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はじまりのつづき③

 ようやっと始動し始めました。

 これから、ウォルガのこと、名前が出てきていない成年の謎が少しわかると思います。

 スイーツを食べつくそうとする気概に反して、今日の収穫は全くなかった成年。

 そんな彼が目にとめたスイーツがあった。それも、ドイツのただのスーパーに。

 それこそ、はじめから市販品を買い求めれば済む話だった。ということではない。しかし、スーパーに行かなければ、決して目に留めることはなかっただろう。いや、視界にすら入らなかったはずだ。

 それは、深夜のスーパーが開いているのは、それこそ治安がいい国以外にありえない。


 ドイツでも、地方とくれば24時間営業の店などまずない。

 それなのに、二人ともスーパーに繰り出した。少なくとも、深夜近くまで開いているところは、そこ以外にないのだ。

 苦渋の選択肢といえるだろう。


 しかし、楽観的な成年と「行くだけ」のことを提案したウォルガならば、行ったところで店が閉まっていても「仕方ない、明日出直すか」となるだけだ。だけだったのだが。

 どういうわけか、店は開いていた。

 それも、スーパーの近くにある小さな露店が開いていた。

 車で営業している、いうなれば移動スイーツ店なのだが、ここにはまだ明かりがともっていた。


「へぇ~。まだやってる店あったんだ。なんだか、日本を思い出すなぁ」

「そうか?」

「そうそう。本気で眠らないよね。あの国は。ドイツ人よりも勤勉というか真面目というか」

「ああ。そうだな」

「でも、仍一(よるいち)たちは結構、砕けているけどね」

「あれらほど、勤勉で実直な者はいないと思うが」

「俺の子だもの」

「そうか」

 

 そんな会話を繰り広げながら、明かりがともっている営業車へと進んでいく。

 店を閉める準備をしているのか、明かりだけで人影がない。ただ、甘い香りが漂ってくる。


 車には美味しそうなアイスクリームにケーキといったデコレーションが施されていた。

 そう、プリントではなくデコレーション。紙と布でつくられて手作りの装飾がほどこされてるのだ。走るときは外し、営業するときに飾り付けているのだろう。そのためか、普通のスイーツ売りの車よりも愛着がもてる。

 そんな、かわいらしいといえる車に到着した成年は、顔をほころばせた。

 

「すごい!すごい!食べてみたいー!!」


 子供のように手を挙げて喜ぶ大人。

 しかし、それは本当に嬉しそうで楽しそうだ。まるで、そのスイーツに出会えたことに感激しているようであり、感動してているようだ。


 いや、実際に感激しているし、感動している。


 一生の出会いがここで巡り合ったのだと、喜びを全身で表している。

 大の大人が羽目を外してはしゃいでいる光景は、深夜の閑散とした街には場違いな姿に映るだろう。しかし、その喜びは本物であり、その感動は言い表せないものだ。

 成年の態度がそれを現している。


「いやー。いきなり大きな声が聞こえたからびっくりしましたよー」


 そんな成年の声に呼び出されたように、一人の少女(・・)が奥から顔を出した。

 かわいらしい少女だ。

 

 顔の造形は整っているとは言えない。そばかすが目立つ頬、くっりとした鳶色の瞳、赤みがかった髪は無造作に伸ばし毛先は跳ねてしまっているが、利発そうな顔立ち、しかし一番特徴的なのは笑顔がかわいらしいことだろう。


 店員がしている営業スマイルではない。


 親しい者に向ける無防備な笑顔。

 それは純粋で、心からの歓迎を示している。

 これほどの笑顔を赤の他人、しかも、深夜に訪れる客に対して向けるなど、通常ならばありえない。


 その客が、一人はほとんど黒のみの服を身にまとい、黒髪に黒目とった闇に溶け込むかのよな男。

 一人は灰色に近い銀髪に紫の切れ長の瞳を無遠慮に向けているおり、無表情の凡庸とした顔をしている。彼こそ何をしでかすかわからない雰囲気を出している。


 こんな二人の怪しすぎる客に対し、万篇の笑みを送ることのできる少女。

 豪胆なのか、胆のが座っているのか。

 はたまた、恐れる理由がないからか。

 

「驚かせてごめんね。あまりに美味しそうなスイーツばかりだったから。ああ!こんなにあると、どれを選んで食べたらいいのかっ!」


 それとも、子供のように楽しそうに目の前に並ぶスイーツをきらきらとした目で見つめる成年に害はないと判断したのか。


「どうぞ。お好きなのを選んでください。売れ残り品なので、半額でいいですので」


 その少女の言葉に、成年は跳ねた。


「なんて素晴らしい!君は天使のようだね。君みたいないい子は見たことないよ!」


 跳ねたい勢いに任せて少女の両手をつかむ。そして、嬉しくて嬉しくてたまらないといった笑顔向ける。

 身を乗り出してくる成年に少女は驚いていたが、その感情からくる態度にまぶしい笑顔を返す。


 そして、どちらともなく両手を握ったままぶんぶんと上下に降り出した。

 そのまま踊りだしてしまいそうなほどの勢いに、ウォルガは何も言わない。黙って見守っている。いや、厭な気配がする車の裏側に意識を伸ばしながら、楽しそうに手を振っている成年と少女を見ていた。







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