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「優姉ー!」

「ととっ、もう、結花奈、危ないから走っての抱きつきは禁止って言ったでしょ」


 腰にタックルをするようにして結花奈が抱きついてくるものだから、思わず転びそうになった。危ない危ない。

 私は結花奈と比べれば普通の運動能力なんだから、気をつけてほしい。二人で足を滑らせて結花奈だけ転けなかったとしたら、いかに姉貴分の私でもガチギレする自信がある。


「だーいじょーぶっ、あたしが優姉助けたるから!」

「助けたるて……それ、犯人あんたでしょうが」

「こまけーことは気にすんな!」

「ちょっとは気にしなさい。で、今帰り?」

「おうともさ。一緒に帰ろーよ」

「いいわよ。帰りにスーパー寄るから荷物持ちしてね」

「えー、お菓子は?」

「一つだけよ」

「ちぇー、今時よぅ、小学生だって二つだよ?」

「なにを根拠に言ってるわけ?」

「最近の結花奈調べで」

「意味がわかんないから。嫌ならかわない」

「ウソウソ! 優姉素敵! よっ、社長!」

「おべっかはいいから。晩御飯なにがいい?」

「ハンバーグ!」

「好きねぇ」

「うん。優姉のハンバーグ大好きだよ」


 竹中結花奈は私、竹中優子の妹ではない。いとこだ。結花奈は父子家庭で、うちでご飯を食べることが多い。

 うちは両親とも共働きで忙しく家をあけることが多いので、一人よりは二人の方が心配ないだろうとおばさんが亡くなってすぐ、おじさんと結花奈がマンションの隣に引っ越してきてから、ほぼ毎日晩御飯を一緒に食べている。

 忙しい両親にかわり、食事すべてとその外の家事もいくらかを担当している。姉貴分というより母親役な気もたまにする。


「じゃあ今日はハンバーグにしましょうか」

「やったね」


 1つしか年は変わらないけど、170オーバーのデカ女の私と比べて150の中頃くらいの小さな体と、無邪気な性格からつい子供扱いしてしまう。結花奈自身が幼いのだから仕方ない。


 喜ぶ結花の頭を撫でてやりながら、そういえばと話題をかえる。


「今日体育だったでしょ? 体操服だしておきなさいよ」

「うーん、でも今日はそんな汗かいてないし、大丈夫だよ」

「だめ」

「うー、めんどくさい」

「なにがめんどくさいのよ。だすだけでしょ。洗濯して乾かしてたたんで渡してあげて、至れり尽くせりしてあげてるでしょーが」

「うん、いつも感謝してます。で、優姉もめんどいよね? じゃあやっぱよくね?」

「よくないっての。ジャージはいいけど、体操服は洗うの」

「はーい」


 結花奈は見た目も中身も小動物的で可愛いし、運動神経は抜群だし、勉強だって不得意じゃないのに、めんどくさがりなのが玉に瑕だ。しょっちゅう誘われるのに部活にも入っていないし

、試験勉強もあまりしないから平均点やや下あたりだ。

 あたしゃ結花奈の将来が心配だよ。まぁ、言うほど私も、できる子じゃないけどね。


「優姉ぇ、今日さ、実は宿題がでたんだよね」

「それで?」

「んもー、わかってるく、せ、に」

「それで?」

「……手伝ってください」

「わからないとこを見るだけだからね。かわりにやったりはしないから」

「わかってるよぅ。優姉はかたいんだから」


 そんなことはないけど、毎度毎度私にやらせようとするからでしょ。全く。真面目にやれば勉強だってできる子だと思うんだけどねぇ。







「はーんばーぐ、はんばーぐー」


 鼻歌を歌っていると、優姉はくすくすと笑い出す。無意識に出ていただけに照れくさいけど、優姉が笑ってくれてるだけでなんだか嬉しくて、笑ってごまかす。


「笑うなー。失礼だぞ」

「ごめんごめん、結花奈があんまり可愛いから、ね」


 頭を撫でられる。えへへ。ハンバーグの材料が優姉の肩に掛けられたエコバックの中で揺れている。前に振り回して卵を割った前科があるので、買い物袋は持たせてもらえないのだ。

 仕方ないのでお菓子が入ってるだけの軽い袋を振り回す。


「こら結花奈、危ないでしょ」

「だいじょぶだいじょぶ」


 私だってもう子供ではない。確かに優姉に甘えてるし、優姉より小さいけど、買い物袋を落としたのだって何年も前のことなんだから、いい加減信用してくれてもいいのに。

 私の方が力持ちなのにさ。全く全く。


『ーーーー』

「ん?」

「なに? どうかした?」


 なんか、遠くから響くような声が聞こえた気がして、振り向いたりするけど、別になにもない。

 んん? げ、幻聴か? 幻聴なのか? おっかしーなぁ。私、耳とか目とか、自信あるのに。


「んー、なんかいま、声が聞こえた気がして」

「…、ま、またまたぁ、私を脅かそうとして。やめてよ」


 優姉がひきつりながら、私の腕を掴んでくる。おっと、優姉が怖がりなのを忘れてた。今のは別に幽霊的意味はなかったんだけどさ。


「そんなビビんないでよ。ちょっと聞こえただけだから」

「び、ビビってなんかないわよ? 私ビビらしたら大したもんですよ?」


 こういうところが可愛い。優姉は自分が可愛くないと思ってる。確かに背はかなり高めだけど、顔は可愛いし美人系だ。自覚がないだけでもててるし。まあ自覚されても嫌だしいいんだけど。


『ー、召還』

「えっ」


 また聞こえた声が、最後にはっきりと聞こえた瞬間、世界が真っ白になってなにか強い力に体を引っ張られた。思わず優姉の手を強く握る。


「なっ、なに!?」


 スーパー袋は手から滑り落ちたけど、なんとか優姉の手は握ることに成功した。だけど本当に凄い力で、どこかに引っ張られてる。指が痛くて、ほどけそうになるのを懸命に堪える。

 世界が真っ白で、なんだ、これ、なにが起こってる?


「っ、優姉!」

「結花奈!」


 ついに手が離れてしまった。すぐにつかみ直そうとするけど、私が引っ張られてるのに対して、優姉は力がなくなったように落ちていく。


「優姉ーー!!」


 いやだ! 優姉! 嘘! 優姉と離れてしまう!! 優姉!!


 諦められるわけがなくて優姉にさらに手を伸ばした瞬間、また世界が反転した。どすっと、音がして、お尻が痛くて、どこかに落ちたことに気づく。


「優姉っ!」


 優姉はいない。どこか違うところに落ちてしまったのか? こいつらは誰だ?


「成功です! よくぞいらっしゃいました、勇者殿!」


 お前誰だよ。








 



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