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「ユウコ、して…?」


 ねだられるままにキスをする。最近では私たちも慣れたもので、見られないようこっそりと、隠れるようにキスすることが増えてきた。

 それぞれ、見られないよう、視線を外されているときにこっそりと。というか、半ば開き直りかも知れない。


 シューちゃんからは袖口を引かれるのが合図、結花奈からは頭の位置がさがるように強引に促されるのが合図だ。


「優姉、大人しくしてね」


 結花奈にキスされる。シューちゃんの場合は自分からだからタイミングがわかるけど、結花奈は今みたいに椅子に座らされてすぐだったりしてタイミングがわからないから、少し慌てる。


 とはいえ、とにかく、最近はまぁ慣れたし、もはや私にとってもキスは日常になった。

 なので今のところ、問題といえば一つだ。


「……また失敗だわ」


 魔法陣は不発となった。他にも合間に別の魔法理論や世界中についてもついでに調べてはいた。いたけど、勇者の足跡もわからない。


「うーん」


 先々月に、結花奈が言っていた、旅にでるというのが現実的な選択肢となって見えてきた。

 この町での暮らしは快適だ。お金も定期的に入ってくるし、多分ここにいれば、生活に困ることはないだろう。そう、一生、困らない。

 ここにいると、気持ちが緩んでくる。安定して、期限がなく、せかされることがない。このままでは本を読むだけで際限なく時間がすぎてしまう。図書館の本を全て読もうと思ったら、老衰したって足りない。ここは一度見切りをつけるべきか。


「よし」


 決めた。期限を決めて、それまでに何もなかったら、エルフの里を訪ねてみよう。


「ユウコさん? なにを変な顔してたんですか?」

「え、そ、そんな顔してた?」

「はい。百面相してました。見てて面白いですけど」

「やぁ、恥ずかしいわ」


 向かいの席で自習してた女学生のトートリちゃんに指摘され、照れ隠しに頬をかく。


「トートリちゃん、私もうしばらくしたらこの街をでようと思うの」

「えっ、そうなんですか?」

「うん。今決めたの」

「転移魔法陣の研究されてますけど、目処はたったんですか?」

「やー、それが全然。転移先を指定するだけなら、なんとかできるんだけど。何かしら目印がない場所への魔法陣はまだまだね」

「十分凄いですけどねぇ。うちの学校にも声かけられたらって聞きましたよ」

「えっ、ど、どこから?」

「先生が言ってました。私知り合いだって言ったら羨ましがられました」

「やだぁ、何だか有名人みたいで恥ずかしいわ」

「名前だけならすでに、かなり有名人ですよ」


 うーん。着々と永住フラグをたてている気がする。便利な魔法陣ができたらみんなで使うのがいいし、それを売ってお金出来たらラッキーって程度だったんだけどねぇ。

 変に話題になって、変に有名になってしまった。顔出しは断ったから幸いだけど。結花奈のこともあるから、有名になっても困るのよね。


「ユウコさんが出て行かれたら、寂しいですね。どちらへ行かれるんです?」

「うん。色々とね。とりあえず、あ、これオフレコだけど、エルフの里とか目指そうかと思ってるの」

「えっ、エルフですか。そんなまた、本当にあるかないかわからないところへ。ユウコさんが転移魔法陣をつくろうとしてると聞いたときも、夢見がちな人だと思いましたけど」

「なんでよ」

「でも実際につくっちゃってますし。はい、応援しますよ」

「何だか含みを感じるけど、ありがとう。私もトートリちゃんが教授になれるよう、気持ちだけ応援するわね」

「はい。十分です。あ、折角ですし、出発される前に推薦文書いてもらっていいですか?」

「え、いいけどなんの?」

「適当に。署名だけでいいので」

「………い、いいけど、悪用はしないでよ?」


 信じるけど。一回家にもお邪魔してご両親とも知ってるし、それなりの付き合いの長さだし信じるけど、ほんとに頼むわよ? 現代と違って遠くに行けば知らぬ存ぜぬできるから、署名くらいいけどさ。


「私を信じてください。この真っ直ぐな目を見てください」

「信じるわよ」


 その言い回しは逆に怪しく感じるからやめて。


「じゃあ近い内に用意しときますね」

「はいはい」









「と言うことで、いつがいい? 仕事の都合上今年いっぱいー、とかあったら合わせるわ」

「うーん。聞いてみないと。でも新しいバイトの人も十分仕事覚えたし、そろそろもう一人増やすっていってたから、それ二人にすれば大丈夫かな」

「私は最初の契約である翻訳は済んでるからいつでもOKだよ」

「ふーん」


 ならまぁ、とりあえずシューちゃんの返答待ちだけど、1ヶ月か、遅くても2ヶ月後にはやめれそうね。


「じゃあリアさんのところにも、行くって連絡して………手紙って届く?」

「届くわけないじゃん」


 ですよねー。隠れ里だもんね。でもどうしよ。前にいつでもいいって結花奈が言われたからって、アポイントもなしに押しかけるのはちょっと。そんな友達じゃないし。

 でも結花奈は仲間だったんだし、いいのかな? 私たちは所詮おまけだし。


「大丈夫。魔法で一報いれとくから。まーかせなさい。てかどーやっていく? 私の飛行魔法で送ってあげたら多分二週間くらいでつくよ。馬車だと…半年くらい?」

「と、遠いのね。てか飛行魔法早いわね」

「山とかあるから、迂回しなきゃいけないしね。めんどいし飛行魔法でいいでしょ?」

「結花奈に負担がかかるわけだし、結花奈がOKと言ってくれるならもちろん」

「うん。してくれるんなら助かる」

「OK。決まりね。ひさしぶりの旅だし、楽しみだなぁ」


 そうね。確かにそれは同意だ。同意だけど、でも私があと1ヶ月以内に進展しないこと前提よね。いや進展しないからなんだけど。ちょっと複雑。











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