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「ふー、おいしかった」

「うん、お魚のステーキもなかなかいけるね」

「私、お肉のステーキより好きかも」

「マジでー? でも確かに、そこらのステーキよりはかなりおいしかったけど」


 美味しいご飯を出すと話題のちょっとお高い宿屋。確かにこれは十分払う価値のある美味しさ。

 前は節約しつつの旅だったけど、今回は懐に余裕があるので、以前食べれなかったお高めの食事にも手を出している。


 部屋に戻った私たちは、着替えを用意しつつもすぐにお風呂に行くのも疲れるので、しばらくだらけることにする。地図を広げる。


「えーっと、この町って地図で言うとどの辺かしら?」

「昨日の町がここで、こっちに飛んだから……あった、この街だね」

「この森にエルフの里があるんだよね? もう半分くらい来たんだ」

「早いわねぇ……んっ!?」

「え?」

「ユウコ、どうしたの?」


 地図上で何とはなしに指先を滑らせると、見知った街名に当たって思わず声をあげる。

 進路上から、通り過ぎてしまっている。確かに元々意識して目標にしていたわけではないし、仕方ないんだけど。仕方ないんだけど。


「………この街の、特別牛スープ、飲み損ねた」

「みみっちいなぁ」

「失礼ね」


 この街を通りかかった時、スープ専門店に立ち寄った。もう、とろけそうなくらいおいしかった。なのでいつか、最高峰の一皿一万円もするスープを飲んでやろうと思っていた。

 今回、経路上にこの街があるのを発見していて、密かに計画していたのに。まさか一週間もしないうちに通り過ぎてしまうとは。

 こんなことなら、からかわれてもいいから二人にも言っておけばよかった。さり気なく誘導とか無理だった。


「そんなに遠くないし、戻る?」

「シュリは甘やかしすぎ」

「でも」

「ま、確かにね。急ぐわけでもないし、30キロくらいならすぐだけどね」

「大丈夫よ。また機会もあるでしょ」


 気持ちは嬉しいけど、私の都合だけで戻るわけにはいかない。くっ、次こそ絶対、飲んでやるんだから。


「優姉、べつにやせ我慢しなくてもいいよ?」

「や、やせ我慢じゃないわよ。そろそろお風呂いくわよ」

「はーい」

「うん」









「ねぇ……迷ってないわよね?」

「それ、30分前にも聞いたよ。迷ってないってーの」


 自信満々に進む結花奈だけど、もう一時間以上歩き通しだ。木々に覆われて太陽もよく見えないし、道はないから木をよけながらで一定の方角へ進んでいるのかすらわからない。


 エルフの里は大きな森に囲まれていて、山々の間の秘境にある。森全体に魔法がかかっているらしく、空からははいれないそうなので、仕方なく森に入るところから歩いてる。

 歩いてるけど、本当にあっているのか。魔法で強化したので体は大丈夫だけど、気が滅入りそうだ。


「ユウコ、疲れたのならおぶろうか?」

「それは大丈夫よ。ただ景色もかわらないから、何だか不安じゃない?」

「ユカナが大丈夫って言ってるから、大丈夫だよ」


 いつの間にか結花奈はシューちゃんから絶大な信頼を寄せられていたらしい。何故だろう。喜ばしいことなのにちょっと納得いかない。

 私の気持ちを察したらしく、結花奈はオーバーに肩をすくめる。


「でも確かにね。リアも迎えにきてくれればいいのに。気が利かないよ」

「はーい、ここで気が利かないリアお姉さん登場でーす」

「わっ」


 結花奈が言い終わるかどうかで、突然ばさばさっと葉音をたてながら空から逆さまにリアさんが降ってきた。


「リアか。びっくりした。てか気配全然なかったけど」

「ふふーん。風使いなめないでよね」


 結花奈と同じくらいの高さにある逆さまの頭が話すと言うのは物凄くシュールだ。


「とりあえず降りたら」

「そうね。よっ」


 リアさんは一回転して地面に着地した。


「お久しぶりです、リアさん」

「どうも、ひさしぶりです」

「やぁね、他人行儀な。リアお姉さんって呼んでよ」


 あー、そういやこんな人だっけ。


「リアお姉さん、お久しぶりです」

「うんうん、素直でよろしい」

「何やらせてんの。てか、遅くない? さっさと迎えにきてよ」

「仕方ないじゃない。私ちゃんと森の入り口で待ってたのに、来ないんだもの。木々があなたたちの噂してるの聞いて、これでも慌てて着たんだから」

「え、そんなんあったの?」

「あるわよ、一応」


 ……まぁ、いいか。リアお姉さん来たんだからもうすぐだろうし。気まずそうにこっちを伺ってくる結花奈を怒るのも可哀想だしね。


「じゃあリアお姉さん、早速案内お願いしてもいいですか?」

「もちろん。さー、こっちよー」


 先頭を歩き出すリアお姉さんについて、結花奈の頭を軽く撫でてから歩き出す。もう一頑張りだ。


「…。リア、エルフの里ってさ、人間迫害されたりする?」

「しないわよ。まぁ、偏見持ってる人もいるけど。でも勇者一行ってことでちゃんと賓客として迎える用意してるから、安心して」

「お客様ねぇ」

「リアお姉さん、改めてありがとうございます。急な我が儘を受けてくださって」

「我が儘とかじゃないって。魔法調べるくらい全然いいよ。それにユウコちゃんたちなら、遊びにくるのも大歓迎よ。5年でも10年でもいていいのよ」

「そんなにはさすがに」


 リアお姉さんはいい人だなぁ。結構遠かったし、エルフの基礎魔法くらいは頭にいれたいから、お言葉に甘えて一週間くらいはいさせてもらおう。


「ねぇ、リアさん。エルフについて、聞いてもいいですか?」


 お、シューちゃんがやっとリアお姉さんに話し掛けた。リアお姉さんには人見知り激しい時に会ってたから、ちょっと心配だったんだよね。


「おー、よしよし。お姉さんなんでも答えちゃうよ」










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