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つづきのはじまり③

 主要登場人物が、それぞれの思いのを持って動き出しました。その、はじめですが。まだまだ、「はじまり」はつづきます。

「はぁ~。すごい人でしたね」


「・・・・・・・・あんな客初めてだ」


 アックスとウォルガが帰った後で、スイーツを全て売りつくすことができた店長と少女は揃って缶コーヒーを飲んでいた。


「そうですね。初めてでした。ほんと、変な人でしたね」


 深夜に関わらず、訪れた客。

 その一人はやたらとスイーツについて詳しく、また、味にもうるさかった。

 その背後にひっそりと佇むだけだった男性は、怪しかったが特に害はなかった。


 そんな彼らがまた明日に来る。そう云う約束をしてしまった。

 時間は日没後。

 それこそ、深夜にはならないだろうが、通常の営業時間を大幅に超えてしまう。しかも、出来たてのものが欲しいと、いつの間にか条件が付けられていた。


 それこそ、いつの間に約束をしてしまったが分からないほど、自然と乗せられていた。

 会話が(たく)みなのだ。


 引き込まれ、引きずられてしまった。

 営業車での販売では、まずもって一番やってはいけない経営の仕方だ。客の要望に一つ一つ応えていたら、それこそ採算がとれなくなる。

 手広くとも、浅く。

 深堀することなく、周辺を隈なく回る。

 それこそが、店長と少女で獲得していった商売方法だったのだ。

 それが、この一夜ではできなかった。客に主導権を握らせっぱなしだったのだ。


「明日も来ますよ。どうします?」

「開けるしかないだろう。とんずらしたら、それこそマズイ」


 信用問題にかかわる。

 口コミでの情報が一番やっかいないのだ。それこそ、悪い噂が流れようものなら、廃業しなくてはいけなくなるほど。

 スイーツの味にいくら自信があろうとも、客が付いてくれなくては商売自体できない。

 そうなってしまっては。


「まぁ、なんとかなんだろ。お前は気にせずに、明日もいつも通りにしといてくれ」

「わかりました」


 そう言って、早々にコーヒーを飲みほし明日の準備へと裏方に入る店長。


「あの、」


 店長の後ろ姿が隠れるか、隠れないかという直前に少女は声を上げた。


「・・・大丈夫、でしたか?」


「なにがだ?」


「・・・・・・・・・・それは、だから・・・・・・」


 少女は言い淀む。

 店長が聞き返したのは、質問されたことに答えがないからではなく、答えたくないからだ。

 そのことを分かっている少女はぎゅっと、缶コーヒーを握りしめる。


「お前は気にしなくていい。俺がどうにかしてやる。・・・まぁ、ずいぶん前にも同じような事を言った気がするけどな」

「それは、・・・・・信じてます」


 少女は顔を伏せる。成年に向けたこぼれんばかりの笑顔からでは、想像できない悲愴な顔を伏せて隠す。


「信じてますから。・・・・・・・・・・・ヨナスさんのこと」


 しかし、しっかりと言葉を返す。

 悲愴な顔は伏せたままで。はっきりとした信頼を乗せて、言葉で伝える。


「・・・ああ。ゆっくり休めよ。ミア」


 そんな少女・ミアに顔を向けることなく、店長・ヨナスは裏方に姿を隠した。

 彼の方が、少女の顔を見ることを頑なに拒んでいる。

 そうするだけの理由があり、また、それだけしかできない理由がある。

 ミアはしばらく固まったように、動かなかった。


     ★


 月が夜空に浮かんでいる。

 雲はない。満点の星が天に輝いてた。

 ドイツの地方。それも、山の中とくれば、天体観測するにはもってこいの場所だと言える。

 そんな中を、明かりを点けることなく歩く人影が二つ。


「う~ん・・・」

「どうした?」

「まぁ、過ぎた話なんだけれど。・・・みんなのお土産買ってない」

「いいんじゃないか?」


 山道には街灯はなく、濃い闇が森を包み、奥を見通すことも困難な暗がりが広がっている。そんな中を、平然と歩くアックスとウォルガ。

 来慣れているというならば、どれほど暗くても歩いて帰ることはできるだろう。


「いいかな~。お土産屋さんとか覗いたのに、買い忘れたんだよ?」


「買おうと思っていたのか?」


「うん。予定としては」


「ならいいだろ。明日もある」


「それもそうだね」


 しかし、いくら慣れているとは言っても日付はとっくに変わっている時間だ。

 それなのに、恐がるそぶりも、急いで帰ろうとする歩幅でもない。

 いたってゆっくりと、昼の街道を歩いているようなスピードで進んでいる。少し買い物をしてきたという風に。

 それこそ、6時間以上休みを挟むことなく店をめぐり、スーパーにまで繰り出し、あまつさえ街まで往復2時間はかかる山道を歩いているのだ。


 車を体一つで破壊できる彼らにとって、疲れなどないのだろうか? 暗闇は、怖がるべきものでないのだろうか?


「また、明日か」



 

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