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まずはシューちゃんね。
シューちゃんが私以外の恋人……ここは具体的に、リアお姉さんとしよう。迷惑だろうけど想像するだけだし、相談にのってもらってるついでだ。
『ユウコ、私…やっぱりリアさんのことが、好きになっちゃった』
……なんか、すっごい複雑だ。ていうか何で私、リアお姉さん選んだの。目の前にいるからって、同性を選ばなくてもいいじゃない。
よし、架空の男性にしよう。
『ユウコ…今までありがとう。私、あの人のところに、お嫁に行くことにしたよ』
……泣きそうだ。あんなにかわいかったシューちゃんが、立派になって。
「ユウコちゃん? 涙目になってるわよ? そんなにリアルに想像しなくても」
「おっと、えー、とりあえずシューちゃんは大丈夫ですね。お嫁に行くとなると泣けますけど、あくまで母親としての心境ですから」
恋人として嫉妬したりはない。さっきはリアお姉さんだから複雑だったけど、うん。シューちゃんが素敵な人と出会って幸せになるなら大賛成だ。
「どんな想像してたのよ。いいけど、納得したならいいけど。じゃあ次はユカナちゃんね」
「はい」
で、ユカナね。リアお姉さんとはスキップして架空の男性と、と。
『優姉、ごめん。実は私、好きな人ができたんだよね』
む……。
『だから、この人と結婚することにしました。祝福してくれるよね?』
「……」
なんか、ものっすごい、嫌だ。
「ユウコちゃん? 何だか不細工な顔してるわよ?」
「う、いや……何というか」
いや、単純に、シューちゃんより結花奈のことを子供扱いしてるからだろう。より付き合いが長いし、見た目も小さいし。
「ちょっと待ってください。今想像してるので」
えーと、じゃあ恋人をつくった想定でいこう。
『優姉、この人私の恋人なんだ。いいでしょ。格好いいでしょ?』
う、うう……い、嫌だ。というか、結花奈が私以外の人とキスする以前に、恋人の距離感でいるだけで、なんか嫌だ。
心狭すぎるだろう。シューちゃんは寂しいとは思うけど応援しようと考えられるのに、結花奈は反射的に嫌って拒否して考えられない。
「………………」
「ねー、まだ?」
「り、リアお姉さん」
「はいはい。どうだった? 私が判断してあげましょう」
「い、いえ……その、相手が自分以外と付き合うと言うだけで凄く嫌な気分になったり、自分とだけキスしてほしいと思うのは……恋ですか?」
「私に聞かなきゃわからない?」
「……ですよね」
いや、理屈としてはわかる。わかるけど、私、結花奈のこと好きなの? もちろん好きだけど、恋愛感情と言われても全然ぴんとこない。
結花奈が恋人つくるのは嫌だけど、自分がなりたいかと言われると、どうなんだろう。恋人になること自体は嫌ではないけど、積極的になりたいかと言われたらよくわからない。
「うーん、私、結花奈のこと好きなんでしょうか」
「あら、ユカナちゃんなのね。ふーん」
「……どうせ隠しても後々ばれますから。で、どう思います?」
「え? どうって言われても、お幸せに?」
そうじゃなくて……いや、そうじゃなくても、どうするかは私が考えなくちゃ駄目よね。
うーん。どちらかを選ぶとしたら結花奈、というのが今の結論ではあるけど、無理に付き合って関係は壊したくないし、どうすれば。
「さすがにどう話すかまでは私もわからないし、後は自分で頑張ってね。よし、じゃあさっそく、魔法の授業を開始します」
「あ、はい。お願いします」
とりあえず、まだ初日だしね。後で考えるか。
○
「はい、これで本日の授業は終わります。質問は?」
「はい、リア先生」
「なぁに?」
「あの、人間の魔法とほぼ基本は同じみたいなのですが」
「そりゃそうよ。元々エルフって人間だもの」
「えーっと、こう、エルフならではの魔法を教えてほしいのですが」
「エルフならではねぇ。自分以外の魔力も利用するのが一番の特徴だけど、魔法体系的には基礎は同じだし。一応エルフオリジナルもあるけど、人が今使ってるのを効率化したものとかで、少なくとも召喚魔法はないわね」
「そんなぁ」
そのものはなくても、もっと進んだ魔法があるかと思ったけど、規模や効果があがっても基本が同じなら、期待していたほどの発見はないだろう。
前勇者に期待するしかないのだろうか。
露骨にがっかりする私に、リアお姉さんはぽんぽんと肩を叩く。
「ごめんなさいね。期待に添えなくて」
「…いえ、私が勝手に期待しただけですから。それに、勉強になりました。大胆な省略化でも同じように発動するのには驚きました」
「でしょ、人間の魔法陣って結構無駄が多いのよ。私があなたにあげた魔法陣は人間がつくったものだけど、私が改良してたのよ。気づいてた?」
「そうだったんですか。綺麗な式だなぁとは思ってたんですよ」
「いやぁん、照れるわ」
頭をかいて恥じらうリアお姉さん。勉強になるには違いないし、折角なのでもっと教えてもらおう。
「リアお姉さん、一週間の間、暇なときだけでいいので、もっと教えてもらえませんか?」
「いいわよ。午前中だけでよければ、毎日教えてあげる」
「いいんですか!?」
「もちろん。大事なお客様だもの。それに一週間しかいないんだから、サービスしちゃうわ。なんでも言って」
飛び上がって喜ぶ私に、リアお姉さんはウインクをして優しい笑顔を浮かべる。
えー、そんなこと言っちゃっていいんですかー?
「本当ですか? じゃあ、その、厚かましいことお願いしちゃってもいいですか?」
「いいわよ。なに?」
「その……お土産にお米をわけていただきたいな、なーんて」
「……いいけど、もう帰るときの話をしなくても」
うっ。ごめんなさい。それもこれもお米が美味しすぎるのが悪いんです。
「まぁ、安心して。御婆様も最初からそのつもりでお米を用意してるから」
「リアお姉さん大好きです!」
「はいはい」
○




