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「このくらいかな。もう、教えることはない! 免許皆伝!」
「ありがとうございます! ………って、本当にもうないんですか?」
「うん。後は個別方向になるし、ユウコちゃんが望む内容はないわね」
滞在五日目にして、リアお姉さんより免許皆伝を授かってしまった。
「あと2日はぶらぶらしたら? 午前中なら暇だし、付き合うわよ」
「そうですねぇ、ではお言葉に甘えさせていただきます。リアお姉さんは普段、時間があいたら何をされてるんですか?」
「うーん、本を読むとか、友達と話すとか、森を散歩したり、釣りをしたり、狩りをしたり、後は人間の村に遊びに行くこともあるわ」
本や筆記用具を片付けながら尋ねると、リアお姉さんはちょっと考える素振りをしながら答えた。
釣りや狩りをして手伝うのもいいけど、人間の村というのが気になったので聞いてみる。
「人間の村に行ってもいいんですか?」
「もちろん。入るのは制限があるけど、でる分には自由だもの。まぁ、殆どの人が出て行かないけど。飛んで30分くらいだし、週に一回くらい行ってるわね」
「へえ、あ、そう言えば、リアお姉さんの相棒のダケさんですけど」
「ん? 彼がどうかした?」
「いえ、単に思い出しまして。ダケさんとはあれからどうされたんですか?」
旅の最中のあれやこれやについては色々聞いたけど、その後のことは聞いてない。
「さっき言った、近くの村にいるわ。元々知り合いで、勇者をするって言ったら付いてきてくれたの」
「そうだったんですか。もしかして、何か特別なお知り合いですか?」
「特別って言うか、親戚ね」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。私の腹違いの弟なの」
「えっ」
さらっと言ったけど、え、それ、私に言ってもいいんですか?
思わず顔を凝視したけど、リアお姉さんは平然としている。
「えっと、ダケさんも、ハーフエルフなんですか?」
「ううん。お父さんが人間で、その人が今村にいるの。後妻さんの子供がダケ。母が死んでから、村に移って、私が15才の時に生まれたのよ。生まれた時はそりゃあ可愛かったわ」
「へぇ。というか、そんなトップシークレットをさらっと私なんかに言っちゃっていいんですか?」
「だって、これから村に行くし、そしたらどうせ説明するわ。隠すほどのことでもないし」
「え、はぁ」
これからですか。確かにまだお昼まで時間ありますけど。
「話してたら、会いたくなっちゃった。人間はすぐに老けるし、死んじゃうから、今の内に会っておかないとね」
何だか、重いなぁ。私も考えた方がいいのかしら。
その後2人も一緒に、4人で村に行って、お昼もお世話になった。
いやー、それにしても、平均寿命を越えているとは思えないくらい元気なお父さんですね。そしてお母さんは若いですね。
○
「優姉さぁ」
「なに?」
「私たち恋人だよね」
「……突然なに? ついこの間のことじゃない?」
明日にはここを発つので、少しでもお返しをしようと本日は狩りをすることになった。リアお姉さんとシューちゃん、私と結花奈でペアを組んで森を散策している最中だ。
「だーかーら、恋人と一緒にいて、いつも通りすぎやしませんかねー」
「そうかしら」
一緒って言っても、まぁ一緒だけどね。狩りという目的があるし、いちゃいちゃしてるわけにもいかないでしょ。
「そうです。てな訳で、ここで問題です。恋人が2人でやることと言えば?」
キスと答えてもいいけど、そうしたらキスをすることになるだろう。それは魅力的だけど、この状態だと際限なくなって、狩りそっちのけになりそうだ。
「結花奈、遊びで狩りをしてるんじゃないのよ?」
「えー、なにー? もしかしてエロいこと考えたの? やだー、まいっちんぐー」
「……」
さて、次はあっちに行ってみましょうか。鳥の鳴き声が聞こえたし。
「あ、ごめんなさい。無視しないで」
「結花奈、あなたのその軽いノリは、辛いときには助けられるけど、普段はちょっと自重しなさい」
「えー、でもこれ素だしなぁ」
「で、なによ。キスはしないわよ」
「わかってるって」
結花奈は私の隣に来ると、ぎゅっと私の手を握った。指の間に指を突っ込んだ、いわゆる恋人繋ぎというものだ。
「へへ、恋人と言えばこれでしょ」
その無邪気な笑顔に、突然繋がれた手のひらの温度に、どきりと心臓が高鳴る。
「こ、これじゃあ、動物を見つけても迅速に対応できないんじゃない?」
「大丈夫。私が魔法で対応するから。それとも嫌? 嫌じゃないなら決定」
「……嫌では、ないです」
嫌ではもちろん、ないんだけど、何というか、普段指の間なんて触らないし、違和感と言うか、新鮮さと言うか、何だか、ドキドキしてしまう。
「優姉、可愛いよ」
「……ばか、突然何言ってるのよ」
「だって可愛いんだもん。あ、あっちに大きいのいるっぽい。行こう」
「ええ」
結花奈に手を引かれて歩く。こうやって結花奈に先導されていると、何だか安心してしまう。
「そこ、足元気を付けて」
「大丈夫よ。なによ、気取っちゃって」
前は私がいつも言っていたのに、気遣いできるようになっちゃって。成長が嬉しいと同時にちょっとときめいてしまった。
「彼氏ですから」
「えー? 彼氏だったの?」
「あれ、違うの?」
「いや、恋人だけど。彼氏は男の人なんだから、結花奈は彼女でしょ」
「じゃあ優姉が彼氏? ぴんとこない。てゆーかやだ。素直に女役してよ」
「どっちも彼女じゃ駄目なの?」
「うーん、いいんだけど。でも例えば、結婚するときに2人ともドレスだと変じゃない?」
「結婚!?」
「いや、例えだよ。例えだけど、そこまで驚かないでよ。恋人なんだから、そう言うことも意識するでしょ?」
「そ、そうなの」
結婚とか全く頭になかった。だって女同士だからできないし。ああ、でもそうか、海外では違うのか。いやでもこっちだとどうなの?
いや、落ち着け私。別に今すぐどうこうってことじゃないんだから。
「でも、身長でいえば私が男役じゃない?」
「優姉は可愛いから女役1択でしょ」
「結花奈も可愛いわよ。2人ともそのまま女でいいじゃない」
「うーん。まぁ、ならいいか。でもなー、なーんか気持ち的には彼氏なんだよね」
「なんでよ」
「優姉が可愛いからかな」
「……馬鹿なこと言ってないで、ちゃんと探してよ」
可愛い可愛いと、あまり言わないで欲しい。結花奈の方がずっと可愛いし、言われなれてないし、何より、恋人に言われると、照れる。
「やってるって、ほらあそこ、見えない?」
「んー、あ、兎みたいなのが何匹かいるわね」
「うん。もう魔法で動けなくしてるから、籠に入れるだけだよ」
「早っ」
いつの間に!?
それから背中の籠が一杯になるまで、私たちは狩りを続けた。と言っても結花奈が全て魔法でしてくれたので、手を繋いで歩いて拾うだけだけど。
○




