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はじまりのつづき②

 まだまだ前半を抜け切りません。

 温かい目と、温かい心で読んでください。

 ウォルガが腕を振るった料理を食べつくし、成年は一息ついていた。


「あー。生き返るー」


 幸せそうに特大ソファーの上でごろごろしていた。本当に幸せそうだ。ごろごろとソファーに懐いて、家出の時間を満喫していた。


「ねぇー。あの子らから連絡あったー?」


「特にないが」


「そう。ふーん。自力で探してるみたいだね」


「いいことだ。他力本願など必要ない」


「そんなことないよ。他人の力を使えるなんてすごいじゃない。自分の力を使うほうがずっと簡単なのに、あえて茨の道を進もうとしてるんだから」


「それは誰に対する言葉だ?」


「う~ん。ディートちゃんとか、フォッテルくんとか?あれはすごいよ。誰からの力も借りられて、自分は何にもしないで、物事進めちゃえるんだもん。彼らこそ、指導者にふさわしいと思わないかい?」


「他人の力を借りてるだけだろ」


「他人の力を引き出すウォルガらしい言葉だね。借りるって、貸すほうにもリスクはあるんだよ?それを押して協力させるんだ。すごいことだよ」


「そうか」


「いや。やっぱり、他力本願はだめだよね。自分の力で物事に当たらないと。結局はなんにもならないんだから」


「そうか」


「さて。いっぱいごろごろできたら、これから街に行こう!スイーツ店巡りだ!!」


「そうだな」


 ごろごろと懐いていたソファーから跳ね飛んで地面に着地する成年。その顔には満遍の笑み。20代の外見からは想像できないほどの子供のような笑みに、ウォルガの目元が少しだけやさしくなった。

 それは劇的といえる変化である。

 たとえ、絶世の美女が彼に微笑みかけたところで感情さえあらわさない。

 それが、少しだけとはいえ人間のように笑ったのだ。


「さぁさぁ。時間がないぞー。いっぱい食べて、食べ歩くぞー!」


 子供のように笑いながら、右腕を天に突き出す。

 まるで、遠足をしている小学生のようだ。


     ★

 

 大人の小学生が、ドイツのスイーツ店を巡っていた。

 そう、巡っている。

 見ているだけで、手を出そうとはしない。


 嬉しそうに覗いて回るだけだ。どうやら、食指が動かないらしい。昨日はどれを食べるか迷いに迷っていた者の姿はとは思えないほど、店を覗いてはあっさりと引いている。

 そんな成年の行動に、ウォルガは特に何を言うわけでもなくついていく。ごくまれに、いい匂いがした露店を除く程度で、後は成年の後を静かに着いていく。見失わないように。


    ★


 どれくらい歩いただろう。時刻は深夜に差し掛かっていた。そのため、ほとんどの店は閉まり、あたりは閑散としだした。しかし、成年はそれにも構わず店々を覗いてて巡る。

 それこそ、すべての店が閉まり終わるまで、一個のスイーツも買うことなく、見るだけで終えてしまった。


「いいのか?」


 ようやく、外に出てはじめてウォルガは成年に声をかけた。

 店を冷かしていたときは、片時も傍を離れることなくついてきていたが、一言もしゃべらなかったのだ。


「う~ん。・・・・・・・いいのはあったんだけど、食べたいのはいっぱいあったんだけど。なんか違う」


「そうか」


「う~ん。求めていたものと違うっていうか。求めている幸せと違うっていうかー?」


「そうか」


「なんだろうね。食べたいは食べたいんだけど、今はいい」


「そうか」


「うん。ちょっと遠回りして帰ろうか?」


「そうだな」


 そんな会話とは言えない一方的な会話を繰り広げる二人。

 これが、この二人の標準だ。

 何事も、ウォルガは成年に付き従う。まるで、それが当然であるかのように成年もふるまう。

 ウォルガの意見など構うことなく。

 というわけではない。意見は聞いている。聞くというよりも、成年は何かにつけてウォルガに大したことのない質問をよくしている。

 たとえば、

 

 俺が死んだらどうする?

 生きてるって結構つらいよね?

 今何を思ってる?考えてることじゃないよ。

 一番誰を気に入ってる?

 嫌いな敵っている?ちなみに俺は居る。


 と、取り留めもないことをよくウォルガに聞いてくるのだ。それこそ、答などたして聞こうとも思わずに。その時の感情で、その時の気分で、彼はよく答を求めない質問をする。

 それも、ウォルガ限定で。

 他の者には、取り留めのない話はするが、答えを必要としない質問を投げかけるのは、ウォルガ一人だけだ。


 迷惑だろう。


 けれど、ウォルガは真剣に答える。

 答を期待していないことをわかりきっていても、成年からの投掛けを無駄にすることはない。一つ一つに応える。それこそ、人付き合いをほとんどしないウォルガが、たった一人に真剣に取り組むことなどない。

 唯一が、成年に対してのみだ。


 どれほど くだらなかろうが、

 どれほど 面倒事だろうが、

 どれほど 絶望的な展開になろうが、


 成年に求められたなら、彼に、動かない理由は存在しない。

 成年に願われたなら、彼に、応えない理由は存在ない。


 だから、成年の決定に否は存在しない。


「あ~あ。今日はいっぱいスイーツ買いあさって帰って食べるつもりだったのに~・・・」


 今日一日の反省とばかりに、成年はがっかりと肩を落としている。ともすれば、幽鬼のようにゆらゆらと体を揺らしながら歩いているように見える。

 自分で何も買わずにいるのに、まるで責任は別の誰かにあるかのような態度だ。


「さってと。うーん。帰って何するかな。今日一日の楽しみがなくなったからなぁ」


 その楽しみ自体を自分でなくしたのだ。どれほど愚痴ろうと誰も慰めてなどくれない。

 もっとも、その愚痴を聞いてくれるものがすぐ近くにいるのだが。


「市販のものでよければ、スーパーで買ったらどうだ?」


「いや。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいかも」


 即答で応えておきながら、どうやら心の中で変化があったのらしく、数瞬後には頷いた。

 そんな成年を見て、ウォルガは率先して前に出る。今まで後ろから黙ってついて来ていただけなのだが、今度はウォルガが道を選んで進みだした。


「昼間のうちに下見しておいてくれたの?」

「ああ」


 まるで何でもないかのように答える。

 それこそ、5時間以上かけて街の中を見て回った態度など微塵も出さずに。

 成年の気分次第で、どこへでも案内できるように気を配っているなど漂わせることなく。

 そんな、ウォルガの態度を見て分かるものなどいない。


「ふふ。ウォルガのそういうところ好き」


 それこそ、成年にしかわからないだろう。





 

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