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妄執

 久しぶりの投稿。しかも、続き物!このまま、終わりません。てか、ウォルガしか出てきてません。

 敵もやっと姿を見せます。少しですか。。。

 久しぶりに狩りができた。


 それは、本当に久しぶりで楽しい狩だった。ここまでの相手はそうそういない。まぁ、これはこれでいいのだが。


 大抵の奴は諦める。

 追いつかれた時点で降参するやつらばかりだったが、犯罪者という連中は違った。それが、犯罪者だからか、それともヨハネス・ハイネスに付くような連中だからかは分からないが。


 楽しめた。


 若い連中も鍛えることができた。これは行幸。しかし、生け捕りにすることを忘れてしまっていた。話を聞くに聞けない。まぁ、どうにでもなるが。このまま、死体は持って帰ろう。


 食ってもいいが、検査すればなにか分かるかもしれない。


 腹は減っていない。

 このまま報告するか。いや。ここからない行った方が早いな。ふむ。




 見つけた。

 一日かけて、所在と滞在を確認した。間違いはない。

 だが、あいつらはどうやら話し合いを希望しているらしい。可笑しな奴らだ。敵対している自覚がまるでない。まるで、俺が殺さないかのような対応をすると決めつけてるらしい。


 どうして、そう思ったのだろうか?


 奴らはすでに俺の敵だ。

 それを、どうして狩らないなどと思うのだろうか。

 獲物をどうして狩らないなどと思われたのだろうか。

 

 アレからすでに敵とみなされているというのに、俺が敵対しないと本気で信じている。


 どうしようもない。

 すでに、アレの機嫌は悪くなっている。そうした原因を、根源を根絶やしにしない理由はない。殺さない理由はすでにない。


 ふん。まあ、いい。

 殺す殺さないはその場で決めれば済むだけの話だ。

 それに、魔術を使われると厄介な奴もいる。話し合いに乗るのもいい。

 それから、決めても遅くはない。


 そう決めて、奴らが潜むホテルへと来たのだが。

「ほう」

 話し合い、という絶好の場を設けてくれている。それも、所狭しと魔方陣を書き込んだ罠を仕込んで。ホテル全体を、全て隈なく魔術として取り込んでいる。

 これが、奴らの話し合いのスタイルなのだろう。ついつい声を漏らしてしまうほどに、完成された檻がそこにある。

 これでは、危ないな。

「ウォルガさん。入るのは危険です」

「だろうな」

 部下の一人が声をかける。玄関から先、一歩でも踏みは入れば俺たちに逃げ場なくなる。しかし、それがどうした。

「3人来い」

 それだけ言って、中に入る。後ろから、しっかりと3人分の気配が続く。

 他はあたりに散開していく。やることは、皆わかっている。それでこそ、後ろを任せることができる。

 

 階段を使い上に向かう。

 エレベーターといった上等のものはここにはない。必然的に階段を使うことになるのだが、奴らがいる部屋をあらかじめ知っていることを前提として、奴らも準備をしているようだ。

 それならば、こちらとしてもやりやすい。

 廊下を渡り414号室の前に来る。中からは濃密な魔法の匂いが漂ってくる。攻撃的ではないが、歓迎されているわけでもない。

 ここで警戒しても始まらない。

 ノブをひねり扉を内側へと押す。

 そこには、一人の男と一人の女が丸テーブルの椅子に座り紅茶を飲んでいた。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ」

 左右対称に笑って出迎えられる。

 それに、応えることなく中へと入り、一つだけ開いていた椅子に座る、ことはせずに目の前の二人と対峙する。

「どうぞ座ってくれ」

「そうです。話し合いをしに来てくれたのでしょう?」

 濃密な魔法の気配が漂う中で変わらず微笑んでいる男女。

 まるで、ネジ仕掛けの人形のように。

「本物との話し合いならばそうしよう。本体はどこにいる?」

 目の前の二人に問う。

 目の前の人形に問うても答など返ってきそうにないが、ここにいないものを探すには問いかけるのが一番早いと思ったからそうしたまでだ。

 それなのに、人形は驚いたように目を見張っている。


 まるで、遊戯だ。


 魔法の匂いで、人の匂いをかき消そうと考える神経は大したものだ。

 通常ならば思いつきもしないだろう。俺たちでなければ通用しない手段だ。

 確かに俺たち(人狼)は鼻を頼りに人探しはする。するが、この程度の擬似で騙せるほど俺たちの鼻は低レベルではない。

 だからこそ、この短時間でこいつらを見つけることができたのだ。

 ふん。

 ここにいても、特に得ることはなさそうだ。

 目の前の人形は放っておいて、部屋の外へと出るため踵を返す。


「ちょっと待て。本体はここにはいないが、俺たちの声は本人だ。勘違いしないでもらおう」


 引き留めるように口を開く男。

 しかし、それに構うことはない。本体がここにいないならば、攻撃することができない。それは、俺にとって無意味だ。


「牙が届かない相手は嫌いかしら?」


 扉を閉める前、女の声がおかしそうに追いかけてきた。

「ああ」

 短く答え、扉を閉める。軋みを上げずに、閉まった。

 先ほどから、ずっとこうだ。


 音ひとつ立たない。

 軋みひとつ鳴らない。

 風のひとつ入ってこない。


 まさしく密閉された、防音された部屋の中に閉じ込められているかのようだ。

 息が詰まる。

 

「ウォルガさん」


 ついて来ていた一人、ロック・ザイナスが警戒の声を上げた。

 それに、頷き足を止める。

 互いに、背を合わせ戦闘態勢をとる。

 互いの呼吸は知り尽くしている。この程度のことは、危機でもなんでもない。初めからわかりきっていたことだ。入ることは容易でも、出ることは困難であることは、分かりきっていた。

 なら、力づくで出ればいい。この程度、なんてことはない。

 四方、上下から、壁が迫ってきていた。




「四方に散れ」

 外へとでると、俺は3人に指示を出す。辺りは閑散としていた。外に残った連中は既に、周辺にはいない。おそらく、ホテルが壊れだしたと同時にヨハネス・ハイネスどもの追跡に移ったのだろう。

 

 ホテルの壁という壁、床、天井を破壊しつくして脱出するのに、そう時間はかからなかった。年代物の建物に加え、住民はあらかじめ避難させていた。

 遠慮などする必要性がなかったため、短時間で破壊できた。

 しかし、肝心の人物を確保できなかった。

 人形といくら話したところで、拉致は開かない。


 わざわざイギリスまで来たのだ。ヨハネス・ハイネスどものを根絶やしにしたいところだな。


 そう思った瞬間、今まで居た場を飛びのく。

 上空から、ガラス片が幾片も落ちてきた。いや、落ちてきたというよりも降り注いだといった方がいいか。

 時間は夕刻。いくつものガラス片が夕日を反射し、場違いな荘厳さを作り出している。

 

 イギリスの片田舎。高い建物などそうない。だから、すぐに見つけられた。

「やっぱり、よけますか」

「残念ね」

 そこには、見知った顔、稀代の詐術師マロウネ・ハロウ、カラクリ創りジョン・マッケロウがいた。

 顔写真と詳細をまとめられた書類上でしか知らないが。そんなことはどうでもいい。どうやら、待ち伏せされたらしい。今まで気づかなかった。これは、気を引き締めないといけない。


「あら。彼方のようなモノでも警戒するね。それもいいですけれど。詐術師たる私に対してそれは禁物ですわよ?」

  

 稀代の詐術師マロウネ・ハロウ。

 彼女はその美貌であまたの人間、異種族を虜にしてきた。つややかな、ハニーブロンド、ブルースカイの瞳、赤い唇、体の線を出した衣服、控えめの装飾、そして夕日すら彼女ために輝いているかのようにその場を支配する、圧倒的な存在感。

 なるほど、これが、稀代の詐術師。世界すらも騙すと言われた女性の姿。


「狼王とここで争うことは、極力避けたいのですが。しかし、実力を見てみたいものですね」


 マロウネ・ハロウとは、対照的のカラクリ創りジョン・マッケロウが俺を見ながら、両腕に抱えている人形を撫でる。子供のほどの大きさのクマのぬいぐるみだ。

 青を基調としたスーツ、青い靴、青い髪、そして青い仮面をつけている。その仮面の奥から覗くのは、青い瞳。青を纏いながら、腕に抱えるクマのぬいぐるみは通常の色だ。

「二人か」

「ああ。不満かな?」

 カラクリ創りがクマの首をことりと横に傾ける。同時に、俺はまたその場を飛びのく。

 ガラス片がまた、突き刺さってきたのだ。

「くすくす」

 それを見て、詐術師が笑う。 

 

 なるほど、これは、面白い狩になりそうだ。 




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