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追跡者

 久しぶりの投稿になりました。

 あんまり、進んでいませんが長い目で見てください。

 フランス中心部。

 月のない夜だ。しかし、星の輝きが薄く夜空を飾っている。そんな夜の中、珍しく室内で書類仕事に精を出していたアックスのもとに、一つの報告が入った。


「ウォルガが?」


 スイスにいるとばかり思っていた狼男の動向を聞いて、少し考え込む。


「ふ~ん。まぁ。そうか」


 そして、一人納得しつつも手を止めることなく書類を片づけていく。そうでもしなければ、終わりそうにない量がアックスの目の前にうず高く積まれているのだ。

 もっとも、何回も家出をしたアックスが悪いのだが。

 

「分かった。ウォルガからの連絡があったら俺に回して。まぁ、ないとは思うけれど」


 あの狼男はめったなことでは連絡をよこさない。それこそ、死地に赴くことになっても一言も声をかけることはないだろう。

 もっともアックスに許可を得ることなく死ぬこともないのだが。


 ウォルガが動くことで、ヨハネス・ハイネスたちはどうするか、アックスは純粋に興味を持った。幹部連中が危険を冒してまで奪還した二人の魔術師たちはどうするのだろう。

 脱獄させた囚人たちはどうするのだろうか。逃げた先をヨハネス・ハイネスに選ぶのか。それとも、単独で逃亡しているのだろうか。


 いつ、俺のところに来るのかな?

 それとも、飛ばして別の場所?


「まぁ、同じことか」

 

 いずれ戦うことに違はない。

 なら、それまでに目の前の難関を超えなくては。思いため息とともに、吸血鬼の腕を炎症させようとする書類を見る。まだまだ、書類の塔は瓦解しない。

 



 アックスが筋肉痛を引き起こすであろう書類の山と戦っている時刻。

 イギリスでは、ウォルガ率いる部隊が情報収集に奔走していた。それも、自らの足で情報を集めるという方法で。パソコンや携帯といったツールを使うことなく、人づての噂を聞いて回る。


 “人”の話を拾いまわっているのだ。


 それこそ、魔法のことを知っていても直接係わることのない一般人に、脱獄囚のことを聞いているのだ。その容姿を伝え、目撃情報を探している。

 まるで刑事のように。

 実際、本物の警察手帳を使っていた。

 精巧に作られた偽造ではない。情報収集している狼男たちが持っている警察手帳はすべて本物である。なぜなら、彼らは現職の警官たちばかりなのだから。


 30人の狼男すべてがイギリス在住の警官ではないが、警察に籍を置くものたちだ。

 他国の所属である者もいるが、警官同士のトレード、または合同捜査、教育といった面で警官が他国に行くことができることを利用し、30人の警察官である狼男をウォルガはイギリスに同行させたのだ。

 もっとも、強引にねじ込んだ30人ではあるが。彼らの持つ権力をもってすれば不可能な数字ではない。そして、警官であれば武装していても問題ない。

 あらゆる場所で鼻が利き、あらゆる場所で目を光らせることができる種族。

 

 狼男、人狼。


 狼の性を持つ人であり、獣。

 彼らの前に嘘は通用しない。理性ではなく、本能で。論理ではなく、直感で。物事の本質を見抜いてしまうことができるのだから。

 そうした獣の性を持つ狼男たちが全力でヨハネス・ハイネスと脱獄囚たちを捜索しているのだ。半日ほどの時間で、脱獄囚たちの足取りを捕まえた。

 それから数時間後、国外へと逃走しようとするヨハネス・ハイネスの幹部と創始者、そして脱獄囚の居場所を突き止めるまで一日もかからなかった。

 恐るべき情報収集能力であり、鋭い嗅覚をの持つ人狼ゆえになしえる荒業である。

 まさしく荒業。

 それは、誰一人として追跡者を見つけ出すまで休むことはなかった。誰に見られているわけでもなく、誰に言い咎められたわけでもなく。


 30人。


 男女含め、30人の警官であり人狼たちは一切の休憩をとることなく、一切の食事をすることなく、一切の緊張を解くことなく、探し続けた結果なのだ。

 まさしく力のごり押しで、結果を出した。

 これが、人狼であるといわんばかりに。

 これこそが、狼であるといわんばかりに。

 獲物を狩りとる瞬間まで、全力で追いすがる獣の如く。

 彼らは、ヨハネス・ハイネスを補足した。



 とある寂れたホテルの一室。そこに、様々な人種が集っていた。アメリカ人、イタリア人、中国人、インド人、多種の顔触れがそろっていた。

 

「困った。困った」

「まさか。ここまでするか?」

「いやはや。さすが、獣は違いますな」

「飼いならされている奴が、粋がらないでほしいよ」


 そして、特徴的なフランス人。

 どこか、茫洋としていて曖昧な眼を持つ二人のフランス人は、窓の外の景色を眺めていた。


「どうします?」

「どうもしないさ。狩るまで彼らは追ってくるだろう。ならば、こちらから話しかけよう。話が通じないやつらじゃない。少なくとも、・・・ウォルガ、がでてこなければの話だけれど」

「無謀すぎます」

「いいや。この方がいい。あの狼は命令で追ってきてるだけだろ?身柄を引き渡したいはずだ。話し合いで解決できるのなら、そのほうがいい」

「獣相手に、話し合い、ですか」

「そう言うな。これも全て我らのためになる。もしかしたら、合えるかもしれないよ?」

「それは、そうかもしれませんが」

「危険は冒して行いこう」

「それでいいのでしたら」


 寂れたホテルの一室で、獣の到来を待っていた。 

 





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