はじめましての初め
また、新キャラ登場です。
今回は敵の視点からの物語です。名前だけですが、外見はお好きに想像してください。ヨハネス・ハイネスの概要も紹介しています。
世界はどうやったって平和にはならない。
世界はどうやったって戦争は続かない。
明日はあるけれど、今日はすでにない。
「・・・ああ・・・・かれは、いまごろ、どうしてますかね・・・」
ニューヨークの一端。
眩いばかりの光が交差し、うっざたいばかりの騒音が響いている。まるで、死に逝く様のように馬鹿馬鹿しくもきれいな夜。
「さて。今日、我々のトコロに来るのハ、新人ばカりだ。来ているカどうかもアヤしい」
妙なイントネーションでしゃべるベックは陽気に笑っている。笑っているけれど、これは、決して楽しいからじゃない。その逆で、つまらないからだ。つまらないと笑うおかしなやつと、俺はどうしてここにいるんだろう。
「・・・。こないなら・・・・・・・かえろう・・・」
こんな荒んだ都市に、一秒だって滞在したくない。
あの最悪と、戦えないなら、ここにいる意味はとくにない。
「ここ以上ニ荒んでいる、中東カらきたクせに、なにいってルンだ」
「・・・くうきが、よどんでいる、・・・・・ところは、腐っている、から、だろ・・・・・・・?」
「腐ったトコロは嫌いカい?」
「・・・腐った、したいが、すきな・・・・・やつは、いない・・・」
腐乱死体なんて、見飽きているけれど、見たいとは思わない。視界に入ってくるから、つい、見てしまうだけで。それ以上は、ない。
ああ。帰りたい。帰りたい。
「ほーむに、帰りたイなら、新人を殺さズ連れ帰ればイいノだ。それさえ、済メば帰れルぞ」
「・・・しんじん。・・・・」
「他を捕獲するナンテこと、不可能だカらな。あいツラには、常識はない。まっタく化け物ぞろイだ」
そもそも、吸血鬼を捕まえること自体非常識だ。そんなことをすれば、始祖から狩り出される。
絶対の力と権力を持つ吸血鬼の始祖。それを敵に回して無事で済むはずない。
それでも、俺たちは敵に回している。好き好んで、敵に回している。決して、敵ではない存在を。
「くく。だカら、楽しんダろ」
そう楽しい。今まで、多くの組織を壊滅し、吸収してきた俺たちが。後ろ指を指され、軽蔑され、侮蔑されてきた俺たちが、吸血鬼を取り込むことができたなら。それは、なんて―――
「素晴らシイじゃないカ。俺たちは、もっと多クノ者たちト友情を築くことガできる」
外れ物の俺たちが、ようやく認めてもらえるかもしれない。
それは、なんて素晴らしい。
きっと、俺たちはこのために戦い続けてきたいんだ。
偽りの友情に、ついに俺たちは勝つんだ。
すぐに裏切りにつながる友情を、断ち切ることができるんだ。
吸血鬼の血の結束を取り入れることができれば。
何よりも素晴らしい、友人たちをつくれる。
もう、裏切られるなんて御免だ。信じていたモノを恨むことはなくなる。この苦しい思いも消えてなくなるんだ。
「・・・ああ・・・・。・・・やっぱり、かれには、きてほしい、・・・・・な・・・」
吸血鬼の始祖。
世界最古にして、最悪の吸血鬼。
彼の子供たちを捕獲することができれば、俺たちのもとに来てくれる。
それは、一歩。
はじめの一歩は敵同士でもいい。そこから、友情は芽生えてくる。
漫画やアニメを見ていればわかる。あれは嘘じゃない。現実だ。実現可能な素晴らしいことだ。だから、俺たちもはじめは、はじめましての初めは敵同士でいい。
そこから、友情を築いていければいいんだから。
「・・・・・・・・・かれと、ともだちになれば・・・・おれみたいな、やつにも、じまん・・・・する、ことが、できる・・・」
「そうダな。俺たチにも、よウヤく友情が手に入ルわけだ」
早く来ないかな。
敵として、はじめましてを初めよう。まだ、俺たちはお互いの顔も知らないんだから。
ヨハネス・ハイネス
裏切りと友愛の組織
かつて、世界中の組織同士を戦わせ、最期には吸収しようとした組織。
裏切りを仕掛け、絆を弄んだ最低の組織。
この世に友情など存在しないことを、証明した組織としも言われている。その手口は実に巧妙。
裏切りを推進し、催促する。ただ内に抱える火種に、火をつける行為を好き好んで行ったのだ。まるで、遊びだった。まるっきり、火遊びだった。
どこにでもある、組織の対立関係。それを煽った。それだけで、壊滅してしまう組織を、友情がないと決めつけ、周りから孤立させ、己の懐に入れた。
それを、仕掛けたものであると露とも漏らさずに。
それもそのはず、それは狙いではない。組織そのものを大きくしようとは、していなかった。ただ、ヨハネス・ハイネスは知りたかったのだ、友情が存在するかどうか。
愛が実在するかどうか。
“ヨハネス・ハイネス”
ただ純粋に、真理を探究しようとした、二人の魔術師。二人の心理学者。
それが、組織の始まり。
世界中から嫌われ、魔術師教会から壊滅させられた組織。実際、教会は秘密裏にかくまっていたのだが。それは、類稀なる魔術の素質をもつ魔術師を二名も死なせることを良しとしなったからだ。
魔術師は、プライドが高い。
魔術存続のためには、手段を択ばない。それが、他に類を見ない魔術を扱える魔術師を生きながらせた理由。
貴重な魔術を失うよりも、二人を拘束して、使用した方がいい。
後継者とて現れないだろう魔術ではあるが、貴重であることに違いはない。
ならば、少しでも技術を残すため、ヨハネスとハイネスを拘束し、魔術開発を行ってもらう。その方が、実例が残る。それが、重要だった。
例え、アックスからの、絶対的な吸血鬼からの命令を無視しても。
ヨハネス・ハイネス。
有能な魔術師にして、異端たる【魔法使い】。
その組織に属するものも、また、異端。