新人ミーティング
今回は、3人の新人吸血鬼のお話です。戦いのとき、家族の絆とは!?といったことではありません。アックスのテンション、徐々に上がっています。
みな疑問に思ったことはないだろうか。
なぜ生きているのか?
と。
私にとって、それは重大な疑問だった。
そう、だった。
私には、今の私には、そんな疑問はすでに疑問ではなくなっている。
だけれど、大半の人間はそれを疑問とするものではいないでしょ?
なぜ生きているのか?なんて、思春期に少し思うだけで流されてしまう、軽いもの。そんな軽い思いに、私は20年かけて答を探した。
軽い疑問の答えを、20年の歳月をかけて、それこそ、命を懸けて探していた時期が、私にはあった。
20年かけて探した答えは、一人の吸血鬼によって解決した。
氷解、してしまったといってもいいわ。
固く、凍えてしまってとても解けないはずだった、私の中の疑問は解けて無くなった。
それに少しだけ淋しく思ったけれど、心地よい暖かさがどうでもよくしてくれた。
答をくれたのは「カルクス」。
彼が私に生きる意味と、生きている意味を教えてくれた。
「さて、さて。今日はいよいよ、君たちの初実践、いや、初実戦だ!はりきって、頑張っていこう!」
そう言って、主様は右腕を楽しそうに突き上げた。
私は、その姿に拍手を送る。なんて輝いているのかしら。
「反応違う」
そんな私の隣で、ぽつりとルカがつぶやいた。スイス出身の彼は、広大な自然の中で生まれ育ったとは思えないほど、暗い顔をしていつも俯いている。
くすんだ茶の髪に、曇ったグリーンの瞳。どこを、どう見ても生気ある生き物に見えない。こういう暗いやつがいるから、私たち吸血鬼が暗い生き物だと思われるのよ。
まぁどうやら、子供のころ虐待を受けていたらしいけれど。それにしたって、今のルカは生きている感じが薄い。
30歳近い外見だけれど、実際は栄養不足により年齢以上に年を取って見えている、らしいわね。直接聞いた話ではなく、彼の親友のナタンから聞いた話だから本当だとは思うけれど。
フランス出身ゆえかナタンは人がいい。
良い意味と、悪い意味で人がいいナタンはルカのことを何かと気にかけている。
「うーん。いい反応!やる気出てるみたいだね。さて、君たち三人だけが実戦を積んでいないということで、今回いの作戦では、重要な役割をしてもらいます」
「それって、まる逆じゃないですか!?」
主様の声で、私はさらにやる気を出したが、どうやらナタンは違うらしい。
くっせ毛の金髪に青い瞳を持つ彼は、軟派男子にみえる。実際、軟派ね。女の敵よ。
「逆じゃありませんー。逆様でもありませんー。さて、最高ランクの任務。初任務か、わ、敵の搖動です」
私はさらに主様に拍手を送る。
なんて、光栄だろう。
「無理です」
でも、ルカは迷惑だと言いたげに、主様からの任務を拒絶した。
私は、ルカをにらむ。
なんてことを言うのよ。もし、これで任務から外されて、今回も実戦に挑めないってことになったらどうしてくれる。まったく、何の役にも立たない足手まといのままでいいって言うき!
「無理じゃないよ。無理なことを俺が言っても、それは、無理にならないから安心して」
そうだ。主様からの指示がたとえ無理難題、無理無謀なことだったところで私なら関係なく実行することができる。
「どういう意味ですか?」
「ナタンは結構、意味とか聞きたがるよね。そんなに意味が知りたいなら、この任務をやってみたらいいよ。答がわかるから」
「・・・」
そうだ。そうだ。
何でも主様が答えてくれると思うな!
どうやら、今回はきちんと任務につける。
私はやっと、主様に尽くすことができる!
「ラウラは、主様ラブだね」
主様からの初任務の説明を直接聞けて、幸せ絶頂の時にナタンに声をかけられた。
ルカは壁を背に座っている。いや、あれじゃあ、壁と一体化してるっていったほうがいいわね。
「ええ。大好きだもの」
私は、横目でルカの様子を見ながらナタンに答える。
そんな私の答えに、ナタンは眉をしかめて、言いにくそうに口を開いた。
「俺も好きだけれど。ラウラは、なんて言うか・・・依存じみてるよ。気づいてた?」
口を開けたり閉めたりしてようやく出た言葉は、実にくだらないものだった。
「それがどうしたの?依存がいけないっていうのかしら?」
「そうじゃないけれど」
極度の依存は、自分の身を滅ぼすよ
その言葉に、私は冷笑で答えた。
「あら。15歳のボクにしてはよく分かってるじゃない」
ナタンの15歳にしては小柄は体が、少しだけ固まるのがわかった。
彼には彼なりの15年間の人生がある。
その中身を私は知らない。そして、彼は私の人生の中身を知らない。
それでいい。今までの過去をどう語ったところで、今が変わるわけじゃない。昔の彼を知ったところで、今の彼を理解することは私にはできない。
30後半の私とじゃ、きっと何もかも理解しあえないわ。これは、年齢が離れすぎているからじゃなくて、生きてきたこれまでの私の37年間と、ナタンの15年間、そしてルカの28年間はすでにリセットされている。
私たちは吸血鬼。
吸血鬼として生まれ変わった私たちは、すでに別人だ。
だから、お互いのことを知らなくていい。
いや、これからお互い家族として新しい自分を作っていく。
だから、自己紹介は名前だけだった。
家名はお互い名乗らなかった。
私たちは家族だ。家族だから、支えあうのは当たり前。心配するのは当然だろう。
「でも、ありがとう。気にしないでね。私、惚れた男には貢ぐタイプなの」
「そうだと思った」
ナタンは苦笑いしながら答えた。
私たちは家族だ。だから敬語はなし。お互いが言いたいことを言う。
そして、お互い支えあって生きていく。そう私たちは決めた。
「ルカ。こっちにいらっしゃい。私たちなりにどう行動するか決めておかないと」
「いいけれど。俺は、乗り気じゃない」
「見ればわかるよ。でも、今回の任務、いえ初任務、きっと楽しいよ」
初めて同士の家族。
これから、家族会議をして臨む戦場にはいったい何が待ち受けているのかしら。
胸が高鳴るのを止められない。