら、嫌いになるのかな。


 そう言うのって、当たり前なのかな? よくわからないな。私はユウコがどんなになっても、ずっと好きでいる自信があるけど。

 ユウコは私に普通のことを知ってほしいと思ってるだろうから、少しはシーコを見て、普通のことを知っておこう。短い間だけなんだから、それもいいかも知れない。


「そして旅にでて、人助けをしながら転々として、今に至っている。そのくらいか。どこか気になる点があれば、詳細を話すが」

「んー」


 黙って相づちを打っていると、ついにシーコは半生を語り終えた。割とどうでもいいことも多かったけど、世の中には色んな人がいるんだなと勉強になった。

 他には別に、聞きたいことはないかな。


「特にないかな」

「そうか…その、差し支えなければ、シュリさんのことも教えてほしい」

「いいよ」


 二人の出自さえ隠せば、別に私には隠すほどのこともない。とは言え、普通の自己紹介以外に改まって自分のことを説明と言っても何を言えばいいのか。


「……両親はなくなってる。親戚に引き取られて育って」


 とりあえずシーコの真似をして、簡単に半生を語ってみることにした。改まって自分を振り返るというのも、何となく面白いものだった。











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