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つづきのはじまり

 登場人物の名前はほとんど出てきていません。

 成年とウォルガがどういった素性のものであるかも、まだ明らかになっていませんが。ようやく物語は形を、舞台を整えましたので本格始動し出します。

 ここにでてきたスイーツは、あくまで想像の産物です。

 実物にあるものではありません。そして、作れるものではないので、想像でお楽しみください。

深夜のスーパーの片隅で、成年と少女は向き合っていた。


「これはリンゴのパイ?」

「いいえ。キイチゴの盛り合わせケーキよ。パイ生地にキイチゴとジャムが挟まっていて、その上からさらにキイチゴを盛りつけたものなの」

「じゃあ、この横の白いお城は砂糖で作ってるのかな」

「お城じゃないわ。見た目はそうなるように作っているけど、簡単なお菓子の塔よ。クッキーを土台に、ホワイトチョコの塔を載せているの。継ぎ目は生クリーム」

「なら、これはチーズケーキだね」

「そうね。間違ってはいないけれど、チーズじゃなくて、ホワイトチョコをベースにして、周りをチーズで囲ってるの。すごく難しいのよ。でも、絶品なんだから」

「これは、プリン。正解でしょ?」

「ざんね~ん。一番不正解よ。これは、ゼリー。食べたらわかるけど、食感といい味といい、はちみつゼリーよ」

「むむむ。なら、これは、そのままモンブラン」

「あははは。あたり!やっと正解ね」

「う~ん。スイーツはあらかた食べつくしたと思ったんだけど。・・・ここにあるもの全部、食べたことないよ~・・・・」

 

 成年と少女の会話は続く。

 そのほとんどがスイーツのことであり、お菓子作り、ケーキ作り、はたまたはチョコの作り方にまで及んでいる。少なくとも、素人がしない会話だ。

 それこそ、プロの会話であり、意見交換会のように白熱した議論を繰り広げだした。

 このままいけば収拾がつかなくなるだろう。


 しかし、ここで止めるに入る者はいない。

 ウォルガはいるが、眺めているだけであり、議論に参加しようとも、話の腰を折って中断させようとも思っていない。これでは、白熱した議論の末に和解して、熱い握手を交わすまで止まらないだろう。


「おい。何してる。閉店してない、の、か・・・・」


 熱く、熱く、白熱する議論に不意に声がかけられた。

 声をかけたのは、車の陰から姿を現した彫りの深い顔に、鋭い眼光を放つ白髪の男性だった。白髪ではあるが、年はまだ若い。30代前半だろう。


「店長。すいません。つい話しこんでしまって」

「ああ。ごめんなさい。つい話すぎてしまって」


 二人して異口同音に謝る。

 そんな二人とももに、なにもしていないウォルガも黙って目を伏せた。


「ま、まあ。・・・いいが」


 男性は明らかに怪しい二人組に警戒の眼差しを向ける。

 それは、深夜のスーパーなどに立ち寄るはずのない成人した男性が、若い女性と親しくしていたなら誰もが抱く感情だ。


「・・・悪いが、店は閉める。明日にでも買いに来てくれ」「できません」

 

 警戒心を前面に押し出した接客に、青年が即答する。それはきっぱりと。言い返された店長がとっさに言葉が出てこないほどの、潔い返事だった。


「これは売り物でしょ?このままだったら、捨てるだけでは?なら、買います。

作ってから、かなり時間が経過していると思いますので、半額で買わせて下さい。妥当な値段ですよね?」


 成年は売ってくれるまで帰りません。なんなら、白熱議論を続けますと、脅迫になっていない脅迫で店長と向き合った。


「・・・・まぁ、買ってくれるなら、売る、・・・売ります」


 その堂々とした成年の態度に、店長は引き気味に商品を提示する。

 完全に成年の勢いに飲まれた形だ。

 しかし、そこは商売人。ただ、売るだけではなくしっかりと接客をする。先ほど話し込んでいた少女の会話を踏まえ、成年はこの日はじめてのスイーツ、商品として並べてあった全品(・・)を買った。


 ほくほくした顔で成年は愛おしそうにスイーツの入った箱を抱きしめるように抱える。まるで、大事な宝物であるかのように。それは、それは幸せいっぱいの顔で。


「明日もこの時間まで営業してしますか?」


 輝かしい笑顔をそのまま、店長と店員の少女に向ける。


「・・・いいや。いつもは8時には店じまいすることにしています。今日は、たま

たま在庫の整理で明かりをつけていただけですので・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうですか」


 あからさまにがっかりした態度で肩を落とす成年。

 明日も買い占める気でいたことがまる分かりの態度だ。だからか、店長は時間指定での開店をしてもいいと、とっさに言ってしまった。

 その言葉に、成年は万遍の笑顔でお礼と感謝、祈りを捧げた。


 そのあまりにも、オーバーリアクションにさすがの少女も腰を引いている。しかし、作り手である店長は、そんな成年の素直な態度に赤面していた。

 ここまで言葉をいまだかつて受けた者はそうそういないだろうと言った賛美を、成年はまくし立てる。

 そして、なんなら商品を全て買うことを請け負って、出来たてのものがいいと注文までつけて、帰っていった。


「いやー!良い夜だ!これほど素晴らしい夜は他にない!」

「そうだな」


 奇跡に遭遇し、新しい世界が広がっているような清々しい気持ちで、成年は帰路についた。





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