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初手 終手②

 アックス視点です。あんまり、乗り気じゃない戦闘になりました。

 派手にビルを壊しましたが、本人はあまり気にしていません。反省もしていません。

 まったく、不愉快だ。不快だ。

 こんな、楽しくない戦い今までなかった。・・・・いや、あったけど。こんな、最低な戦いは久しぶりだ。


「・・・・・・お、ま、え、らーーっ」


 イライラする。ムカムカする。

 こんなもの、こんなものっ!

「俺に効くかっ!」


 吸血鬼を殺すには、白い杭を心臓に刺すしかない

 吸血鬼を殺すには、太陽の光を浴びさせるしかない。

 吸血鬼を殺すには、銀の短剣で刺すしかない。


 なんて、嘘交じりの伝説を体現している吸血鬼なんていない。そもそも吸血鬼でなくとも、心臓をやられればたいていの生き物は死ぬ。

 それに吸血鬼の始祖以外は、太陽の下を歩いても平気だ。俺の子供たち(血族)は、普通に太陽のもとにでて人生を謳歌している。


 だから、吸血鬼を本当に殺したいなら、聖別された銀で刺すしかない。


 神聖な銀でしか、吸血鬼は殺せない。それは、まぎれもない事実だけれど。だけれど、俺には半端(・・)な銀は効かない。

 聖別し極限まで精錬された銀でしか、俺にダメージを負わせることはできない。だというのに。なんだこれは。

「馬鹿にするなよっ」

 不純物でしかない、そこら辺のショップで売っているようなやっすぽいロザリオ程度で俺が、俺が!

「・・・ばかには、して、いない・・・・・やはり、きかない、・・・・・か・・・・・」

「当たり前だ!!そんなもの、俺に効かないっ。効くはずないだろうが」

 そんな、当たり前のことを確認するためにチクチクと地味にイライラする攻撃ばかりされていたのか。ロザリオをばら撒いてくたばる様な吸血鬼は、今の時代いない。

 昔なら、銀は選別されたものを持つのが当たり前だった。

 それが、現在では不純物交じりのオシャレときた。別にいいのだけれど、銀は近くにあるだけで神経が逆なでされるから嫌いだ。

 だからこいつらは嫌いなんだ。

 俺のことを知ろうともしない。吸血鬼のことも、ほかの種族のこともうわべだけしかとらえない。深く知ろうとしないし、関わろうとしない。そんなやつ、一生かかったって友達なんてできるかっ!


「もう、いい・・・。終わってろ」


 こんなことするだけ無駄だ。戦うだけ無駄だった。

 公園での一件で、面白いやつが入ったと思ったんだけれど。買いかぶり過ぎだったみたいだ。


「いイえ。まだ終わりジャないデすよ」


 いいかげん、目の前の根暗を仕留めようと近づこうとした瞬間、変なイントネーションが響いた。

 それは、声じゃなく、言葉じゃなく、歌じゃなく。


 祈りのようだった。


「?」

 不思議と不愉快は感じなかったが、その場を飛びのく。

 しかし、飛びのいてもその祈りはついてくる(・・・・・)。まるで、俺自身にすがってくるように。


「変な術」


「いイえ。術でハありません。ただノ、お祈りでスよ」

 妙な話し方をしているくせに、祈っている時の声は澄んでいる。まるで、祈りのために口があるように。でも、それがどうした?祈りなんて、どうしたところで何もできないだろ。

 実際、俺に変化はない。

「・・・へぇ。俺に祈ってるの?」

「えエ。あナタに祈ってイます」

「そう。なら、聞いてあげる」

 俺は新手に笑いかけて、ビルを砕いた。


 粉じんになるまで、粉々にする。殺すことが目的じゃない。こいつらの目に、俺がどう映るか気になった。こんなにも、馬鹿な戦いを始めたこいつらのことを知りたいと思った。

 俺が、知りたいと思った。

 今思った。ただの思い付き。いつもの気まぐれ。

 だから、目の前の二人組が俺のことを「化け物」のように見るように見ても何とも思わない。


 どうやら、俺はけっこうな「化け物」らしい。


 俺以上に酷い奴らはいると思うんだけど。その中でも俺は別格扱いを受ける。全然嬉しくない扱いだけれど、特に否定することもしていない。名前が売れることは、とりあえずいい。

 それ以上に、色々と厄介ごとを買うけれど。それは、退屈なものではない。


 少なくとも、俺にとって嬉しいものだ。


 例え、化け物を見る目で見られても。もうそれは、俺にとって恐怖ではない。

 慣れたわけじゃない。耐性ができたわけじゃない。気にしてないわけじゃない。

 ただ、俺にとって怖くなくなった。


 家族がいる。


 それが、俺の全てでも構わないほど。俺の支えになっている。だから、他の誰かから、敵からどう見られようと、俺を理解してくれる者がいる限り、俺に恐怖はない。

 昔は違ったけれど。

 まぁ。その話はおいおい。


 ビルをあらかた崩し、粉じんにしたところで、二人が距離を取った。

 まぁ、とるだろうな。

 近づいた瞬間、粉々にされたくないだろう。でも、それじゃあ、つまらない。


「どうした?もう俺には祈ってくれないのか?」


 俺はもっとやりたい。もっと遊びたい。

 こんなんじゃ、つまらない。いつも過ぎる反応なんて、もういい。


「友達になりたいんだろ?俺は絶対にごめんだけれど、そんな離れてたんじゃ話もできない」


 近づいてこいよ。お前らから。

 そうすれば、話ぐらいは聞く。聞いてやる。聞いといてやる。だから、


「っ」「!」


 俺が一歩近づいたら、二人は三歩下がった。

 まったく、こっちから歩み寄ってやったんだから。そんな反応するなよ。

「傷つくじゃないか」

 肩をすくめる。どうやら、戦闘不能のようだ。いや、戦意消失といったほうがいいか。


「じゃあ。自己紹介しあうっていうのはどうかな?事後紹介になるけれど」


 ・・・無反応ですか。

 まぁ。そうだろうね。わかっちゃいるけれど、そんなに俺は怖いか?ただ、60回建てのビルを崩壊させた程度でこんなにも怖がられるものだろうか?

 100階とかじゃないんだから。桁が一個下だし、そんなに労力は使わない。

 こんなんじゃ、ほんと友達なんてなれない。


「・・・おもった、いじょう・・・・・・」

「思っテイた、以上だ」


 お!ようやく反応あり。そうこなくちゃ!


「我々でハ、相手になリマせんカ」

「・・・まったく、はが、たた、・・・ない・・・・・くやしい」


 うん?あれ?どうやら俺、怖がられてたわけじゃないんみたいだ。なら、どうして逃げる?


「コこは、撤退させてモらいまス」

「・・・たいさん、・・・・・」

「おい。こら。そんなこと、いつ許した?」

 俺まだ全然やりたりないぞっ。

 てか、これからじゃないか。まったく、攻撃らしい攻撃をお互いしていないじゃないか。ロザリオぶつけられただけだし。俺からも全く手を出していない。ビルには出したけど。

 こんなんじゃ、今夜の戦績はゼロじゃないか!

「次は、この体でハないモノで挑まセテ頂く」

「・・・とりかえて、つぎを・・・・・・・・・」

 まるで呪文のような言葉を残して、逃げていった。俺も、特に追わなかった。逃げ足が早いわけじゃなかったけれど。追う気になれなかった。


 ・・・どうでもいいけれど。本気じゃなかったんだ、次は覚えていろよ!的なセリフを普通に言えばいいのに、妙にひねったことを言って失敗してる感じに聞こえたな。さっきのセリフ。

 いいんだけれどね。

「印象には残りにくいな~」

 特徴なのは話し方だけだった。それだけで見分けをつけてるなんて、今時古いし。まぁ、味があっていいとは思うけれど。


「なんだかな~。つまんない夜だった!」


 夜はいつでも最高じゃないと。

 世界はいつでも最高なんだから。


 次は、もっとましな奴と遊びたいな。





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