初手 終手
ほとんど戦闘シーンはありません。
ただ、レイドとシェーンが永遠としゃべっている感じに。。。
流れ星が、きれいだ。
「たーいーちょーう。現実逃避しないでくださいっすよ」
ああ。こんないい夜に、現実逃避をしないといけない俺。寂しすぎだろう。そして、突っ込み役がこいつか。
「黙れ。現実からの逃避なんて、今時ガキだってしない」
「いやー。すると思うっすよ。この現実からの卒業!っす」
「・・・なにネタ?」
相変わらずよくわからない話をするやつだ。
「これだから、オタクは」
「いやいや!それ、差別用語っすよ!てか、さっきのオタク的な発言じゃないっすからね!」
シェーンは言われない非難を浴びせられたように、俺が言ったことに猛反論してきた。オタクは、なになに的な。どうでもいい。
「うるせー。ちょっとは静かにしろよ。もうそろそろ時間だ」
「はいっす。でも、あれっすね。時間っていったって、主様が動く以上、時間に意味あるんすかね?」
「ねーだろうなー」
それこそ、時間稼ぎにもならないだろう。
新人が搖動として動くのだとして、なら、主動は誰だって話だ。
少なくとも、シャーバは俺たちにそんな話一言だってしていない。まったく、誰が動くのかは作戦の基準となるのに。それなのに、その「誰か」は指名されていない。
今回の作戦はシャーバの部下が指揮しているらしいが、あいつが絡まないはずがない。
つまり、はじめから主様が動くことを前提として、立案されている。
だから、新人が搖動でもよかったのだ。
大本命が控えてるんだから。
「まっ。なるようになるっすよね」
シェーンは気楽そのものだが、俺はそこまで楽観できない。少なくとも、ヨハネス・ハイネスどもが素直に搖動に乗ってくれるとは思えないんだが。
「ところで、レイドさん。今回の作戦立案、シャーバさんの部下っすよね?一人は有能で、一人は優秀っていう」
「は?・・・いや、一人は有能で優秀、一人は・・・・・・・なんだろうな?意外性?」
「なんすかそれ?キャラ設定にしては、曖昧っすよ」
「知るかキャラ設定なんて。でもいえることは、二人そろえば、シャーバ並みの策士家らしい」
「二人そろえば?・・・策士が、二人そろったところでなんか変わるんすか?」
「変わるぜ」
あいつらは、二人で一人だ。
まるで性格は違うし、性質は違う。ただ、資質は同じだった。
二人を分けているのは、何もない。根本的に同じなんだ。あの二人は。だからこそ、まるで、正反対なのにお互いを補完し合っている。
「双子みたいっすね」
シェーンがそういうのも無理はない。実際、双子のようなものだろう。違いだらけだが、根本は同じ。変わることのない、精神が同じなら。まぁ、双子であっているだろう。
「でも、今回ばかりは危なくないっすか?」
「いいんじゃねーか。初っ端でしくった方が何かと取り返しがつきやすい」
「・・・シャーバさんは、絶対そんなこと考えてないっすよ」
「だろうな」
いつも完璧を目指すあいつなら、そんな失態を犯した時点で速攻で蹴り出すだろう。まるで容赦を知らないあいつにかかれば、鼻っ柱の強いアルティナでも素直に引き下がるしかない。
「さて。時間だ。無駄話はこれでお終いだな」
「そうっすね。今日は、きっとこれでお開きっすよ」
何もしていないのに、こんなにも終わりを感じるだなんておかしな感覚だ。
まるで宴会の後のように、すっきりしている。
主様にかかれば、物の数秒程度で終わるだろう。
・・・いや。たぶん、気が済むまでいたぶるだろうから、時間はかかるかもしれない。けれども、お終いだ。
本当に、始まってしまえばあっけないというか。なんというか。
主様が通った後には、何もなかった。
きれいなものだ。
てっきり、あっちこっち破壊して進むものだと思っていけれど。
「きれいっすね」
新人どもはうまく下っ端連中を誘い出したが、どうやら幹部クラスが来ているらし。暇なのか?
「人数すくねーくせに」
ヨハネス・ハイネスは数年前に瓦解している。それが、表向きではないことは知っている。主犯が生きながらえているとしても、組織自体はすでになくなっている。はずなんだが・・・。
「ほー。あいつらよくやるじゃないすっか。まぁ、俺っちが教えたから当然っすね」
「戦場には?」
「まだ出してねーっすよ。当たり前じゃねーすっか。あいつら、死体見るの初めてじゃないっすけど、人殺しと戦うことは初めてっすからね。まだ、出せないっす」
そうか。
人数が多いだけでどうにでもなりそうだ。それに、いざとなれば、第2部隊と第4部隊が後ろに控えている。万が一はない。
万が一はないが。
「きれいっすね」
シェーンが同じことを繰り返す。それは、そうだろう。少なくとも、戦闘をしている場所じゃない。外では、激しい銃撃戦と剣劇の音が聞こえてくるが、どうせ圧倒している。
チンピラに銃と短剣を持たせた程度でどうにかなる相手じゃない。それが、例え新人でも。
だから、問題は中身だ。
ヨハネス・ハイネスが拠点の一つとしているビル。それが、こうもきれいなのはありえない。何かあると考えるのが普通だ。
「撤退するぞ」
「はいっす」
だが、何かあってからでは遅い。
俺たちはすぐに引き返した。幸い先行隊は俺とシェーン、それに部下が数名だ。すぐに呼び戻して、このビルから遠ざからなくては。
ここまで、何もないのはおかしい。
きれいすぎるし、なにより何の音も響いてこない。
「主様が主動じゃなかったんすか?」
「だからこうなってんだろ」
嫌な予感はしない。特に何かあるわけじゃない。けれど。
「逃げとかねーと、巻き込まれるぜ。少なくとも、新人は何がなんだがわかんねーだろうな」
多分。主様はすでに敵と、ヨハネス・ハイネスの幹部と会っている。接敵しているだろう。
それが、まずい結果を起こすことになる。
そんな気がする。
危険なことでじゃない、けれど、危ないことに変わりはないだろう。おそらく。
俺たちが撤退したあと数分して、ビルは粉砕された。
内側から粉々になっていく。
下部からではなく、上部から。粉々になっていく。それが少しずつ下に降りて、最期には粉じんを空に巻き上げながら、瓦解した。
瓦解はしたが、瓦礫の量が尋常ではないほど少ない。まるで、ほとんど粉じんとなって風に飛ばされたように。
実際、粉じんになって風に吹かれていった。
そのせいで、一瞬だけ空が雲に覆われたように見える。
なんて破壊力だ。
「なん、なんで・・・?」
新人のナタンが呆然とつぶやく。
そりゃそうだろう。さっきまでなんともなかったビルが、内側から粉々になったんだ。音もなく。
「そりゃおまえ」
まったくもって、分かりきったことを聞く新人に、俺たちは丁寧に教える。
主様を怒らせるからだろ
俺たちは、全員同時に新人三名に教えた。