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「お客さん、これなんて似合うんじゃないですか?」

「あら可愛い」

「今年の流行ですよ」


 あの後、詳しくはまだだけど結構お金があることがわかったから歩き回り、屋台でいくつか食べ歩きして、服屋も寄った。

 民族衣装的なのから、シンプルなので元の世界でも着れるようなのもあった。服を見繕ってあげたり、他にも小物類を一緒に見るとシューちゃんは楽しそうだ。普通の美少女らしくてグッドだ。


「あなたも凄く綺麗な顔立ちだし、これなんて似合うと思いますよ」

「……」

「すみません、妹は人見知りが激しくて」


 店員さんの朗らかな話しかけにも、シューちゃんはおどおどして私の手を握る力を強くして、私の後ろに隠れようとする。

 思ったよりも重症だ。最初はいかつい男性だからかと思ったけど、こんな小柄な女性店員もとは。


 何着か下着の替えや、せっかくなので色々買った。

 とりあえず銅貨が100円、半銅貨10円、半銀貨500円、銀貨1000円なのはわかった。それ以上は怖くなるので考えずにおいた。帰ってから計算したらいいや。


「うん、似合う。可愛いわよ」

「…うん、ありがとう」


 はにかむシューちゃんがとってもプリティなので、借金の分際で髪留めをプレゼントしたりして、ぶらぶらしていると夕方を過ぎたので帰ることにした。


「はー、シューちゃん、今日楽しかったね」

「うん」

「また行こうね」

「うんっ」


 おおー、大進歩だ。朝はあんなに渋っていたのに。うんうん。シューちゃんは外を知らないだけだもんね。

 外に慣れればシューちゃんも普通の女の子みたいになるよね。









「可愛いわよ」


 にこにこと笑って、私に髪留めをプレゼントしてくれた。ユウコは元々私のお金だけど、なんて言ったけど、そんなことは問題じゃない。

 ユウコが私にプレゼントしたいと、そう思ってくれたことが何より嬉しい。

 ユウコはきっと、とても幸せな家庭で育ったのだろう。そう素直に思う。こんなにも優しいのは、異世界人だからだけではないはずだ。


 家に帰ると、ユウコは片付けを済ませてから何やらうなだれていた。紙とペンとインクはまとめてあげたのだけど、何かを書いているみたいだ。

 隣の席に座って覗き込む。何だかものすごい暗号みたいだけど、でもこの間からユウコが書いていた母国語のメモとはまた、少し違うようだ。


「シューちゃーん。駄目よ、ほんと」


 机に顔を伏せるようにしていたユウコは起き上がり、隣に置いていた私の頭に覆い被さるようにして、髪の毛をくしゃくしゃしてきた。


「な、なにが?」


 くすぐったいけど嫌ではなくて、むしろちょっと楽しい。笑いそうになるけど、駄目よ、と注意されているので笑わないよう我慢して尋ねる。


「お金。シューちゃんは物価知らないから、聞いても翻訳されないし仕方ないんだけど、金貨一枚で10万円も価値あるじゃない!」

「うん」


 その通りに説明したはずだけど、どうも私が実感としてわかってないからか、うまくお金の価値が伝わってなかったらしい。


「そんな大金をぽいぽい貸して、しかもまだあるとか簡単に言っちゃ駄目よ。シューちゃんの優しさにおんぶにだっこな私が言うのもなんだけど、世の中いい人ばかりじゃないんだからね」

「わかった。気をつける」

「絶対よ? お姉さんとの約束ね」

「うん。約束」


 私はユウコだからお金をあげてもいいと思ったのだ。他の人にはしない。

 ユウコはどうも、私のことを子供だと思ってる伏がある。私はユウコより本当は年上だけど、甘えさせてくれてる状態を壊したくないので黙っておく。子供扱いされるのも、嫌ではない。むしろユウコならあったかい気持ちになる。


 今日、ユウコは特に意識何てしてないだろうけど、店員さんとかに私のことを、妹と説明した。友達じゃなくて、妹。

 それがすごく嬉しかった。深い意味はなくても、家族として扱ってもらったみたいで、嬉しい。だから私の年齢何て些細な問題だ。実際そんなに変わらないし。


 夕食を食べ終わり、濡らしたタオルで体を吹く。魔法で汚れなんかはなくせるけど、ユウコは毎日湯船に入る習慣だったらしく、せめてと体を吹いている。

 その内、お風呂もはいれるようにしてあげたい。大きな桶を用意すれば、あとは魔法で何とかできるだろう。


「シューちゃん、とりあえず当座は金貨一枚借りるね。もうちょっとスムーズに文字が読めるようになって、独りでも出れるようになったら働いて返すわね」

「え……」


 寝る前になり、ユウコはそう言った。私は瞬間に頭が真っ白になる。


「で、出ていく、の?」


 私に引き止める権利はない。わかってる。でも、そんな。


「え、違う違う。普通に昼間働きに行くだけ」


 はぁぁと無意識に止まってた息がもれる。よかった。まだ大丈夫だ。ああ、よかった。


「そんな不安そうな顔しないで。大丈夫。シューちゃんが一人前になるまでは一緒にいるから、ね」

「……うん」


抱きしめられる。それだけで、この世界には何も不安や恐いものなんてなにもないような気持ちになる。

 いつか、この温もりはなくなってしまう。それは頭ではわかってるけど、考えるだけで泣きそうだ。


「何ならシューちゃんも働く?」

「……ううん、大丈夫。私のことなら心配しないで」


 本当は、一緒がいい。でも街に出るだけならともかく、働いて、もし発作が起こればユウコまで忌避されてしまう。

 私の病気は、ユウコは私自身には危険はないと思ってるみたいだ。束縛したくないから、そう思うようにあえて言わなかったけど、本当は違う。

 魔力がもれたことで発生した爆発は私にダメージを与えないけど、そもそも心臓がひどく痛む。痛みだけでショック死したり、心臓が止まることもある。爆発で建物が壊れて死んだりするし、私のこの病はかかる人は稀だけど、発作が原因で死ぬ確率が最も高い。

 でもそんなことを言えばユウコは私から一瞬も離れられない。それは私には素敵なことだけど、そんな訳にはいかない。

 すでに十分ユウコの優しさに甘えてる。これ以上束縛して困らせたくない。


「ユウコ、頑張ってね」

「ええ、ありがと」

「まずは魔法からね」

「そうね、明日もよろしくね」

「うん」


 でもあの魔法、難しいし、ユウコにできるかな? 私は体内にあるからできるけど。











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