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妄執②

タイトルと関係ない展開になってしまった。。。もっと、どろどろしたものを書くつもりでしたが、あっさりさっぱいりしたもになりました。

 カラクリ創りからの攻撃をかわしていく。それは、ガス片が突き刺ってくるという単純極まりないものだが、どういわけか、そのガラス片は唐突に現れる。そうでなければ、辺りの民家の窓や車のフロントガラス等が窓が飛んできてもここまでの質量にはならない。

 ひたすら避け、逃げる。

 カラクリ創り、詐術師から距離を取っているのにガラス片の攻撃はやまない。そればかりか、二人の姿が付かず離れずついて来ている。

 いや、ついて来ている気がする。

 視界の中にハニーブロンドの髪が映る。青いスーツの影が映る。

 それだけだ。しっかりと姿を視認している訳ではない。訳ではないのに、気配が離れない。


「ふん」


 ここまで索敵されているのにこちらか攻撃できない。いや、そうではない。攻撃させようとしないのだ。

 なるほど、やり手だ。

 しかし、様子見ももういいだろう。この二人が、どうして俺に攻撃をしようと考えたのか理解不能だが、貴重な情報源を得られる。これは、好機だ。


 ヨハネス・ハイネスの創始者を殺せなかった場合に役立つ。


 大ぶりのガラス片が降り注いできた。その中に向かって、大地を蹴り上げる。


「っ」


 カラクリ創りの驚いた顔が眼前に迫った(・・・・・・)

 なにを驚くことがあるのだろうか。ガラス片をすべて叩き割って、肉薄しただけだというのに。

「がっは!」

 驚き固まったままの殴りやすい胴体に、拳を当てる。ただの力任せに当てるだけで、カラクリ創りは動けなくなった。

 何の技術も、スピードも、ひねりも加えていないというのに。これでは全力で殴ったなら、殺していたかもしれない。情報源なのだから加減をしなければ。

「あら。びっくり」

 詐術師が隣で銃を構えながら、微笑している。

 小口径ではあるが、近距離から撃たれたらそれ相応にダメージは受けるだろう。詐術師は一気に5回引き金を退いた。そのすべてが、胴体へと狙いをつけられていることは明白だったが、ただ直進するだけの弾では俺をとらえることはできない。

 がら空きの脇に回り込む。

 詐術師は俺に目も向けない。いや?

「私は詐術師。嘘、偽り、謀り、陥れるのが私」

 俺の足元から、唐突に地面が消える。

 いや。ここは民家の屋根の上だ。ただ、足場を踏み外してしまった。こんな失敗ともいえない失敗を。


「驚いたかしら?これが、詐術、よ」


 言葉を交わし相手を思いのままにするだけが、詐術師じゃない。


 そういって、微笑とともに拳銃をもう一度俺に向ける。足場を踏み外し、中途半端に空中にいる俺にはどうすることもできない。どうすることもできないと、思っているのだろう。

 空中に浮かんだままの俺に、3発の弾丸が迫りくる。

 俺は、空気を蹴りつける。

 上空、落ちた屋根の縁と同じ高さまで上った。

 その俺に、微笑したまま驚いている詐術師が視線をよこしてくる。馬鹿らしい、俺にとって足場がない場所などない。空気だろうと、水だろうと、俺にとっては大地と同等の足場になる。

 当たり前に、屋根に着地して詐術師の手から拳銃を叩き落とす。それだけで、詐術師はしりもちをつき動けなくなる。


 脆弱。


 いや。最近では、ここまでの攻防になることもなかった。

 俺に見つかれば、即戦闘を放棄してくる奴らばかりだった。これは、これで楽しめたといえる。言えるが。こいつらでも、この程度しか俺と敵対しない。

 いや。敵対、ともいえない。

 これでは、狩りともいえない。

 なるほど、罠がもう少し有効に動いていれば、俺でももう少し時間を割いていたかもしれないが。ここには、多数仲間を連れてきている。もしかしたら、俺が単独で来ると思っていたのかもしれない。

 これではヨハネス・ハイネスもすでに捕まっているだろう。

 殺していなければいいが。

 いや、殺していてもいいのか。

 どちらでも、いい。

 この二人も、とりあえず拘束しておこう。

 手早く失神させ、足と腕の骨を折っておく。拘束できるようなロープでも持っていればそれで縛るのだが、あいにくと手元にそんなものはない。

 手足が動かなければ、移動できない。このまま放置して死んだところで、俺としてはどうでもいい。

 さて、ほかの連中はうまくやっているだろうか?


「あんた、さいてーだな」


 元、ホテルがあった場所でカラクリ創りと詐術師を転がしたところで、声をかけられた。少し前から、気配は察知していてが手を出してくる様子がなかったので、放置していたが、どうやら、俺を観察していたらしい。

 瓦礫の山の上に目をやる。

 そこには、一人の白髪の男が呆れた顔をして座っていた。

 安定の悪い瓦礫の上では、座り心地が悪かったのかすぐに立ち上がって降りてきた。俺の隣に。

「あーあ。ひでーの。ここまで手ひどくやられたら逃げる気すら起きねーだろうぜ。あんた、さいてーだな」

 蓮っ葉な感じでしゃべる男は、気絶しているカラクリ創りと詐術師をつま先でつつきながら、俺に目を向けてくる。そして、両手はポケットの中に入れたまま、器用に竦めてあたりを見渡す。

「こんな風にしなくても、もっと効率よくあんたならやれたんじゃねーの?」 

 非難するかのように、苦笑する白髪の男。ジャケットに傷んだジーパン、シルバーのブレスレットにシルバーのチェーン。20代後半の年齢合わせた服装だ。

「なんか言えよ」

「錬金術師にして殺人鬼ハーネスト・ハートネスか。思ったよりも、若いんだな」

「ぷ。なんか、その評価はおかしくないか?殺人鬼に若いも何もないだろう」

 若い殺人鬼は何がおかしいのか笑いこけながら、俺の肩をたたく。よほど面白かったのか目に涙を滲ませている。こういった感覚は俺にはよく分からない。

「てか、あんたの方が意外だぜ。もっと警戒するもんだと思っていたが。簡単に接触を許すんだな」

 たたかれた肩を見る。なんともない。

「くく。本当に意外だよ。どうして、あんたみたいなのをみんな怖がるのかな?」

「そういったことが利かないからだ」

「は?」

「だから、お前が俺にしたかけたような技、いや、魔法か。そういった一切合切が利かないからだ。少なくとも、この外見のときは」 

 白髪の殺人鬼が俺の言葉を理解するより先に、喉元に手刀を入れる。

「っとわ!」

 驚きながらもぎりぎりでかわされた。なるほど、殺人鬼と呼ばれることはある。運動能力は人間よりも上か。

 本来、魔法使いと呼ばれるものの多くは運動ができる人間と同程度の身体能力はあるが、こいつはそれよりも上らしい。


「いきなしだな。まぁ、戦闘なんていきなし始まって、唐突に終わるもんか」


 白髪の殺人鬼はブレスレットを外しながら、慎重に俺との距離を測るように縮めてくる。思ったよりも、積極的だ。先ほどの一撃は当たれば喉を切り裂くことができた。それが、分からなかたわけではないはずだが。

 しかし、近づいて来てくれる者を牽制することはない。

「余裕かよっ」

 殺人鬼は握りこんだブレスレットを振るってきた。

「ほう」

 シルバーのブレスレットは伸縮性がある鞭のようにしなりながら肉薄してくる。これには、思わず声が出た。

「なるほど、錬金術か」

 それも、質量保存の法則を無視した禁術指定の錬金術。

「ああ!言っておくがこの程度じゃねーぜ!」

 いうだけのことはある。どこまでも伸び、迫ってくる尖った切っ先を避ける。避けながら先ほどよりも楽しめる戦闘になるだろうと思った。

 法則を度外視する錬金術。ブレスレット事態にも細工が施されているのか、次々の形状を変化させ迫ってくるだけでなく、追尾するかのように、生きているかのように不規則な動きを見せる。

 いや、本当に生きているのかもしれない。

 命の創造。

 錬金術は、そういった術式もかつては研究対象だったと聞いている。その過程で、ホムンクルスを生み出したと言われる。

 実際、あの双子も命の創造ではないが、それに近しいことを行っていた。

「・・・」

 なぜ、今あの時のことを思い出さなければいけないのか。不愉快だ。

「どうした!避けるばかりかよ!それとも、まさか呑気に様子見かっ!!」

 どうやら、先ほどの攻防を見られていたらしい。

 いいように攻撃させていたのが観察していたからだと、分かっているようだ。わかっているのなら、俺に観察の時間を与えるものじゃない。

 殺人鬼の攻撃は一切、当たっていない。すべて紙一重で躱している。

「やるじぇねーか。やっぱしあんた、うわさ以上のやつなんだな」

 何が楽しいのか、笑いながら上下左右、縦横無尽のブレスレットでの攻撃を仕掛けてくる。伸縮性があるだけではなく、本数すら変えて。

 1本が5本に、5本が12本に、12本が7本に。増減し疾駆する銀の蛇のように俺に肉薄してくる。してくるだけで、そのすべては、俺には一切届かない。

「よく、しゃべるんだな」

「あ?」

「戦闘中に、よくしゃべるんだな」

 一切攻撃が当たらない俺に、一切の加減をしていない殺人鬼はイラつき始めている。しかし、それよりも、なお楽しそうにしている殺人鬼に、ただ思ったことを口で伝えた。

「そりゃー。楽しいからな。楽しい時間てーのは、その時、その瞬間を一緒にいる奴らと共有して―だろ。だから、おしゃべりもしたくなるってもんさ!」

 なるほど、見た目以上に殺人鬼だ。

 やつにとって、これは戦闘ではなく、殺人の時間なのだろう。

 だから、楽しそうなのだろう。

 理解した。

「そうか」

 なら、もう終わりでいい。


 32本に増えていたブレスレットをすべて叩き落とし、殺人鬼の胸に手刀をめり込ませた。


「この程度か」

 なかなかだった。

 一人殺してしまったがおそらく、足を折っても、手を切り落としても構わず殺しに来るだろう。厄介な奴は先に潰しておくに限る。

 これで、監獄から脱走した囚人はすべて捕えたことになる。

 素直に引き渡してもいいが、こちらが調べてからにするとしよう。


 さて、肝心の二人は補足できたか。


 




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