124 答え
「ふうー、じゃあ、続きはまた明日と言うことで」
「はい…ありがとう、ございました」
リアお姉さんの話は細かくて、聞いてるのは楽しいけど、長いので途中でのぼせた。また明日続きは聞けるのでとりあえず解散となった。
服を着て、冷水で顔を洗う。よし。緊張も大分ほぐれたし、行くわよ!
「お、お待たせー」
部屋に戻ると、すでに二人ともいた。ごろごろと寝転がっていた結花奈が勢いよく起き上がる。
「優姉おそーい」
「ご、ごめんなさい。リアお姉さんとつい話し込んじゃって」
「ん、大丈夫だよ。元々、時間は決まってなかったし」
シューちゃんは優しくて、思わず胸が痛む。
私は再度謝りながら、ベッドに並んで座る二人と向かい合うように、ベッドに座る。
「ごめん、ごめん。じゃあ、その……えっと、早速ですが、お、お二人に、重要なお話をさせていただきたいと、思います」
「優姉、固いって。落ち着いて」
「うん。普通で大丈夫だよ」
「え、ええ」
駄目だ。どーしても緊張してしまう。
二人は真剣な表情で、私の言葉を待っている。言うべき言葉も、決まっているのだ。言うしかない。
口を結ぶと、唇の感触が蘇る。勇気をだせ。
「どちらかを、恋人に選ぶという話。考えた結果、結花奈と、恋人の関係を結びたいと思います」
私は結花奈に右手を出す。
「よろしくお願いします」
「だから、固いって」
結花奈は私の手を握った。
「でも嬉しいよ。よろしく、優姉」
結花奈はにっこり笑った。それに私も笑い返し、手を離して今度はシューちゃんに向き直る。
「シューちゃん、ごめんなさい。あなたのことは大好きだけど、恋人とは少しだけ好きの方向性が違うの」
「……謝ることじゃ、ないよ。仕方ない。私なんか、全然、駄目だし、ユウコの一番になんて、なれるはずないって、わかってた。仕方、ないよ」
涙目になって、強がって無理矢理笑おうとするシューちゃん。ネガティブ過ぎるよ。シューちゃんはもっと、前向きに、馬鹿みたいなくらい幸せになるべきなんだ。
私はそっと、シューちゃんを抱きしめた。
「シューちゃん、一番になれるはずないなんて、言わないで。シューちゃんは私の中でちゃんと一番をとってるわ」
「え、でも」
「世界一大切な、妹よ。シューちゃんは私の妹部門でぶっちぎりトップよ。それじゃ駄目?」
「え、ゆ、ユカナは?」
「結花奈はもう妹じゃないわ。世界でただ一人、唯一の、妹よ」
「……うん」
シューちゃんは頷いて、私を抱きしめ返した。
○
「どちらかを、恋人に選ぶという話。考えた結果、結花奈と、恋人の関係を結びたいと思います」
ユウコの言葉に、やっぱりなと思うのに、悲しいと思うことをとめられなかった。
「よろしく、優姉」
ユカナも、ユウコも、とても可愛らしい優しい表情をしていて、私はやっぱり、どこまで行っても2人の間にははいれないと言われてるみたいで。
泣きそうだ。覚悟していたのに。泣いちゃ駄目だ。2人は悪くない。泣いたら気を使わせる。
「シューちゃん、ごめんなさい」
ユウコは私に向き直るとそう言った。申し訳なさそうな顔で、心が痛む。私のせいで、こんな顔をさせている。わかってるのに、涙がひっこまない。
「……謝ることじゃ、ないよ」
元々、私がユウコの一番になるなんて無理だったんだ。わかってた。無理を言って、我が儘を聞いてもらってたんだ。私なんか、何の役にも立たないし、何もできないし、誰かの一番にしてもらおうなんて、おこがましい。
涙をこらえていると、ユウコが私を抱きしめた。自然な動作で、当たり前みたいに抱きしめてくれて、それだけで胸が暖かくなる。
「シューちゃん、一番になれるはずないなんて、言わないで。シューちゃんは私の中でちゃんと一番をとってるわ」
意味がわからない。だって、ユウコにとってユカナは一番大切な妹で、そして恋人にもなって、だから、もう私にはユカナの一番になんて。
「世界一大切な、妹よ。シューちゃんは私の妹部門でぶっちぎりトップよ。それじゃ駄目?」
「え、ゆ、ユカナは?」
「結花奈はもう妹じゃないわ。世界でただ一人、唯一の、妹よ」
「……うん」
それはごまかしかも知れない。だけど、それでもよかった。ユウコの唯一で、ユウコの一番になれるなら、なんだっていい。それが妹でも、一番だというなら、嬉しい。
ユウコはさらに私を抱きしめる力を強くする。その暖かさに、我慢していた涙が落ちた。
「それに、考えてみてよ。恋人なんて、所詮他人よ。ちょっと離れたらもう赤の他人になってしまうわ。それに比べて妹と言えば家族。妹となれば、たとえ喧嘩をしたって、たとえ離れ離れになったって、ずっと家族なの。どう? 恋人なんかよりずっと上よ、言わば恋人の上位互換ね」
「それはちょっと違うような……」
恋人より妹の方がいいと言うのは、多分私への慰める方便でしかないだろう。というか、ちょっと無茶なことを言っていると思う。
だけどその内容より、ユウコが私を大切に思ってくれてることが伝わってきて、嬉しかった。
「それはともかく、私はシューちゃんを、妹として心から愛してるわ。妹として世界一大切よ」
「……うん。私も、心から愛してるよ」
愛してる。本当に、愛してる。陳腐な言葉だと思う。たった、一言で私の気持ちがどれだけ伝わってるかなんて、全然わからない。だけどそれ以外に、この思いをどう伝えればいいのか。
ユウコは私の涙をぬぐって、頬にキスをしてくれた。ちょっと、照れる。
それからユウコはちょっとだけ、困ったような、心配そうな顔をして口を開く。
「シューちゃん、お願いだから、自分のことを駄目、とか否定しないで。シューちゃんは私のこと好き?」
「ん? うん、好き。大好き」
脈絡なく当然の質問だけど、答えだけは決まっているので答える。
するとユウコは微笑んで私の頭を撫でた。
「だったら、もっと自分のこと信じてあげて。私の大好きなシューちゃんのことを否定されると、悲しくなっちゃうわ。私が悲しいと、私のことを好きなシューちゃんも悲しいでしょ?」
「………うん、わかった」
言いたいことはわかったし、言われてみればそうかも知れない。もしユウコが自分のことを駄目だと言っても、そんなことは全然ないし、そう思わせてることが悔しくさえある。
だったら私も、ユウコをそんな気持ちにさせないために、自分なんかと考えるのはやめよう。
自分にどういう価値があるのか、よくわからないけど、でもユウコが大好きと言ってくれるなら、それだけで価値があるはずだ。ユウコのことを信じよう。
ユウコはさっきと反対側の頬にもキスをして、おでこにキスをした。
「いい子ね。そして、ごめんね。恋人になれなくて。でもあなたは私の世界一の妹で、妹として私に世界一愛されてる。ごまかしとかじゃないわ。信じて」
「…うん、わかってる。ユウコが言うなら、全部信じる」
ユウコの言葉なら信じる。ユウコは私にとって、全てだ。ユウコの言葉は絶対だし、ユウコは嘘をつかない。
だから信じる。恋人になれないのは悔しいし悲しいけど、だけど妹でも、一番だと言ってくれるならいい。
だって元々、私はユウコの一番になりたかった。妹は無理だろうから恋人になっただけだ。妹の一番になれるなら、もう、十分だ。
「ありがとう」
最後にもう一度強く抱きしめて、ゆっくりとユウコは離れた。それが少しだけ寂しく感じられた。
「勝手なことを言ってごめんなさい。シューちゃんの気持ちには応えられないけど、これからも妹でいてくれると、凄く嬉しいわ」
「……うん、大丈夫。ユウコも、ユカナも大好きだもん。私の、家族だよ。ユウコが一番と言ってくれるなら、嬉しいよ。私は一番の妹に相応しくなれるよう、頑張るね」
「バカね、そのままで十分よ」
私はユウコに笑いかける。いつもみたいに、笑えただろうか。
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